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324話 貴族の少女と帝都への道2

 俺の言葉に、エリザヴェータだけでなく皆が小さく首を傾げて見せる。

 それから互いに顔を見合わせると、フィリーネが口火を開いた。


「ジーくん、それってどういうことなの?」


 もっともな疑問ではある。

 俺は再び小さく頷きを返すと、白翼の少女へと指を一本立てて見せた。


「エルザの乗っていた馬車が魔物に襲われていただろう? あれだ」


 俺の言葉に、少女達はますます分からないといった様子で首を傾げて見せる。

 それから、今度はイルムガルトが俺の方へと向き直った。


「別に、魔物に襲われるのは不思議なことではないでしょう?」


 俺達だって魔物には何度も襲われていると、イルムガルトは口にする。

 確かに、俺達はここまで来る途中でも、幾度も魔物に襲われている。運が良ければ魔物に会わない日もあるが、逆に複数回遭遇する日だってあるのだ。


 もちろん、俺達が魔物を避けずに倒しているというのもあるが、魔物に会うこと自体は決して珍しいことではないのだ。

 だが、それと今回とを同列に語ることが出来ないだけの理由があるのだった。


「理由、ですか?」


 シャルロットの言葉に、俺は首肯を返す。


「あぁ。魔物、多かっただろう?」


「確かに多かったけど……でも、オーガの方がよっぽど多かったでしょう?」


 そう言って、アメリアが問いかける。どうやら、ノルドベルクの町を攻めてきた、オーガの群れの事を思い返しているらしい。

 確かに、数で言うとあの時のオーガの方が余程多かった。それこそ、何十人もの冒険者達で力を合わせ、ようやく撃退したほどである。それと比較すれば、今回は小規模だと言えるかもしれない。


 ただ、あれは例外である。あんな風にオーガが数百匹群れることなど、そうそうあることではない。

 それに、と俺は傍らに置いてある本を手に取った。先程シャルロットに呼ばれる前に目を通していた、魔物について記された本だ。この中には、俺達が討伐した魔物に関しても記述されていた。


「この本によると、ホワイトバンキーは群れるような魔物ではないらしい」


 基本的には、群れを作らず独立して行動する魔物らしい。多くても、二、三頭で共に動くだけだということだ。


「でも、いっぱいいたよね?」


 首を傾げ、エリーゼがアメリアと顔を見合わせる。エリーゼの言う通り、ホワイトバンキーは三十頭を超える数がいたのだ。これは異常な事態である。

 だが、その原因については、すでに判明している。


「これを見てくれ」


 そう言うと、俺は懐から掌に乗るくらいの大きさの小瓶を取り出した。コルク製の蓋で口を閉められた、小さな瓶だ。この中には、少量の緑色の粉が入っている。


「何それ、香辛料か何か?」


 イルムガルトが首を捻る。

 それに対し、俺は首を横に振って否定を返した。


「いや、俺の見立てでは、これは魔寄せの粉と呼ばれるものだ」


 俺は小瓶に入っている粉について推論を口にしたが、皆は聞いたことのない代物だったらしい。揃って首を傾げて見せた。

 唯一、フィリーネだけが表情を変えた。


「フィー知ってるの。その名の通り、魔物を引き寄せる効果のある粉なの」


 どうやら、冒険者歴の長いフィリーネは知っていたようだ。

 フィリーネの言う通り、魔寄せの粉とは魔物を引き寄せるために利用されるものだ。その匂いに釣られて、魔物が寄ってくるのである。

 冒険者の間でも、魔物を狩るために使用されるものとして知られている。ただし、その使用には十分な注意が必要だ。使用量を見誤ると、対処不可能なほどの魔物を引き寄せる結果となる。


 魔寄せの粉が原因でトラブルが発生したという話は、一つや二つなどではない。その中には、都市一つを巻き込んだ大きな事件に発展したという話だってあるのだ。それくらい、取り扱いには注意が必要な代物である。

 そんなものだからこそ、俺は今までに一度も手を付けたことがない。そもそも、町の道具屋で購入できるような、ありふれた代物でもないのだ。


 俺の説明に、皆は一様に耳を傾ける。

 それから、イルムガルトが訝しむような表情をして見せた。


「効果はわかったけど、それ、持ってて大丈夫なの? 魔物が寄ってくるんじゃない?」


「あぁ、こうやって密閉していれば問題ない。それに、このくらいの量なら影響もないはずだ」


 そう言って、軽く小瓶を振って見せる。透明な瓶の中、鮮やかな緑の粉が舞い上がった。

 魔寄せの粉は、外に匂いが漏れ出さなければ、魔物を引き寄せることもない。そうでなければ、保存することなど出来はしないだろう。

 さらに、魔物を引き寄せる効果も、その量に比例する。俺の持っているような、小瓶に入るような少量であれば、余程近くに魔物がいなければ効果を及ぼすことはない。


「ジーくん、それってもしかして、あの馬車にあったの?」


 フィリーネが俺の持つ小瓶を指差し、首を傾げる。これまでの会話の内容から、大まかな事態を察したらしい。

 その言葉に、俺は首肯を返す。


「あぁ、最後尾の馬車でな」


 騎士と魔物を埋葬してから、俺は横転した馬車の中を改めた。最後尾の馬車には様々な荷が積まれていたのだが、その中に魔寄せの粉の入った木箱があったのだ。

 魔寄せの粉は馬車が横転したことでぶちまけられていたのだが、状況から考えて、それ以前に開けられていたのだろう。ホワイトバンキ―達は、魔寄せの粉に惹かれて三十頭以上も集まってきたのだと推察される。


 そのまま放置すれば、また別の魔物が引き寄せられてくるだろう。そう思い、俺は確認用として小瓶の中に少量採り、残りは地面の中に埋めておいた。

 これで、街道付近に魔物が集まるようなこともないだろう。


「なるほどね。それで、命を狙われる覚えがあるか聞いたのね」


 イルムガルトが納得したような表情を見せる。

 エリザヴェータには、二十余名もの騎士達が護衛についていたのだ。普通に移動するのであれば、過剰なほどの戦力である。

 現れた魔物がホワイトバンキーのように強力な魔物でなければ、エリザヴェータを残して全滅するようなこともなかっただろう。もしくは、魔物の数がもう少し少なければ、騎士達ももっと善戦が出来たはずだ。


 だが、現実にはエリザヴェータを除いて、騎士達は全滅してしまっていた。それはひとえに、魔寄せの粉が引き寄せた魔物の群れが原因である。

 もちろん、偶然魔物が集まってきたという可能性も零ではないが、あれだけの魔物が集まった原因はほぼ間違いなく、魔寄せの粉である。


 その希少性から、たまたま運んでいたということも考え辛い。誰かが意図的に荷物に紛れ込ませたと考えられる。

 つまり、エリザヴェータ達一行に狙いを付けていたと思われるのだ。そして狙われるとすれば、貴族であるエリザヴェータが第一候補であろう。


「そこのところどうなんだ、エルザ。何か心当たりはあるか?」


 俺の言葉に、皆の視線が金髪の少女へと集中した。

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