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28話 生き残った少女3

 王都を目指して歩く道中、俺の背後で動きがあった。もぞもぞという動きに、俺の体が少し揺られる。その動きに、俺は歩みを止める。隣を歩くクリスティーネも気が付いたようで、少し顔を寄せてきた。

 後ろを振り返って少女の顔を覗き込めば、ゆっくりとその瞼が持ち上げられる。そうして、髪色と同じ水色の瞳が俺の姿をはっきりと映し出した。それから二、三度瞬きをしたかと思うと、そのくりくりとした瞳を大きく見開いた。


「ひっ、やっ!」


「ぐえっ!」


 驚いたのか、背の少女が思い切り体を仰け反らせる。この時、少女の両手は俺の首に回されており、その両手には魔封じの枷がしっかりと嵌められ、枷と枷を鎖が繋いでいる。必然的に俺の首は絞められることとなり、俺は呻き声をあげた。

 軽く少女の背を叩くが、パニックを起こした少女は暴れるばかりだ。そこへ、救いの手が差し伸べられる。


「驚かせちゃった? 大丈夫だから、ね?」


 クリスティーネが優しく笑いかけると、背中の少女の動きが止まった。それから、ゆるゆると腕が緩められる。首締めから解放されたことで、俺はゆっくりと呼吸を整えた。

 それから、少し屈んで背の少女をそろそろと地面へと降ろした。その途端、少女は地面にへたり込んでしまった。俺は慌てて、少女の顔を覗き込む。


「大丈夫か?」


「だ、大丈夫、です」


 そう言って、少女は弱々しい笑みを見せる。どう見ても作り笑いである。

 さて、どうしたものだろうか。このまま少女を背負って王都を目指すこともできるが、見ず知らずの男女に連れられるのは、少女にとって恐怖以外の何物でもないだろう。少し話をして、少なくとも俺達が危険ではないということをわかってもらったほうがいい。


「クリス、少し休憩していこう」


「そうだね、それがいいと思うわ!」


 街道から少し外れた場所へと移動し、俺達は草原に腰を下ろした。少女は動けないようだったので抱えて移動させたが、緊張しているのか怖がっているのか、少女は身を固くしていた。

 それから魔術で火を起こし、背負い袋から取り出した鍋に水を入れ、さらに茶の葉を投入する。しばらくして出来上がった茶を木製の器に入れ、少女へと渡してやる。少女はおっかなびっくりながらも、おずおずと受け取ってくれた。


「えっと、その……ありがとう、ございます」


「少しは落ち着いたか?」


「えぇと……はい」


 少女が小さく頷く。俺は自分の茶を口に運びつつ、改めて少女を観察した。

 水色の髪と瞳を持つ少女は、見た目で言うと12歳くらいだろうか。少々薄汚れているものの、顔立ちはかなり整って見える。綺麗にすれば、大層な美少女であることが窺えた。

 それに対し、着ているものは質素な灰色の麻で出来たボロだった。身に付けた手枷、足枷と相まって、見た目は奴隷のようにも見えた。


 さて、何から説明したものか。俺達が少女を助けるに至った経緯は説明する必要があるが、俺としてもその前の状況が知りたいところだ。まずは少女にいろいろと確認するのが良いだろう。


「それで……そうだ、名前はわかるか?」


「は、はい……シャルロット、です」


「シャルロット……シャルだな。俺はジークハルト。ジークと呼んでくれ」


「シャルちゃん、私はクリスティーネ! クリスって呼んでね?」


「わ、わかりました。ジークさんと、クリスさん、ですね」


 少女、シャルロットがこくこくと頷いて見せる。その様子は、先程よりも少し落ち着いたものだった。

 それでも、手元の茶を飲むことも忘れているようだった。試しに勧めてみれば、慌てたように口を付け、むせてケホケホと息を吐きだした。まだ緊張しているのか、それとも持って生まれた性格によるものなのかは、まだ判断がつかないところだ。


 名前も知れたことだし、次の質問へと移ろう。知りたいことはいろいろあるが、まずは何があったのか、からだろうか。


「シャル、何があったかわかるか?」


「えっ? えぇと……私達は、魔物に襲われて……」


「ワイルドウルフだな。お前達が襲われているのを、俺とクリスが見つけたんだ。魔物はすべて倒したから、もう安全だぞ」


「助けて、くれたんですね。ありがとう、ございます」


 シャルロットが素直に礼を言う。それから、何かを探すように周囲を見回した。どうしたのだろうかと思っていると、シャルロットが躊躇いがちに口を開いた。


「あの……私以外の、子供達は……?」


 そうだった、あの場にはシャルロット以外にも多くの子供達がいたのだった。あの中にはシャルロットの見知った者、もしかしたら兄弟などもいた可能性がある。何と説明したものだろうか。

 俺は少し考え込んだが、正直に答えることにした。誤魔化そうにも、上手い嘘が言えそうにない。


「残念だが、俺達が見つけた時には、シャル以外に生きている子供はいなかった。助けられなくてすまない」


「いえ、ジークさんに謝られることでは……あの状況ですし、仕方がありません」


 そう言って、弱々しい微笑みを見せる。シャルロットも予想はしていたのだろう。その表情には諦観が見えた。

 そんなシャルロットに質問を重ねるのは少々酷かもしれないが、まだまだ聞かなければいけないことはたくさんある。俺は気が進まないものの、再び口を開いた。


「あの子供達は、みんなシャルの知り合いか?」


「いえ、少しは話もしましたが……みんな、知らない子達です」


 その答えに、俺はクリスティーネと揃って首を捻る。てっきり、シャルロットが知っているものとばかり思っていたのだ。それなら、シャルロットと子供達はどういった関係性なのだろうか。それに、手枷と足枷をしている理由もまだわからない。


「う~ん、まだよくわからないね……シャルちゃん、少しずつでいいから、その、初めから教えてもらえるかな?」


「初めから……はい、わかりました」


 クリスティーネが優しく問いかければ、シャルロットは何かを思い出すように遠くを見つめた後、頷いて見せる。

 そうして、少女は語り始めるのだった。

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