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313話 束の間の休息3

「それで、シャル。どうだ、体調の方は?」


 そう言いながら、俺はシャルロットの額へと片手を当てた。魔導巨兵から助け出した時は今にも倒れそうな顔色で、実際にフィリーネに抱えられて空を飛んでいる間に、シャルロットは意識を失ってしまったのだ。

 多少の休息を経た今は、大分顔色も良くなっている。少し手足が冷えてはいるようだが、額に当てた手から感じるのは平常な熱量だった。


「えっと、大丈夫で……あれ?」


 小さく頷きかけたシャルロットは、言葉を途中で切り、小首を傾げて見せる。それから、小さく身じろぎを見せた。どこか起き上がろうとするような動きだが、その体は布団の上に横たわったままだ。

 その動きに、どうしたのだろうかと俺は首を捻る。


「どうした、シャル?」


「その、何だか体が重くて……起き上がれません」


「本当か? 気持ち悪かったり、痛いところはないか?」


「いえ、それは大丈夫です。ただ、体に力が入らないみたいで……もしかして、魔力がないせいでしょうか?」


「そうだな……」


 シャルロットの言葉に、俺は思案する。

 確かに、魔力不足であるのは間違いないだろう。シャルロットは魔導巨兵に繋がれ、黒い紐を通して魔力を吸い上げられたのだ。助け出した直後は、ほとんど魔力が尽きかけていたはずだ。

 体内の魔力が不足すると、体調は悪化するものだ。気怠さを感じたり、意識を失ったりすることは、通説として広く知られている。


 しかし、今のシャルロットにそれが当て嵌まるだろうか。確かに魔力を限界まで失っただろうが、あれからしばらくの時間が経過している。

 魔力というのは体内で生み出されるため、休息すればある程度は回復するものだ。そのため、気怠さは残っているだろうが、少なくとも起き上がるくらいはできるはずなのだ。


 だが、シャルロットは現に小さく身じろぎをするくらいで、起き上がることはできないようである。これはどういうことだろうか。


「ただの魔力切れとは考え辛いが……シャル、他に何か変わったことはあったか?」


 一言で魔力不足と決めつけるのは時期尚早だろう。何か他に原因はないかと、俺はシャルロットに心当たりを聞いてみた。

 シャルロットは枕に頭を乗せたまま、天井へと目線を向ける。


「変わったことですか……あっ、そう言えば」


 しばらく上へと目を向けていたシャルロットだったが、何かを思いついたように再び俺と視線を合わせた。


「魔導巨兵に乗る前に、パーヴェルさんに薬を渡されて、それを飲みました」


「薬? どんな薬か、わかるか?」


「えぇと……確か、強魔水って言ってました」


「……なるほどな、そう言う事か」


 シャルロットの言葉に、今の少女の状態が腑に落ちた。あの薬を飲んだのであれば、シャルロットが上体を起こすことすら出来ないのも、納得がいく。

 だが、そんな風に納得したのは俺だけだったようで、アメリアとエリーゼは揃って首を横に倒した。


「強魔水?」


「って、何だろうね?」


「確か、魔力を引き出す効力のある薬、だったかしら?」


 そう口にしたのは、窓際に腰掛けたイルムガルトだ。どうやら彼女は、多少なりとも強魔水に関する知識があるらしい。とは言え、それも名前と簡単な効果くらいしか知らないようだ。

 俺は腰を上げ、部屋の隅にまとめて置かれている背負い袋の方へと歩み寄る。そうして袋の口を開き、背負い袋の中へと手を入れた。


 目的の物はすぐに見つかった。俺はそれを手に取ると、背負い袋を元の場所に戻し、シャルロットの傍へと戻ってくる。

 そうして手に持ったものを、皆に見えるようにと軽く持ち上げて見せた。


「これが強魔水だ」


 そう言う俺の手の中には、琥珀色の液体が入ったガラス瓶があった。俺は一応、何かあった時のためにと、強魔水を背負い袋の中に入れているのだ。数は二つで、これはその内の一つということである。

