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306話 氷精少女救出作戦5

「ちょっとジーク……こんなの、どうやって止めるわけ?」


 俺の隣で同じように魔導巨兵を見上げ、アメリアが呟く。その声は周囲の騒音にかき消されそうだ。

 アメリアの言葉には、思わず俺も同意をしたくなる。目の前に聳え立つ鋼鉄の巨人は、あまりにも強大過ぎた。この巨人がその気になれば、俺達など腕の一振りで殺されてしまうだろう。


 今もまた、巨人が一歩踏み出しただけで、大きく距離が開いた。

 その家程の大きさの足が轟音を立てて地面に突き立てられ、振動に体が揺れる。

 踏み潰された家屋から、粉塵が大量に舞い上がった。

 その様子に、思わずゴクリと唾を飲み込む。だが、臆してばかりはいられない。


「まずは何とか、足を止めたいが……」


「そうは言っても、ナイフなんかじゃとても歯が立たないと思うんだけど」


 そう言いながら、腰に吊り下げたナイフを取り出して見せる。確かに、俺の持つミスリルの剣ならばともかく、アメリアの持つナイフは普通の黒魔鉄製だ。見る限りでは何らかの金属で出来ている魔導巨兵を相手に、どれだけ通用するものだろうか。

 だが、ただ眺めていたところで何も始まらない。


「とにかく、一当てしてみよう」


「わかったわ、やれるだけやってみる」


 アメリアは頷きを見せ、ナイフを構えて見せる。俺も腰からミスリルの剣を引き抜き、魔導巨兵へと向き直る。

 そうしてアメリアと共に身を低くし、漆黒の巨人へと駆け出した。

 的は大きく、動きも鈍重なため攻撃を外すことはない。


 疾走の速度を乗せ、力任せに大振りの一撃を巨人の足へと見舞う。

 ガツンという甲高い音と共に、剣が大きく弾かれた。

 衝撃に腕が痺れ、剣を持つ手が震える。


 剣を振り切ることは叶わず、俺はその場で足を止めた。剣を叩きつけた魔導巨兵の足には、僅かな傷を残すのみだ。

 俺はすぐに魔導巨兵から距離を取った。反対側では、ナイフで切りつけたアメリアが同じように距離を取る姿が見える。

 あまり張り付いていては、魔導巨兵が少し足を動かしただけでも危険だ。幸いにも、魔導巨兵は反対側の足を動かしているところのようで、眼前の片足に動きはない。


「ジーク、やっぱり無理よ!」


 アメリアが、魔導巨兵の足の向こう側から大きく声を張り上げる。片手を押さえているのを見るに、手が痺れているのだろう。やはりナイフでは歯が立たないらしい。


「いや、まだだ!」


 俺はもう一度剣を構え直す。そうして刀身へと魔力を注ぎ込んでいく。

 すぐにミスリルの剣からは淡い虹色の光が漏れ始めた。全属性の魔力が通っている証明である。

 全属性の剣技であれば、この巨人を相手にも通用するかもしれない。


 至近距離から、上段の一撃を足へと見舞う。

 金属音と共に、剣が止められた。


「駄目か、硬すぎる!」


 虹色の剣は刃先を僅かに魔導巨兵の足へとめり込ませたものの、そこまでだ。断ち切るには程遠い。

 内心で舌打ちを溢していると、金属の擦れる音と共に魔導巨兵の足が僅かに沈み込む。この動きは先程見た。足を動かす前兆だ。


 それを見て、俺はすぐに剣を引き抜いた。そのすぐ後に魔導巨兵の足が大きく持ち上がる。

 俺は咄嗟に顔を覆い隠した。魔導巨兵の動きに合わせて強い風が巻き起こり、粉塵が舞い上がる。


 至近距離で対峙してわかったのは、剣術でどうにかするのはまず不可能だということだ。この巨人がどんな材質で出来ているのかもわからないが、全属性の剣技ですら通用しないほどの硬度らしい。

 これ以上、近接攻撃を試みたところで徒労に終わるだろう。それどころか、大きく動く足に引っかけられでもすれば、大怪我は免れない。もしも踏み潰されれば、いくら身体強化があったところで即死するだろう。


