284話 新たなる目的地へ1
「アメリア、次の目的地が決まったぞ!」
赤毛の少女を残してきた部屋の扉を、勢い良く開きながら中へと声を掛ける。アメリア達は何やら話をしていたようで、部屋の真ん中にある丸テーブルの周辺に、エリーゼと青髪の女性と共に腰掛けていた。
俺が突然声を掛けたためか、アメリアは俺達に背を向けたまま、肩を大きく跳ね上げた。だが俺達の方を振り向かず、その場で少し顔を俯かせた。
そのアメリアの反応が、俺は少し気になった。普段のアメリアであれば、すぐにこちらを振り返り俺の言葉に答えを返したはずだ。俺達がいない間に、一体どういう話をしたのだろうか。
訝しみながら、俺は少女の方へと歩み寄る。そうして少し顔を覗き込むような形で、声を掛ける。
「アメリア、どうかしたか?」
「いえ、その……何でもないわ」
何とも歯切れの悪い答えが返った。首を傾げながら覗き込んでみれば、何やらアメリアの様子がおかしい。熱でもあるのかと思うくらいに、アメリアは頬を真っ赤に染めていた。
「顔が赤いぞ? もしかして、体調でも悪いのか?」
腕を伸ばし、アメリアの額へと手を当てれば、赤毛の少女はピクリと体を揺らした。その顔には、益々赤みが差したように思える。
幸いにも、手から伝わる温度は平熱の範囲内だった。うむ、大丈夫そうだな。顔を赤くしている理由はわからないが。
「大丈夫、だから……」
いつもより幾分か小さな声だったが、本当に辛いようであれば何か言うだろう。
ひとまずアメリアの様子は置いておいて、話を先に進めよう。
「そうか? それじゃ、わかったことを話すぞ?」
「えぇ、お願い」
アメリアに一声かけ、椅子を引いてフィリーネを座らせる。それから俺はアメリアを挟んで反対側へと腰かけた。
さて、これからの事を話さなければならないが、その前にまずはクリスティーネとシャルロットの行方を話しておかなければならないだろう。
「アメリア、結論から言うと、クリスとシャルはここにはいなかった」
「……まぁ、貴方の様子を見れば、それは何となくわかってたわ」
俺の言葉に、アメリアはそれほど驚いた様子もなく答えた。確かに、もしも二人がこの屋敷にいたのなら、俺は間違いなくここに来るよりも先に、二人の元に行っているだろうからな。そうして、自由になった二人をこの部屋に連れてきたはずだ。
俺がフィリーネだけを連れてここに現れた時点で、二人がこの屋敷にいないことの証左であったわけだ。それがわかるあたり、大分アメリアも俺の事を理解していると思う。
「それで、結局二人はどこにいるかはわかったの?」
「あぁ、それもわかってる。ちょっと待ってくれ」
俺は一度断りを入れると、背負い袋を引き寄せる。その中から、王国との国境沿いの町で購入した地図を取り出し、丸テーブルの上に広げた。
アメリアが少し身を乗り出す様子を横目に見ながら、俺は地図の下側を指差した。
「まずここが、今俺達がいるこの町、ダスターガラーだ」
「えぇ、それは覚えてるわ」
アメリアが小さく頷く。この町の位置については、ここに来る際に地図で確認しているため、フィリーネもアメリアも既に知っている。だが、俺達が帝国で実際に知っているのは、川沿いの町とこの町くらいのものである。
そこから、俺は指を地図の上の方へとスライドさせた。
「まずシャルロットがいるのは、この町から北に五日程行った先にある町、城塞都市ザーマクガラーだ」
「城塞都市……って、何かしら?」
俺の言葉に、アメリアが小さく小首を傾げて見せる。確かに、あまり聞きなれない言葉だろう。火兎族の里で暮らしていたアメリアにとっては、尚更だ。
「城塞都市って言うのは、周囲を城壁に囲まれた町の事を言うんだ。普通の町よりも、内側の町や住民を守るために、強固な壁を作ってるってことだな」
説明をすれば、アメリアはほぅほぅと頷いた。
「ふぅん……そこにシャルロットがいるの?」
「あくまで、そう言う話だってだけだな。ただ、あの状況でイリダールが嘘を吐いたとも考え辛いから、信憑性は高いと思うぞ」
確かイリダールの話では、その町で魔術具開発の責任者をやっている、パーヴェルと言う男がシャルロットを購入したということだった。その男は、既にシャルロットを連れてザーマクガラーの町へと戻ったらしい。
今から追いかけたところで追いつけないし、町まで五日を要するのであれば、それなりに準備も必要だ。結局のところ、シャルロットを助け出そうと思えば、ザーマクガラーの町には入る必要があるだろう。
「なるほどね……それで、クリスはシャルと一緒じゃないの?」
「あぁ、それなんだが、二人を買っていったのは別々の人物らしくてな。クリスがいるのはさらに北――」
指をさらに地図の上の方へと動かす。
「――帝都ゴーラトガラーって話だ」
「ふぅん、帝都ねぇ」
俺の言葉に、アメリアが言葉を溢す。あまりピンと来ていない様子だが、俺も帝都の様子などはまったくわからないため、特別な感想はない。ただ、ここからさらに北ということは、相応に寒いのだろうと予測された。
アメリアを挟んで反対側で地図を眺めていたフィリーネが、地図から顔を上げてこちらを向く。
「それじゃジーくん、フィー達はこれから北に行くの?」
「あぁ、今日はもう遅いから宿で休むとして、明日の午前中は旅の準備に費やそう。明日の昼過ぎには町を出るつもりだから、フィナもアメリアもそのつもりでいてくれ」
「わかったの!」
急いだところで二人を買った者達に追いつけはしないだろうが、かと言って急がない理由もない。善は急げだ。出来るだけ早めに次の町へと辿り着き、二人を助け出す算段を練るべきだろう。
俺の言葉に、フィリーネは両の拳を握って答えた。アメリアも頷きを見せ、次いで口を開く。
「私も、それでいいわ。ただ、ジークに一つお願いがあるの?」
「なんだ?」
今までアメリアはこういった旅程に対して、異議を唱えたことはない。それがわざわざ言葉を発したのならば、あまりにも突拍子もないことではない限り、俺は受け入れるつもりだ。
俺の言葉に、アメリアはもう一人の赤毛の少女へと視線を向ける。
「私達の旅に、エリーゼを同行させて欲しいの」
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