 布団に横になり、シャルロットに抱き着いていたフィリーネが上体を起こす。そうして俺の持つ強魔水へと、片腕を伸ばした。


 俺はフィリーネへと、強魔水の入ったガラス瓶を手渡した。白髪の少女はそれを受け取り、軽く瓶を揺らして見せる。

 琥珀色の液体は重力に引かれ、瓶の中でその形を変えた。水面が照明の光を反射し、液体が透き通って見える。


「これが強魔水なの? ……飲むとどうなるの?」


「効果としては、イルマの言った通りだな。飲んだ者の魔力を、限界まで引き出す効果がある」


「魔導巨兵に乗るので、魔力は多い方がいいと飲まされたんですが……普通はどういう時に飲むものなんですか?」


「大規模な魔術を使うような場合や、どうしても大量の魔力が必要になるような時だな。どちらにせよ特殊な状況だから、俺も持ってはいるものの使ったことはないが」


 魔導巨兵はあの大きさだ、あれを動かすにはそれはもう、かなりの量の魔力が必要となったことだろう。心情的にはともかくとして、シャルロットに強魔水を飲ませる理由は、理屈の上では理解が出来た。

 ただ、今回のような場合でもなければ、使いどころというのは難しいところだ。それこそ、魔物の群れの殲滅などで、上級魔術に思い切り魔力を込めるようなことでもなければ、使う機会はないだろう。


 俺の説明に、皆ほぅほぅと耳を傾ける。それからアメリアは、ふと小首を軽く傾げて見せた。


「それで、どうしてシャルは動けなくなったの? 話を聞く限りでは、ただ魔力を引き出すのよね?」


 確かに、これまでの説明では、今のシャルロットの状態に説明がつかない。重要なのはここからだ。


「それはな、強魔水には副作用があるんだ」


「副作用、ですか? ……そう言えば、パーヴェルさんもそんなことを言っていたような……」


「それでジーク、どんな副作用があるのよ? まさか、命の危険があるとか言わないわよね?」


 シャルロットが思い出すように天井を見上げ、アメリアが少し焦ったような表情を見せる。まぁまぁと、俺はアメリアを軽く宥めた。


「そこまで危険性のあるような薬じゃない。ただ、無理矢理体内の魔力を引き出すからな、どうしても負担は大きいんだ」


 そう言って、俺は強魔水の副作用について説明をした。

 強魔水は魔力を引き出す薬だ。それも、体内の魔力を限界ギリギリまで引き出す薬である。つまり、通常であれば使うことのできない、体内に残すべき魔力までを引き出してしまうのだ。


 だが、強魔水単体だけであれば、さすがに命までは危険になることはない。とは言え、体には負担が大きいものだ。何せ、魔力を体内で生成するそばから、使用可能となるよう引き出してしまうのだ。

 結果的にどうなるのかと言えば、体内の魔力を生み出す機関に、幾らかのダメージを与えることとなる。もちろん、時間と共に自然治癒するくらいの損傷ではあるが、一時的に魔力が回復し辛い状態となるのだ。


 シャルロットが動けないのは、そう言った理由である。彼女の残存魔力は、魔導巨兵から助け出した直後とほとんど変わりなく、ほぼ底を突いているのだろう。それでは、体を動かせなくてもおかしくはない。

 そう語って聞かせると、枕に頭を預けたシャルロットが心配気に眉尻を下げて見せた。


「ジークさん……私、ちゃんと動けるようになるんでしょうか?」


 小さな声で言葉を漏らすシャルロットを、安心させるように軽く頭を撫でた。


「心配するな、シャル。ちゃんと治るから。ただ、二、三日は動けないかもしれないからな。大人しく寝ていてくれ」


「ん……わかりました」


 俺の手の感触に、シャルロットは少しくすぐったそうな表情を見せる。そうして小さく頷きを見せると、毛布を軽く掻き抱いた。

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