343話 半龍少女救出作戦1
「皆様、本気で実行されるのですか?」
豊かな金色の髪を持つ少女、エリザヴェータが不安そうな表情で口にした。
俺達は今、城の敷地と町との境界である、城門の傍へと来ていた。時刻は夕方頃、赤い陽の光に照らされ、空から舞い散る雪が茜色に染まって見える。
ただ歩くには不向きな悪天候だが、これが吉と出るか、凶と出るかはまだわからない。
「あぁ、エルザには悪いが、クリスは攫わせてもらうよ」
今日は、クリスティーネとレオニードの結婚式が執り行われる日だ。俺達は、大聖堂に来るはずのクリスティーネを、奪い返すことにしたのである。
俺の言葉に、一も二もなく賛成したのはシャルロットとフィリーネ、それにアメリアの三人だ。三人ともクリスティーネとはそれなりに長い付き合いのため、俺と同じ気持ちなのだった。
少し悩んだ様子だったのはエリーゼだ。エリーゼは、クリスティーネと顔を合わせたのも数日くらいなので、その反応は決して不自然なものではない。
だが、俺やアメリアの話を聞いて、すぐに賛同してくれた。
最後まで渋っていたのはイルムガルトだ。彼女も、クリスティーネとの付き合いはエリーゼと同程度である。
クリスティーネを奪い返すようなことをすれば、確実にこの国の騎士団と敵対することとなる。そうなれば、彼女の故郷へ帰るという目的も、達成が難しくなるのだ。
それから少し口論のようにはなってしまったものの、俺達の話を聞き、最終的には折れてくれた。どうやら、これまで俺達に世話になり通しだったことを、気にしているようである。
さらに、ただついてくるだけでなく、何か出来ることがあれば協力すると約束までしてくれた。
「その代わり、王都までは絶対に連れ帰ってもらうわよ」
丸め込まれたのが不服だったのか、少し膨れっ面でそう口にした。
元よりそのつもりだったので、特に変わりはない。
そうしてクリスティーネの奪還を決めた俺達は、城を去ろうとしたところで、エリザヴェータに見送られているというわけだ。
「私は、その、構わないんですが……ただ、レオニード兄様がどう反応するか……」
「まず間違いなく、追われることになるだろうな」
花嫁をみすみす見逃すということもないだろう。皇子という立場上、自ら追うということはなさそうだが、騎士達に俺達を追うよう指示するはずである。
俺達は何とか、町の外へと逃れる必要があるということだ。
「すみません、もしそうなってしまっても、私では止めることは出来ません」
「わかってるよ。エルザにも立場があるからな」
俺達を城の敷地内に招き入れ、クリスティーネが西棟にいることを教えてくれた。さらに、レオニードと交渉をしてくれて、結婚式の日時まで教えてくれたのだ。
本来であればエリザヴェータは、俺達が今からしようとしていることを、レオニードに告げるべきなのだ。俺達のような部外者と、身内であるレオニードのどちらを優先するかなど、比ぶべくも無い。
そうしなかったのは、クリスティーネ自身が、レオニードが何人もの奴隷の女性と結婚することを、良くは思っていなかったこと。そして、俺達に救われた恩があるということだった。
そうでもなければ、俺達は城の外で未だに、クリスティーネをどう救い出すかを考えていたことだろう。
「本当に私、碌にお礼も出来なくって……」
「クリスの事を教えてくれただろう? それだけで十分だ」
元々俺達はこの帝都まで、クリスティーネを助けるためだけに来たのだ。その途中、エリザヴェータを魔物から助けたのはたまたま通りかかったからで、別に見返りを求めてのことではない。
「泊めてくれて、ありがとうございました」
「短い時間だったけど、楽しかったの!」
シャルロットが両手を揃えて頭を下げ、フィリーネは手と一緒に翼を広げて見せる。
城の東棟での暮らしは、随分と恵まれたものだった。
出される食事は最高級のもので、寝具は町で一番高い宿のものよりも寝心地が良かった。訓練をするだけのスペースはあり、汗を流す浴場は広く、知識を付けるのに最適な書庫まであったのだ。
しかも、その全てを無料で使わせてもらえたのだ。これ以上に良い待遇など、他にないだろう。
後はここに、クリスティーネさえいれば言う事はないのだが、と何度も思った。彼女がいたなら、ここでの生活もより楽しめたことだろう。
ただ幸いなのは、彼女が第三皇子に連れられて行ったということだ。しかも、レオニードの妻にされそうになっているという。
それならば、少なくとも普通の奴隷のような、酷い待遇を受けてはいないことだろう。自由には外出できないだろうが、せめて大好きな食事だけでも、楽しんでいてくれていればいいのだが。
「皆さん、改めまして、私を助けてくださってありがとうございました」
そう言って、エリザヴェータは優雅な礼をして見せる。豊かな金色の髪が、動きに合わせて大きく揺れた。
「エルザだけでも無事で良かったよ」
「エルザさんも、お元気で」
「エルちゃん、今度外に出るときは気を付けるの!」
口々に別れの言葉を告げれば、エリザヴェータは少しはにかんだような笑みを返してくれた。そこに若干の寂しさのようなものが混じっているのは、俺の目の錯覚ではないだろう。
エリザヴェータはこの国の姫君だ。関わりのある相手は基本的に身分の高いものだろうが、それでも身分差というものはあるだろう。俺達のように、気安く接すことのできる相手というのは、なかなか稀だったはずだ。
クリスティーネを助け出した暁には、報告も兼ねてもう一度会いたいところだが、難しいだろうな。
出来るだけ相手に情報を与えないように奪い返すつもりだが、例え成功したとしても、クリスティーネのことは向こうに知られているのだ。城の門に出向いてエリザヴェータに会いたいなどと言えば、騎士に取り囲まれる結果となるだろう。
それから俺達は、控えめに手を振るエリザヴェータに背を向け、城の門へと向かい始めた。歩きながら、腰に吊り下げた剣の感触を確かめる。
「さて皆、ここからが本番だ。気を引き締めて行こう」
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