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34話 王都巡り3

 俺達は服屋を後にし、王都にある大衆浴場へと向かっていた。俺は背に再びシャルロットを背負っており、購入したシャルロット用の服や靴の入った紙袋はクリスティーネが持ってくれている。

 目的の大衆浴場は、王都の中央付近に建造されていたはずだ。ここからなら、徒歩でもそれほどの時間はかかるまい。

 道すがら、俺は先程の服屋での様子を思い返していた。


「しかし、なかなか個性的な店員だったな……」


 覚えているのは、店の中に整然と並んだ商品よりも、クリスティーネへと鼻息荒く迫るやたらテンションの高い店員の姿である。俺は服屋であのような店員に遭遇したのは初めてだったのだが、女性向けの服屋というのはああいう店員が普通なのだろうか。できればそうであって欲しくないな。


「面白い人だったね! 約束もしたし、また行ってみたいわ!」


 服を選んでいる間に仲良くなったのか、クリスティーネは楽しそうに会話をしていた。すぐに仲良くなれるのは、クリスティーネの明るい性格あってのことだろう。

 店を後にする際にも、今度は時間のある時に訪れることを約束させられていた。止めはしないが、長くなりそうだし俺は遠慮させてもらおう。


 そうしてしばらく歩いていると、目的の大衆浴場が見えてきた。久しぶりに目にするが、相変わらずの巨大さを誇る建物である。白を基調とした石造りの建物は、出来上がってからかなりの年月が経っているはずだが、何度か改修しているらしく見た目上は新し目に見える。二本の煙突のようなものから、蒸気だろうか、白い煙を吹いていた。

 入口には一度に何人もの人々が擦れ違える大きさの門が設置されており、その左右には建物の重要性を示すように鎧姿の騎士が立っていた。


「着いたぞ。ここが大衆浴場だ」


「わぁ~、思ってたよりもずっと大きいわ!」


 ここまで大きな建物を目にしたのは初めてなのだろう、クリスティーネが目を輝かせて顔を上げる。シャルロットも驚いているのだろう、その水色の瞳を大きく見開いていた。

 そんな二人の反応に気をよくしながらも、俺達は門を潜り正面にある大きな扉を開いた。その途端、中の喧騒が俺達へと届く。建物の中は広々としており、多くの人々が行き来していた。広場に置かれた長椅子では数人の人達が談笑に興じている。

 俺は興味深く中を見回すクリスティーネへと向き直った。


「今俺達がいるのが広場だ。湯上りに休憩するのには丁度いいな。それから正面にあるのが浴場の入口だ。向かって左が男湯、右が女湯だな。その間にある番台に座った親父に入浴料を払えば、体を擦るためのタオルを貸してもらえて中に入れるぞ」


 俺が説明すれば、クリスティーネはふんふんと素直に頷いて見せる。それから、少し首を傾げて右手の方を指差した。


「ジーク、あっちにあるのは?」


 俺はクリスティーネが指差した方向へと顔を向ける。そちらの壁際にはいくつか開け放たれた扉があり、その先には部屋があるのが見て取れた。特に仕切りなどもされておらず、数人の人間が行き来することから出入りが自由であることが窺える。


「あぁ、あっちは遊技場だな。用は遊び場だ。盤遊技やカードを使った遊びが出来るぞ。その隣の部屋は散髪……髪を切ってくれる店だな」


 俺はついでとばかりに反対側、左手方向を見るよう指差す。そちらの壁際にはガラス戸が備え付けられており、ここからでも中の様子が見て取れた。中にはテーブルと椅子が並べられ、数人の利用客の姿が見える。


