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32話 王都巡り1

 王都へと辿り着いた翌朝、宿屋で朝食を取った俺達は王都の大通りを歩いていた。手枷と足枷を嵌められたシャルロットを歩かせるわけにはいかないため、今日も俺が背負っての移動だ。

 時折、道行く人々から妙なものを見るような目線を向けられるものの、今のところ話しかけられるところまでは至っていない。自分で言うのもなんだが、訳ありらしき俺達にわざわざ話しかけたいとまでは思わないのだろう。少し嫌な感じの視線を感じることもあるが、仕方ないことだと割り切って歩く。


 そうして俺達は、一軒の鍛冶屋へと辿り着いた。鍋などの小物などを扱っている鍛冶屋も存在するが、ここは冒険者などを相手に剣や防具などの装備品を売っている。今俺が愛用している剣も、ここで購入した一品だった。

 クリスティーネに扉を開けてもらい、俺はシャルロットを背負ったまま店内へと入る。店の中には剣や槍といった武器がいくつも展示されており、壁際には鎧を着せられた人形がその存在を堂々と主張していた。

 その中には一体だけ、ミスリルで出来た鎧を身に付けた人形があった。思わず、俺の目がそちらへと吸い寄せられた。今はまだあれほど高価な装備を身に付けることは叶わないが、いつかはああいった鎧を身に付けたいものである。


 そこから目を離し、正面へと向き直る。店の奥にあるカウンターには、いかにも鍛冶屋の店主といった風貌の筋骨隆々な大男が座っていた。店の中には俺達の他に利用客はおらず、暇なのか男はカウンターに頬杖をついている。

 俺は整然と並べられた武器棚の間を抜け、男の方へと近寄る。


「ちょっといいだろうか?」


「何だ、ここは女連れ子連れで来るようなところじゃねぇぞ」


 愛想のない親父である。何度か足を運んだことがあるが、変わりはないようで何よりだ。

 興味なさげだった鍛冶屋の親父だが、不意に表情が変わった。


「ん、お前は何度かうちの店に来た冒険者じゃないか?」


「確かに数回ほど来たことがあるが……覚えているのか?」


「あぁ、うちの店で剣を買っていっただろう?」


 鍛冶屋の親父に覚えられているとは思わず、俺は驚く。正直、意外であった。俺がこの店に来た回数など、たかだか数回のことである。それだけで、俺の顔どころか何を買っていったかまで覚えているとは、顔に似合わず記憶力がいいようだ。


「武器なら好きに見てくれ。それとも、注文か?」


「いや、少し頼みたいことがあってな」


 俺はそう言って、親父へと見せつけるようにシャルロットの手を持ち上げた。手枷の間を繋いだ鎖が、じゃらりと音を立てて重力に引かれる。

 鍛冶屋の親父は、見分するように手枷へと顔を近づけた。


「訳あって、この子に手枷と足枷が嵌められていてな。壊せないだろうか?」


「こいつは魔封じの枷か……」


 枷の種類を確認し、親父が顔を険しくさせる。難しいのだろうか。


「枷を繋ぐ鎖は簡単に切れるだろうが、枷を壊すのは難しいな。それよりも、鍵穴をいじったほうが早いだろう」


 そう言うと、親父はカウンターの脇に置かれた椅子へと俺達を誘導する。そこにシャルロットを座らせるようにと示されるので、俺は言われた通りにゆっくりとシャルロットを下ろした。

 それから親父はカウンターの下を何やら探っていたかと思うと、木製の小さな箱を手にこちらへと寄ってきた。床の上に置かれた木箱の中を覗いてみれば、中には小さな工具らしき道具がいくつも入っているようだった。どうやら持ってきた箱は工具箱らしい。


「手を出してくれるか」


 親父がシャルロットに声を掛ける。その声色は俺へ向けるものよりかは幾分柔らかいものだったが、シャルロットは怖がっている様子だった。それでも、シャルロットは親父の方へと両手を持ち上げて見せる。

 親父は差し出された両手のうち、まず右手の方を手に取ると手首に嵌められた枷へと顔を近づけた。そうして、鍵穴の様子を確認すると、何やら工具箱に手を入れる。それから一本の道具を手に取ると、何やら鍵穴に入れてガチャガチャと動かし始めた。


 しばらくすると、音を立ててシャルロットの右手に嵌められた手枷が外れた。親父が外れた手枷を床へと置くと、硬質な音が鳴り響いた。続いて親父は左手の手枷に手を付ける。先程の解錠でコツをつかんだのか、一つ目よりは余程早く枷を外した。


「次は足だ」


 大人しく差し出された足を持ち上げ、鍛冶屋の親父は同じように鍵穴に道具を入れると、すぐに解錠して見せた。そうして瞬く間にシャルロットの両足が自由になる。


「これでいいだろう」


「凄いな……ありがとう、助かったよ。いくら払えばいい?」


「このくらいで金なんかいらねぇよ。礼がしたけりゃ、何か買ってけ」


「わかった、近いうちにまた寄らせてもらうよ」


 今日は予定があるためゆっくりと見ることはできないが、後日またここへ来て、武器か防具を買うとしよう。クリスティーネのために、半龍族用の防具を注文するのもいいかもしれない。この親父なら、信用しても良さそうだ。

 俺は枷を外し、手足が軽くなったシャルロットに目を移した。シャルロットは手元に目線を落とし、先程まで手枷をしていた手首が痛むのか反対の手で擦っていた。


「シャル、そのまま動かないでくれ。今治療を――」


「私に任せてっ!」


 隣でハラハラと様子を窺っていたクリスティーネが勢いよく声を上げた。俺がやらなければいけないわけでもないし、やる気があるようなのでクリスティーネに治療を任せる。怪我の程度はそこまで酷くはなかったため、初級の治癒術ですぐに完治した。


「ありがとうございます、ジークさん、クリスさん」


 枷が外れて、少し元気になったようだ。今まで見せていたよりも少し明るい顔でシャルロットが礼を伝えてくる。


「あぁ、礼なら親父さんにも言ってやってくれ」


 そう言うと、シャルロットは立ち上がって鍛冶屋の親父へと向き直った。そうして、深々と腰を折った。


「おじさん、ありがとうございます」


「なに、いいってことよ。何があったかは知らないが、気を付けるんだぞ」


 これでひとまず、シャルロットに嵌められた枷を外すという最大の目的を達成することが出来た。俺達は鍛冶屋の入口へと移動する。


「この礼は必ずする」


「おじさん、ありがと~!」


「お世話に、なりました」


 口々に礼を言えば、再びカウンターで肘をついた親父が軽く手を上げて応えてくれた。

 そうして、俺達は鍛冶屋を後にした。

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