286話 新たなる目的地へ3
エリーゼとイルムガルトを仲間に加え、総勢五人となった俺達は、イリダールの屋敷を後にし宿へと戻っていた。屋敷へ共に踏み込んだ騎士達は、これから夜通しで色々と不正の証拠を探すようだ。
宿での部屋はいつものように、大部屋を一つ取っている。部屋を分けるよりもこの方が都合がいいからなのだが、新しく入った二人は少し思うところがあるだろう。
「俺と同室で悪いな、エリーゼ、イルマ。ただ防犯を考えるなら、こっちの方がいいんだ」
「ん-、別に気にしてないよ? 人と寝るのは慣れてるし」
そう口にするエリーゼは、俺に遠慮しているというわけでもなく、本当に気にしていない様子だった。聞けば、イリダールの屋敷では大きなベットで、クリスティーネやシャルロットも含めた四人で一緒に寝ていたそうなのだ。
それに比べれば、一人一人の布団が別れているだけ、この宿の方が気楽だという。その言葉に、イルムガルトも同意を示した。
「そうね。私も……貴方と隣というのはさすがに気になるけど、離れていれば問題ないわ。世話になっている身だしね」
「それなら平気なの! ジーくんの隣は、私とアーちゃんのものなの! そうだよね、アーちゃん?」
そう言いながら、フィリーネが俺の腕へと抱き着いた。そうして、俺を布団の方へと誘導してくる。このくらいはいつものことだし、俺としても寝られればそれでいいので、俺はフィリーネに誘われるまま、布団の上へと腰を下ろした。
そこへ、アメリアが近寄ってくる。
「そうね、それでいいと思うわ」
そう言って、俺の隣の布団へと腰を下ろした。
その様子を目にし、イルムガルトが小さく首を傾げる。
「別に、二人で挟まなくてもジークハルトを端にすればいいんじゃない?」
イルムガルトの言葉は尤もではある。俺自身、元々は端の布団で寝るつもりだったのだ。そうすれば、隣に寝るのは一人で済む。
俺の隣には、自ら希望するであろうフィリーネが寝ることになるだろうと思っていた。それなのに、いつの間にやらフィリーネとアメリアの間で寝ることが習慣化してしまったのだ。
今からでも、端で寝ることを提案するべきだろうか。だが、それはそれで変に意識しているように思われそうだ。
俺が若干の悩みを抱いていると、エリーゼがイルムガルトへと視線を向けた。
「別にいいじゃない、アミーもフィナちゃんも納得してるんだし。だよね、アミー? アミーも、ジークさんの隣で寝る方がいいよね?」
「……別に、深い意味はないわよ。ただ寝るだけでしょう?」
「ふふっ、そうそう。ただ寝るだけだもんね?」
何故か腕を組み顔を逸らすアメリアに対し、エリーゼはどこか面白がるような口調で返した。今のやり取りの中に、何かおかしなところがあっただろうか。
結局、就寝時の順番は端からフィリーネ、俺、アメリア、エリーゼ、イルムガルトといった順番に収まった。全員が納得しているし、妥当なところだろう。
それから就寝までにはもう少し時間があるということで、明日の予定についてを話すことになった。
「明日はまず、私達の服を買いに行くのよね?」
「あぁ、今の服も靴も、旅路に適しているとは言えないからな。あまり高い服をバンバン買われるのは困るが、好きな服を買ってくれ」
エリーゼとイルムガルトの装いは、所有者であったイリダールの趣向を反映したのか、ひらひらとした実に可愛らしいものだ。目を楽しませるのには良いものだが、おおよそ旅路には適さない。
二人には少なくとも、複数の着替えが必要だろう。靴も、長距離の移動に向いたものが必要だ。踵の高いものなど、以ての外である。
幸いにも、以前ミスリルゴーレムの素材を売却した金が、まだまだ残っている。当分の間は、金稼ぎに精を出す必要もなさそうだ。
「他にも、二人の鞄や雑貨、追加の食料とかも必要だろうな」
「うーん、お世話になってばかりで申し訳ないなぁ」
俺の言葉に、エリーゼが眉尻を下げて見せる。
「あまり気にする必要はないぞ? こっちはそれくらい想定した上で、同行を許可したわけだしな」
二人を連れていくことを決めた時点で、ある程度の出費は覚悟していたことだ。これでもしも余裕がなければ、エリーゼはともかくとして、イルムガルトの同行は拒否していた可能性もある。
とは言え、その可能性は低いだろう。俺は基本的に、何事も余裕を持って臨む方だ。所持金の残りなどにも、普段から十分に気を付けている。
俺の言葉に、エリーゼは両の拳をぐっと握って見せた。
「火兎族の里に帰れたら、きっと何かお礼をするわ! ね、アミー?」
「そうね、そうしましょうか」
赤毛の少女達が互いに頷き合う。あまり無理を言うつもりはないが、彼女達の事を思うのであれば、その時は素直に礼を受け取っておくべきだろう。
火兎族の隠れ里を再び訪れるころには、復興も少しは進んでいるはずだ。次回はもう少し、あの里でゆっくりとしたいところである。復興の手伝いも、少しくらいはできるだろう。
二人の会話を聞き、イルムガルトが少し顔を俯かせた。
「私も礼はしたいところだけど……少し、難しそうね」
確かに、火兎族の隠れ里が近くにあるエリーゼと比較して、イルムガルトの事情は異なるだろう。イルムガルトの故郷は、王都から離れた西にあるという話なのだ。
イルムガルトのことを俺達が故郷まで送って行くのでもなければ、旅の間に礼をするというのは難しいはずだ。実際、故郷まで送ってやるかどうかについては、せめて王都まで帰ってからでなければ、決められないだろう。
「別に見返りを求めてのことじゃないから、あまり気にしないでくれ。さぁ、明日に備えて、今日は休もう」
そう声を掛け、明かりの魔術具を消して俺達は布団へと潜り込んだ。日中のこともあり、フィリーネは特に疲れていたようで、右隣からはすぐに寝息が聞こえ始めた。
その規則正しい息遣いを聞いている間に、俺の意識も次第に薄れていくのだった。
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