「ちなみに、あっちには食堂があるぞ。風呂から上がったら、ついでに食事もしていくか」


「食堂! そういえば少しお腹が空いたわ!」


 クリスティーネがパッと顔を輝かせる。相変わらず、食には敏感のようだ。時間帯としてももうすぐ昼時だし、風呂から上がるころには丁度良いだろう。

 そう思っていると、背のシャルロットがおずおずと言った様子で声を掛けてくる。


「あの……ここって、お風呂屋さん、なんですよね?」


 心底不思議といった様子である。確かに、大衆浴場は大きな風呂屋としか説明していなかったからな。


「あぁ、元々は大風呂しかなかったらしいんだけどな。人が集まるところだということで、後から施設が増えていったんだ」


「そうだったんですか」


 俺が以前人から聞いた話を話して聞かせれば、背のシャルロットが感心した様子で頷いた。これから先も、もしかしたら隣接する施設が増えるのかもしれない。

 今の俺達の目的は大風呂である。左右の施設はひとまず置いておき、俺達は正面の浴場入口へと足を進めた。

 そうして番台の親父に三人分の入浴料を払い、その代わりにタオルを受け取る。それからシャルロットを背中から降ろし、クリスティーネと共に女湯へと送り出した。


「それじゃ、二人とも後でな。クリス、シャルの事を頼むぞ」


「うん、任せて!」


「えっと、行ってきます」


 俺は二人と別れ、一人男湯へ続く扉を開けて中へと進んだ。脱衣所は土足禁止のため、入ってすぐの場所で膝下まであるブーツを脱ぐ。適当な棚を選び、その下にブーツを置くと服を脱ぐ。脱いだ服を籠に入れ、タオルのみを手に浴場へ続く扉を開ければ中から熱気が溢れてきた。

 浴場は広く真ん中に大きな湯舟が設えられている。その奥にはやや小さめの水風呂が設置されており、その隣には蒸し風呂へと続く扉があるのが目に入った。

 風呂の利用客というのは夕方頃が多く、この時間帯は人が少ない。貸し切り状態というほどではないが、数人の人影があるのみだった。


 俺は左手の壁際へと進み、木製の椅子へと腰を下ろす。目の前の水路には魔術具で沸かした湯が流れており、そのまま中央の湯船へと注がれている。水路に嵌められた栓を開ければ、水路の側面から湯が溢れ出てきた。この湯で体を洗うのだ。

 俺は用意された石鹸を使い、手早く頭と体を洗う。桶に溜めた湯で体に着いた泡を洗い流せば、身も心もさっぱりである。普段は宿で体を拭くだけで済ませているが、たまには湯の量を気にせず体を洗えるのはいいものだ。


 それから中央の湯船へと移動し、足から入って体を肩まで湯に沈める。熱い湯が、つまさきからじんわりと熱を伝えてきた。

 湯船の淵に両腕を預け、考えるのはシャルロットのことだ。ひとまずこれで、最低限の身なりは整えられるはずだ。これから、どうするのがシャルロットのためになるだろうか。


 俺とクリスティーネで面倒を見るというのは、あまり現実的ではないだろう。シャルロットが冒険者を目指すというのであれば何とかなるかもしれないが、シャルロットは普通の人族の少女である。クリスティーネとは違って、戦闘技能など、持っていないにきまっている。

 冒険者である俺達が連れまわすというわけにもいかない。俺達が魔物の討伐依頼などに行っている間、ずっと宿屋で待たせることになる。それに、一応そんなつもりはないものの、俺達が命を落とす可能性も零ではないのだ。そうなった時、残されたシャルロットをどうするというのだろうか。


「やっぱり、教会だよなぁ」


 俺は浴場の天井を眺めながら小さく呟いた。

 王都の教会にシャルロットを預ければ、少なくとも寝食は保障されるはずである。俺達の冒険に付き合わせるよりかは、余程いいだろう。それきり会えないというわけでもないし、今回のように王都に来た際は顔を身に立ち寄ることも容易である。

 やはり教会に預けるのが一番良い。今日は一日様子を見て、明日にでも教会に行くとしよう。俺はそう心に決めると、湯船から立ち上がるのだった。

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