304話 氷精少女救出作戦3
「ちょっと待て、殺すだって?」
男の言葉に、俺は思わず片手を前へと伸ばして制止する。さすがに聞き捨てならない言葉だ。
それに対し、パーヴェルは微塵も迷うことなく頷きを見せた。
「そうだ。魔導巨兵は他の魔術具と同様、魔力で動く。ただ、普通の魔術具が魔石を使用しているのに対し、魔導巨兵は人が直接魔力を供給する必要があるのだ。つまり、搭乗者を殺せば魔力供給も止まり、自ずと魔導巨兵も動きを止めることになる」
パーヴェルはスラスラと説明をしてくれた。その内容自体は、理解できるものだ。
通常、魔術具というのは動力源として魔石を使用するものだが、直接魔力を注ぎ込むことでも正常に働く。ただ、いちいち魔力を注ぎ込むのは面倒なので、魔石を使用するのが一般的となっているのだ。
だが、さすがに魔導巨兵のような大きさの魔術具を動かすには、魔石では魔力が足りないのだろう。そのため、人が直接乗り込んで魔導巨兵に魔力を供給するというのは、分からない話ではない。
そして、搭乗者を殺せば魔導巨兵が止まるというのも、理屈の上ではわかる。搭乗者が死ねば魔力供給も止まるのだ。
だが、それに賛同するわけにはいかない。
「いくら何でも、そういうわけにはいかないだろう。それとも、乗っているのは殺すのも仕方ないくらいの凶悪犯罪者か?」
「いや、そう言うわけではない。搭乗者は年端もいかない少女だ。だがこのまま町中で暴れられれば、犠牲者は夥しい数になるだろう。一人の命と無数の命、優先するのがどちらか、考えるまでもない」
パーヴェルの言う事が、正しいとは思わない。だが、決して間違っているわけではないだろう。犠牲者を出来るだけ減らすためには、それが有効な手段だということもわかる。
俺だって、この件に関わっているのが見ず知らずの相手だというのなら、そこまで気にすることはなかっただろう。問題なのは、誰が乗っているかだ。
「……乗っているのは、どんな奴だ?」
「シャルロットという、精霊族の少女だ。魔力が豊富なので、魔導巨兵の搭乗者に選んだ。幸いにも、彼女は私の奴隷なので、殺してしまっても影響は比較的小さくて済む」
「お前――!」
男の物言いに、俺は衝動的に拳を握って一歩踏み出した。この男は、シャルロットのことなど全く心配していないのだろう。
そもそも、こんなことになった原因は魔導巨兵にシャルロットを乗せた、この男のせいだろう。だというのに、元凶であるこの男が、無理矢理魔術具に乗せられたあの子を殺すというのか。
だが、怒りのままに拳を叩きつけようとする俺を、後ろから止めるものがあった。
「ジーくん、駄目なの」
「止めるな、フィナ!」
フィリーネが後ろから俺に抱き着き、動きを阻害する。結構本気で止めようとしており、逆に俺はフィリーネに対して乱暴なことをするわけにもいかず、足が止まる。
そんな俺達の様子を見て、パーヴェルが後ろへと一歩下がり俺から距離を取った。
「何を怒っているのか知らないが、私だって不本意なのだ。彼女にはまだ、試してほしい魔術具がいくつもあったのだが……」
「それだけかよ――!」
「ジーくん、抑えるの。それよりも、シーちゃんを助けることを考えるの」
フィリーネの言葉に、ぐっと堪える。確かに、ここでパーヴェルを殴り倒したところで、事態は解決しない。それよりも、魔導巨兵を止めることに注力すべきだろう。
俺は一度深呼吸をしてから、肩から力を抜いてパーヴェルへと向き直る。
「本当に、殺す以外に方法はないのか?」
「シャルロット君が自ら魔力供給を止められれば良いのだが、生憎と魔導巨兵に繋ぐと、魔力が自動的に引き出される仕組みなのだ。魔導巨兵と繋がるコードを外せばそれも止まるが、未だに動くということは、そうできない状況なのだろう。様子を聞こうにも、通信機に返答もない」
そう言って、パーヴェルは内部の状態について説明をした。魔導巨兵の内部にはちょっとしたスペースがあり、そこにシャルロットがいるという。内部には椅子が設えられており、そこに座らされているようだ。
そうして、コードという黒い紐状のものでシャルロットと魔導巨兵とを繋ぎ、魔力を供給しているそうだ。
シャルロットの手首には、コードの先端に取り付けられた金属の輪が嵌められており、それで魔導巨兵と繋がれているという。それを外せば魔力供給も止まるということは、シャルロットもわかっているはずだ。
だが、今尚魔導巨兵が動き続けているということは、金属の輪を外すことのできない状況に置かれているのだろう。
「殺す以外の手段としてもう一つ、シャルロット君の魔力が尽きるのを待つという方法もあるが、それまでにどれだけの被害が出るのかわからないので、却下だ。それに、その場合もシャルロット君の命は保証できない」
魔導巨兵を動かすだけの魔力がなくなれば、魔導巨兵も自然と止まるだろう。だから、放っておいてもいつかはこの事態も収まる。だが、それがいつになるのかはわからない。魔導巨兵が動き続けるだけ、被害は広がっていく。
それに、魔導巨兵が動きを止めた時というのは、シャルロットの魔力がなくなっているということだ。
通常、人の持つ魔力が空になることはない。普通はそれよりも前に、魔力を使うことを止めるからだ。精々、大規模な魔術を使用した際に、魔力不足に陥るくらいである。
体内の魔力が不足すると、体調不良という形で現れる。頭痛や体の怠さなどを感じ始め、場合によっては気を失うこともあるという。
そして、もしも体内の魔力が完全になくなると、命を失うこともあるという。つまり、魔導巨兵が止まるのを待つと言う事は、シャルロットの命を危険に晒すということだ。それよりも前に、助け出す必要がある。
「シャルロットはどこにいる?」
「魔導巨兵の胸に当たる部分だが……君はシャルロット君を知っているのか?」
「答える必要はない」
俺はパーヴェルへ素っ気なく返すと、次の行動を考える。とにかく、魔導巨兵の元へ行く必要がある。どうにかあの巨人の足を止めて、胸まで登って少女を助け出さなくては。
ひとまず、シャルロットの居場所は分かった。これ以上、話を聞く必要はないだろう。
「フィナ、戻るぞ」
「ん、わかったの」
そうして背を向ける俺達へ、パーヴェルから声が掛かる。
「既に騎士達が動き出している。何をするつもりかは知らないが、邪魔だけはするな」
その言葉には何も返さず、俺はシャルロットと共に元来た方向へと駆け出した。
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