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321話 壊れた馬車と魔物と少女1

 白に染まった大地を歩く。

 俺達は未だ、帝都ゴーラトガラーへと続く道を歩いている。とは言え、連日降り注いだ雪によって、すっかり街道は隠れてしまっているので、今は地図と磁石だけが頼りだ。

 現在時刻は、陽がその高さを最高点へと至らしめる丁度昼時。帝都までの道のりと、今まで歩いてきた距離とを比べると、丁度一日後には帝都に辿り着く算段だ。


 そうして積もった雪を踏みしめながら進む俺達の前方に、複数の影が見えてきた。距離と大きさから見て、少なくとも人よりは大きなものだ。


「皆、止まってくれ」


 俺は同行する仲間達に制止を促すと、一つの魔術を行使する。使用したのは光属性の魔術『遠見フェル・ゼーン』で、その効果は遠くの光景を拡大するというものだ。これにより、離れたところから安全に様子を確認することが出来る。

 そうして見えてきた光景に、俺は眉根を寄せた。


 そこにいたのは魔物の群れだった。

 全身を白い体毛で覆われた、熊とも大猿ともとれる魔物達である。赤黒い顔面に長い尾が特徴的で、四肢は太く身体能力は高いだろう。

 初めて目にする魔物だが、魔物に関して記述されている本で見たことがある。確か、ホワイトバンキーと呼ばれる魔物で、寒い地域に住んでいるはずだ。そう、丁度このような気候である。


 その数は、確認できるだけでも三十頭を越える。だが、動いているのはそのうちの四頭だけである。その他は、地面に倒れ込んで動きを見せない。その体に赤いものが見えるあたり、絶命しているのだろう。

 そして魔物達の傍には、馬車の残骸があった。その数は三台、何れも横転しており、走行は不可能なほどに壊れている。さらにその周囲には、複数の人が倒れているのが見えた。そのうちの何人かは、一目で死んでいることがわかるほどに食い荒らされていた。


 おそらく、馬車での移動中に、魔物の群れに襲われたのだろう。倒れている人達は魔物に応戦し、いくらかの魔物を仕留めたものの、力及ばず全滅したのだろう。


「なるほどね。それでジーク、どうするの?」


 俺の目で見た光景について説明をして見せると、アメリアが疑問を投げかけてきた。


「そうだな……」


 選択肢としては二つある。

 即ち、戦うか、逃げるか。

 今なら、魔物達もこちらには気が付いていない。少々遠回りにはなるが、迂回すれば安全に進めることだろう。無用な戦闘は、避けられるのであれば避けるべきだ。


「……いや、倒しておこう」


 もしもあそこにいる魔物がすべて生きていたのであれば、迂回一択だっただろう。ホワイトバンキーは、中々に凶暴な魔物だ。三十頭以上を一度に相手取っては、命がいくつあっても足りはしない。

 だが、既に残りの魔物は四頭だ。あのくらいであれば、それなりに安全に立ち回れるだろう。


 それに何より、ここは街道の近くだ。襲われた馬車がそうであったように、他にも街道を利用する者が、ここを通りかかるだろう。

 あの魔物達を放置すれば、他の者が襲われる可能性が高い。それを考えれば、ここで倒しておく方が良いだろう。


「俺とフィナ、それにアメリアで片付けよう。それでいいか、二人とも?」


 フィナとアメリアであれば、十分にホワイトバンキーに対抗できるだろう。俺が二頭を受け持つ間に、二人には一頭ずつ相手してもらうのが良さそうだ。


「うん、それでいいの!」


「私も構わないわ」


 すぐに二人からは首肯が返った。

 それから、俺は残りの三人へと向き直る。


「シャルとエリーゼ、イルマはここで待っていてくれ。これだけ距離があれば大丈夫だとは思うが、決して近付くんじゃないぞ」


 エリーゼとイルムガルトの二人は、魔物との戦闘など未経験だ。無理に戦う必要などないし、離れた場所で待機していてもらうのが一番だ。

 シャルロットはホワイトバンキーとの戦闘でも十分に戦力になるだろうが、今も少し魔導巨兵に乗せられた影響が残っているようだ。エリーゼとイルムガルトを護る役目としても、一緒に待っていてもらうのがいいだろう。


