340話 半龍少女救出会議2
クリスティーネの身柄について、第三皇子のレオニードと話すことが出来た。そんな話をエリザヴェータから告げられれば、詳しい話を聞くより他にない。
そのような理由で、俺達は東棟の広間へと集まっていた。
広間には俺達とエリザヴェータの他に、蜂蜜色の髪をした綺麗な女性の姿がある。侍女服を着ているということは、エリザヴェータの側仕えなのだろうか。腰の前で手を揃え、金髪の少女の横に控えている。
「それで、エルザ、どうだったんだ? レオニード殿下と話したんだろう?」
全員が椅子へと腰かけたのを確認してから、早速とばかりに俺は話を切り出した。
その俺の問いを受け、エリザヴェータは少し困ったような表情を見せる。
「その……結論から申しますと、レオニード兄様はクリスティーネさんとの結婚を取り止める気はない、ということでした。すみません……」
「そうか……」
申し訳なさそうに頭を下げるエリザヴェータを見ながら、俺は腕を組む。どうやら、少女の説得は失敗に終わったようだ。
そもそもの話、既に十名以上もの奴隷と結婚をしている相手が、ちょっと話をしたくらいで考えを変えるわけがないのだ。とは言え、現状ではそれくらいしか、クリスティーネを取り戻す方法がない。
「エルザ、やはり俺達がレオニード殿下と、直接話すことは出来ないだろうか?」
「それは……すみません、無理だと思います」
「それなら、もう一度エルザから頼んでみてくれないか? 何度も頼めば、こちらの本気も伝わるかもしれない」
「そう、ですね。もう一度、私から話をしてみましょう」
レオニードと直接話す機会さえあれば、クリスティーネが俺達にとって、どれだけ大切な存在であるかを伝えることが出来る。実際に言葉を交わせさえすれば、何らかの譲歩を引き出すことだって可能だろう。
けれど、話すこともできないのであれば、手の打ちようがない。エリザヴェータからもう一度話をしてもらうにしても、それでレオニードが考えを変える保証もない。何か、もっと確実な手立てが必要だ。
俺は何か方法はないだろうかと考え、一つ確認を後回しにしていたことを思い出した。
「そうだ、エルザ。クリスの居場所はわかるか?」
これまで、クリスティーネが城の敷地内にいるのかどうかも定かではなかった。だが、エリザヴェータがレオニードと話をしたのであれば、クリスティーネが今どこにいるのかもわかったのではないだろうか。
そう思って少女へと問いかければ、肯定の頷きが返った。
「はい、そちらはわかりました。クリスティーネさんは、他の奥様達と同じように、レオニード兄様の居住である西棟にいらっしゃるようです」
やはり、思った通りだったようだ。クリスティーネがいるとすれば、レオニードのいる西棟にいる可能性が一番高いと予想していた。
さて、と俺は思考を巡らせる。居場所さえわかるのであれば、細い糸ではあるが、多少計画というのも立てることが出来るだろう。
「いっそのこと、西棟に忍び込んでクリスを連れ出すか?」
半龍の少女の居場所がようやく判明したのだ。そろそろ、多少強引な手段に出ても良いころではないだろうか。
もう随分と長いこと、クリスティーネと言葉を交わしていない。クリスティーネ欠乏症だ。そろそろ我慢の限界である。
だが、俺の漏らした言葉にイルムガルトが待ったをかける。
「ちょっと待って、ジークハルト。ようやくここまで来て、さすがにそれは短絡的じゃないかしら?」
「そ、そうですよジークハルトさん、イルマさんの言う通りです! それに、そんなことをしたら、すぐに見つかってしまいます!」
イルムガルトの言葉を引き継ぎ、エリザヴェータが慌てた様子で俺を引き留める。
「このお城の警備は厳重なんですよ? 敷地の外に出るよりも先に、騎士達に捕まってしまいます! そうなれば、いくら私でも庇いきれませんよ?」
そう言って、エリザヴェータは俺にこんこんと釘を刺す。
城の敷地内では、決まったルートを騎士が複数名で巡回しているそうだ。俺達のような、見るからに冒険者然とした者達がうろついていれば、すぐに呼び止められるという。
それでも、建物内でなければ、ただ迷ったなどと言えば言い訳も可能だろう。エリザヴェータの名前を出せば、その場で拘束されるようなこともないはずだ。
とは言え、その場合は西棟への潜入は仕切り直しになるだろう。少なくとも、騎士の姿が見えなくなるまでは、西棟に近づくことが出来なくなるはずだ。
さらに、仮に騎士達に見つかることなく西棟へと辿りつけたとしても、そこから先が問題だ。建物の入口にはもちろんのこと、内部にも騎士達が大勢配置されていることだろう。
その中を、騎士達から隠れてクリスティーネのいる部屋を探し出すのは、至難の業だ。これが町の外であれば、実力行使というのも選択肢に上がるところだろうが、城の敷地内でそんなことをするのは自殺行為だろう。
やはり、無理があったか。少なくとも、クリスティーネの身柄が城の敷地から出ることでもなければ、力尽くで奪い返すというのは不可能だろう。
仕方ない、消極的ではあるが、エリザヴェータを頼る他なさそうだ。
「……そうだな。よし、悪いがエルザ、引き続き説得を頼む」
「はい、お任せください」
俺の言葉に、エリザヴェータは素直に頷きを返してくれた。
しばらくは様子見だ。
そう思う俺だったが、そこに割り込む声があった。
「何度話をしても同じです。レオニード様が御考えを変えることはありません」
俺はその言葉を放った者へと目を向ける。
そこにいたのは、エリザヴェータの傍に控えるように立つ、蜂蜜色の髪の女性だった。
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