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339話 半龍少女救出会議1

 俺達が帝都の城の東棟に滞在することになってから、数日が経過した。このところは、棟の裏にある空きスペースを利用して訓練をしたり、棟内の書庫で本を読んだりと、穏やかな時間を過ごしている。

 訓練には俺達冒険者だけでなく、エリーゼとイルムガルトも参加を希望した。二人とも、旅を通して自身の体力の少なさを痛感したらしい。最低限、魔物から身を守れるだけの術を身に付けるという目的もあるようだ。


 二人には基礎体力の訓練の他、エリーゼにはアメリアが体術を、イルムガルトにはシャルロットが魔術を教えている。二人とも筋は良いので、ゴブリン程度であれば容易く仕留められるくらいには仕上がることだろう。

 訓練を午前中に済ませ、午後は自由に過ごすようになっている。とは言え、今日は皆が示し合わせたように書庫に集まっていた。皆、何となく一緒に過ごした方が良いと考えているのだろう。


 そうは言うものの、全員が本を読んでいるかというと、そう言うわけでもない。アメリアとエリーゼの二人は、書庫の隅にあるテーブル傍の椅子に腰かけ、何やら昔話に花を咲かせているようだ。

 どうせ利用者も俺達以外にはいないので、注意されるようなこともない。存分に会話に興じるといいだろう。


「ジーくん、何か面白そうな本はあるの?」


 そう言いながら、テーブルの上に上半身を投げ出し、こちらを上目で見上げたのはフィリーネだ。この少女はあまり読書に興味がなさそうなのだが、何かと俺の傍に居たがるのだった。

 それでも、やはり少々退屈らしい。俺は思わず苦笑を漏らしながら、フィリーネへと手に持つ本を示して見せた。


「あぁ、これなんかは中々面白いぞ。龍種について書かれた書物だ」


 俺はフィリーネが良く見えるよう、本を開いて見せた。そこには丁度、精巧な龍の絵が一面に描かれている。俺は生憎と本物の龍種にはお目にかかったことがないが、きっとこの本に描かれた通りの姿をしているのだろう。

 フィリーネは俺の広げて見せた本に、ほぅほぅと興味深そうな目を向ける。それから、こてりと小首を傾げて見せた。


「ジーくんは……やっぱり鳥よりも、龍の方が好きなの?」


 フィリーネの言葉に、俺はふむ、と考え込む。

 何故龍の比較対象に鳥を挙げたのだろうか。生物としては、両者はまるで違う生き物だと思うのだが。

 それはともかくとして、疑問には答えを返さなければ。


「鳥はともかくとして……別に龍が特別好きってわけでもないな。ただ、そうだな……強いて言えば、浪漫がある、か?」


「浪漫……なの?」


「あぁ、やっぱり龍と言えば、強さの象徴みたいなところはあるからな」


 龍種と言えば、魔物の中でも破格の強さを持つとして広く知られている。その巨体には潤沢な魔力を保有しており、爪も牙も容易く岩を切り裂く。尾の一撃で大型の魔獣を容易く屠り、背の大翼の一振りで十の山を越えるとされる。

 そして最も恐ろしいのは、龍の息吹だ。龍種によって効果が異なるとされるが、龍の顎から放たれるそれは、何れも広範囲に多大なる破壊を(もたら)す。

 龍の姿を見た者は死を覚悟せよ、というのはそのためだ。


 そんな龍種であるが、それだけの強さを秘めているだけに、全身余すところなく超高級素材とされている。血に骨に皮、爪の先に至るまで、目玉が飛び出るほどの額が付けられるのだ。

 龍種の素材を使用した装備を手に入れるのは、冒険者の夢だろう。俺としても、いつかは手に入れてみたいものである。


「ふぅん……そういうものなの?」


 それなりに熱く語ったつもりなのだが、フィリーネの反応はあまり芳しくなかった。どうやら女の子には、この浪漫がわからないようだと、俺は肩を竦ませる。

 だが、そんな俺の態度をどう思ったのか、白翼の少女は小さく笑みを漏らした。


「どうした、フィナ?」


「んふふ、ジーくんがそんな風に話すのは珍しいの。ちょっと可愛いの」


「そうか?」


 今までもフィリーネとはたくさん話してきたのだが、そんなに珍しかっただろうか。確かに、思い返してみればこんな風に、冒険者の憧れなんかを口にする機会はなかったようにも思えた。

 これでも一応、Sランク冒険者になるという目標があるのだが。ただ、ここしばらくは冒険者らしい生活からは少し離れているからな。落ち着いたら、元の生活に戻りたいものだ。


 そんな風に考えていると、ふとフィリーネが本に目線を落とした。


「でもジーくん、龍種ってとってもとっても珍しいの。そんなに簡単には会えないの」


「いや、別に会いたいわけじゃないからな?」


 龍種に出会えば、ほぼ確実に死ぬと言われているのだ。命を懸けてでも会いたいかと言われれば、そんなわけがない。

 精々、一目見ることが出来ればいいな、くらいなものである。それも、龍種に気付かれないほどの安全かつ遠くから、遠視の魔術を使用して盗み見るくらいが関の山だろう。


 龍種をこの手で倒すなど、夢のまた夢である。そもそも龍種というのは、Sランクの冒険者が複数人居て、初めて対処が出来るような魔物なのだ。

 少なくとも、今の俺が太刀打ちできるような相手ではないだろう。


「ただな、フィナ。今の俺達なら、本気で龍に会いに行こうと思えば、会えないことはないみたいだぞ?」


「そうなの?」


 俺の言葉に、フィリーネは紅の瞳を真ん丸に見開いて見せた。


「あぁ、どうやらこの本によれば、帝都の北西の山には氷龍が住んでいるらしいんだ。もちろん、それなりに距離は離れているだろうし、そもそも会いに行くつもりもないけどな」


 時折、人里から離れた遠い空の向こうに、豆粒ほどの大きさで龍の姿形が見て取れるということだった。それ以外には、龍の縄張りが山までということで、人里まで降りてきたことはないという。

 そもそも、そうでなければこの帝都など、当の昔に滅んでいるだろうが。

 それから俺達は、その後は他の本を読んだり、話をしたりして過ごすのだった。

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