350話 安全確保と潜伏生活3
帝都から見て南西にある山の洞窟へと逃げ込んだ翌日、俺は日の出と共に目覚めた。
もっとも、洞窟内は光量を落とした魔術具の光が照らすだけで、陽の光など見ることは出来ないのだが。
上体を起こし、傍らへと視線を移す。視線の先ではシャルロットとアメリア、エリーゼ、そしてイルムガルトが毛布に包まり、身を寄せ合うようにして眠っていた。
暖気を生み出す魔術具があるとはいえ、気候のせいか少し冷える。より良い睡眠のためにも、もう少し毛布が欲しいところだ。
普段は俺に寄り添うように眠っているフィリーネも、今日ばかりは少し離れたところで眠っている。規則正しく上下する胸を見て、俺は安堵の溜息を洩らした。後ほど、傷の具合を確認しよう。
その向こうでは、昨日と同じ体勢でクリスティーネが眠っていた。もしもクリスティーネが夜中に起きていれば、俺達に何らかの行動を示していたことだろう。それがないあたり、この少女は昨日からずっと眠っているようだ。
俺は溜息を一つ吐いてから立ち上がり、洞窟の入口へと向かう。そうして、外の様子を眺めてみた。
洞窟の外は、昨日あれだけ降り続いていた雪もどこへやら、天は雲一つない快晴を示している。脛の辺りまで降り積もった雪面が、キラキラと朝日を反射していた。
ざっと見回す限り、周囲に人影はなさそうだ。雪面を見てみても、人どころか獣すら通った跡はない。それを確認してから、俺は洞窟内へと引き返す。
普段であれば朝の訓練をするところだが、洞窟内はまだそこまでの広さはない。拡張しようと大規模な魔術を使えば、皆を起こしてしまうだろう。かと言って、外で体を動かすと周囲を荒らしてしまう。
仕方がないので、訓練は諦めて内装に手を付けることにした。
まずは洞窟の入口だ。入口と広間の間は折れ曲がった通路にしており、風が吹き込まないようにしてはいるものの、やはり外気は入り込む。
そこで、広間の入口に仕切りをつくることにした。
本当は木製の扉でも設置できるのが一番なのだが、さすがに用意するのは難しいだろう。そこで、俺は簡単な方法を試すことにした。
まず、広間の入口の両脇上部に、土魔術で突起を作り上げる。続いて、そこに木の棒を渡した。その木の棒に厚めの布を被せれば、簡易的な仕切りの出来上がりだ。これだけでも、外からの冷気を防いでくれることだろう。
次に俺は、広間に土魔術でテーブルと椅子を用意した。食事をするにしても、寛ぐにしても、このくらいは最低限必要だろう。
それから壁際には腰くらいの高さの台や火を使う場所、換気口や水を溜める石桶などを用意していった。これで、食事の用意もできるようになった。
そうこうしているうちに、一塊になって眠っていた四人が目を覚ましたようだ。
「おはようございます、ジークさん」
「あぁ、おはよう。よく眠れたか?」
「はい、とっても」
どうやら四人とも、しっかりと睡眠は取れたようだ。昨日はシャルロットが多少魔力を使用したくらいなので、この四人に関しては心配ないだろう。
残すはクリスティーネとフィリーネだ。二人はどうかと様子を見に近寄ってみれば、クリスティーネは相変わらずなものの、丁度フィリーネが目を覚ましたところだった。
「おはよう、フィナ。調子はどうだ?」
「んん……ジーくん、おはようなの。体は……変わってないの。全身痛いの」
そう言ってフィリーネは、少し身を起こそうとするような動きを見せる。それでもすぐに顔を顰めて、小さく溜息を一つ吐いた。どうやら、まだ体を起こすことは出来ないらしい。
俺はフィリーネの傍に片膝をつくと、その止血帯に覆われた片手を取った。
「フィナ、治癒術を試してみよう。少し傷むかもしれないが、我慢してくれ」
白翼の少女にそう告げ、俺は少女の腕に巻かれた止血帯の一部を外す。止血帯の動きに傷口が引っ張られるのだろう、フィリーネは痛みに耐えるような表情を見せた。
止血帯には血が滲んでおり、その下の柔肌には依然として痛々しい傷が無数に残っている。この止血帯にも、治癒を速める効果が付与されていたはずだが、やはり効果はないらしい。
俺は魔力を練り上げ、治癒術を行使した。フィリーネの体が白い光に包まれるが、やはりと言うべきか、傷口には変化はない。
魔毒が抜けきるまでには、もう少し時間が必要だろう。
「やっぱりまだ無理か……悪いなフィナ、もう少しこのまま寝ていてくれ」
「ん……わかったの、大人しくしてるの」
俺は少女へと一つ頷きを返し、軽くその頭を撫でる。
それからシャルロット達の方を振り返った。
「皆、朝食の用意と、フィナに薬を塗り直して、止血帯を巻きなおしてくれるか? その間に、俺はもう少しこの中を整備するから」
「それなら、私はフィナの手当を担当するわ。料理は、その、あんまり得意じゃないから……」
俺の言葉に、イルムガルトは少し顔を逸らしながら答えた。どうやら、料理は不得手らしい。
確かに、日頃から俺達の役に立てないことを、少し気にしている様子のイルムガルトが、もし料理が出来るのであれば、エリーゼのように普段から手伝ってくれていただろう。
「私も手伝うわ、イルマ。火加減って、どうしても苦手なのよね……」
溜息を漏らしながらアメリアが続く。そう言えば以前、宿で雑談をしている際に聞いた話だが、アメリアは料理をすると何でも焦がしてしまうと言っていた。火属性の魔法は得意だが、料理に使う火の加減調整は苦手らしい。
「それじゃシャルちゃん、私達でご飯の用意しよっか」
「はい、よろしくお願いします、エリーゼさん」
そうしてフィリーネの手当てをアメリアとイルムガルトに、朝食の用意をシャルロットとエリーゼに任せ、俺は再び洞窟内の整備に手を付け始めた。
広間の奥の方に短めの通路を造り、その奥にもう一つ部屋を用意する。こちらを寝室にするつもりだ。広間の方では、話し声が気になってゆっくりと休めないだろう。
形を整え、床に厚めの毛布を敷き、手当の終わったフィリーネとクリスティーネを運び込む。扉代わりの布の仕切りを用意する頃には、丁度食事の用意が出来上がった。
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