 どうしたものかと考える俺の傍へ、アメリアが駆け寄ってくる。


「ジーク、足を止めるのは不可能だと思うわ。それよりも、胸のところまで直接登って行った方がいいんじゃないかしら?」


「この巨体をか? いくらアメリアが身軽と言っても、途中で振り落とされるだろう。それより、膝関節を狙った方が確実じゃないか?」


 魔導巨兵には細かな凹凸があるため、そこを足掛かりに登っていくことは、出来ないことではないだろう。だがそれは、あくまで魔導巨兵が静止していればの話だ。

 魔導巨兵の動きは緩慢なように見えるが、それはあくまで人の大きさに換算すればの話である。魔導巨兵が一歩歩くだけでも、脚先は俺の全力疾走と同程度の速度は出ているのだ。これを登っていくのは至難の業だろう。


 それよりも、膝関節のような可動部を狙うのはどうだろうか。可動部であれば、造りが複雑になっているはずで、他の部位よりもいくらか脆くなっているだろう。

 全力の身体強化で跳躍すれば、何とか膝の高さまでは跳べると思うのだ。そうやって飛び上がり、攻撃を加えるというのはどうか。


「剣術で歯が立たないんだから、関節を狙っても無理じゃない? 魔術ならどうかしら?」


「どうだろうな……ここまで相手が大きいと、効果は薄そうだが……」


 何せ、相手は以前ダンジョンで遭遇した、ミスリルゴーレムよりも巨大なのだ。あの時はシャルロットと共同で、連鎖詠唱を使用してどうにか動きを止めたのだ。俺一人では、前進する巨人の動きを止めることはできないだろう。

 その他、攻撃魔術にしても同様だ。ミスリル製の剣で僅かに傷をつけることしかできなかったのだ、生半可な魔術は通用しないだろう。


 そうして俺がアメリアと巨人に対する作戦を話し合っていると、上空からフィリーネが降りてきた。

 俺達が魔導巨兵の足に斬りかかっている間、巨人の周りを飛び回っていたのだ。まずは様子見に徹していたようで、獲物である双剣は腰に収めたままである。


「そっちはどうだ、フィナ?」


「んん、近付くのは難しいの。あんな風に大きく動かれちゃうと、翼が引っ掛かっちゃいそうなの」


 空を飛べるフィリーネであれば近付けるのではないかと思ったが、そう簡単にはいかないようだ。何しろ、魔導巨兵が一歩進むだけで、家屋数件分を移動することとなるのだ。迂闊に近寄れば追突してしまうだろう。

 ともかく、魔術を試せるだけ試してみよう。そう思い、魔導巨兵へと向き直った俺の視界を、赤い線が横切った。


 それは魔導巨兵の腹部に着弾すると、轟音と共に赤い花を咲かせる。炎の魔術による爆発だ。

 軌跡の方向を目で追ってみれば、建物の屋根に上った幾人かの姿が見えた。装いからすると、騎士や冒険者達だろう。魔術を放ったのは、そのうちの一人に間違いない。


 先程の魔術を皮切りに、屋根上の人々から様々な魔術が放たれる。それらは複雑な色合いを描きながら、魔導巨兵へと殺到した。

 立て続けに爆音が鳴り響き、粉塵と煙霧が舞い上がる。


「ちょっと! あんなのシャルに当たったら!」


 アメリアが焦った声をあげる。俺自身、背筋が寒くなる光景だ。あんな魔術の連打に晒されれば、あの小柄な少女は生きてはいられないだろう。この時ばかりは、魔導巨兵の頑強さを願うばかりだ。

 そうは言っても、魔術を放っている者達を止めるのも憚られる。彼らだって、町を守るために行動しているのだ。止めようとすれば、こちらも力尽くでなければならないだろう。そして、そんなことをしている時間もない。


 やがて、魔術の着弾によって発生していた噴煙が晴れる。幸いにも、というべきか、魔導巨兵に損傷は見られなかった。あの様子なら中のシャルロットも無事だろうと、ほっと胸を撫で下ろす。


 だが、そこで異変に気が付いた。

 魔導巨兵の動きが止まっているのだ。


 鋼の巨人は、ただ静かに佇んでいる。

 もしや、先程の魔術の連打が効いたのだろうか。外面に大きな変化は見られないが、内部に何らかの影響があったのかもしれない。

 そう思った時だった。


 魔導巨兵の頭部、目に当たる部分から赤い光が漏れた。

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