 俺の言葉に、待機組の三人からは揃った頷きが返った。

 それから俺はフィナとアメリアを伴い、魔物達の方へと駆けていく。

 彼我の距離が二十歩程になったところで、魔物達も俺達の存在に気が付いたようだ。唸り声をあげ、一丸となってこちらへと雪を巻き上げながら走り出した。


 魔物達が一塊となっていると、乱戦になり危険度が増す。それはフィナとアメリアもわかっているのだろう、二人は左右へと広がりながら、ホワイトバンキーへと初級魔術を放つ。

 ホワイトバンキーは強力な魔物だ。初級魔術程度では、決定打にはなり得ない。

 それでも、魔物の注意は引けたらしい。左右一頭ずつの魔物が、それぞれフィリーネとアメリアへと向かっていく。


 俺の方へは、残った二頭の魔物が直進していた。ここまでは狙い通りだ。

 少し速度を落としながら、腰から剣を抜き放つ。そして、迫りくる魔物の様子を観察する。

 ホワイトバンキーは大柄である。頭の位置は俺が剣を掲げてようやく届き、体重は少なくとも俺の数倍は下らない。


 そんな魔物が二頭、こちらへと地響きをたてながら全力疾走してくるのだ。

 それを正面から止めるのは不可能だろう。いくら身体強化を高めたところで、別に俺の体重が増えるわけではない。激突すれば、質量差でこちらが吹き飛ばされる結果となるのは必至だ。


 故に、俺は魔物に向かって斜めに斬り込んだ。こちらに組みつくように広げられた、ホワイトバンキーの丸太のように太い腕を、身を低くして潜り抜ける。

 振り抜かれた剛腕に煽られ、前髪が後ろへと流れる。戦闘時独特の緊張感を覚えながら、俺は続く二頭目の魔物へと向き直った。


 彼我の距離はすでに目と鼻の先、先程のように躱すほどの余裕はない。

 俺は両足に力を溜めると、一息に飛び上がった。軽々と俺の体が上昇し、ホワイトバンキーの頭を越える。

 擦れ違いざま、宙返りと同時に剣を振るう。頭部を狙った剣は僅かに外れ、魔物の肩口を斬りつけた。傷口から、鮮やかな紅血が噴出する。


 魔物の背中側へ降り立つと同時に体勢を立て直し、振り返る。

 魔物は足を止めたが、まだこちらへと振り返ってはいない状況だ。

 剣を一閃させ、両の膝裏を同時に斬りつける。

 決して浅くはない傷が刻まれ、たまらず魔物は膝をついた。

 そこへ、背中側から心臓目掛けて剣を突き立てる。


 剣は深々と突き刺さり、ホワイトバンキーが小さく震える。それから魔物は力を失ったように、前方へと倒れ込み雪を舞い上げた。

 よし、などと思う間もなく、初めに躱したホワイトバンキーが、たった今倒したばかりの同族を踏みつけ、こちらへと迫る。魔物にだって仲間意識はあるだろうが、気にも留めていないような挙動だ。


 岩をも砕かんとする一撃が、遥か頭上から振り下ろされる。俺は咄嗟に地を蹴り、後方へと逃れた。

 もちろん魔物がそれだけで諦めるはずがなく、魔物を乗り越えて俺へと追い縋る。左右交互に振られる腕を、俺は後方へと避けながら魔力を練り上げた。


「『炎のフラム・ランツェ』!」


 普段よりも少し込める魔力を多くし、大きさを増した炎の弾を射出する。それは狙い違わずホワイトバンキーの顔面へと着弾した。

 有効打になるとは端から思っておらず、事実俺の魔術は魔物の体毛を僅かに焦がすにとどまった。


 それでも、魔物と言えど生物には違いない。

 視界を覆い尽くす炎の塊に、ホワイトバンキーは堪らずたたらを踏んだ。

 その一瞬の隙を突き、俺は魔物の懐へと飛び込む。

 勢いのまま突き出した剣が、魔物の胸に深々と突き立った。

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