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279話 突入と捕縛3

 胸中に焦燥感を募らせながらも、俺は室内へと目を向ける。どこか物陰などに、二人の姿がないかと探し求めるが、室内にはそこまで物は多くなく、見通しもよかった。少なくとも、この部屋にも二人はいないと見て間違いないだろう。


「どういうことだ? 二人はここにいたんじゃなかったのか?」


 俺の言葉に、フィリーネがひょっこりと室内へと頭を覗かせる。それから一通り室内を眺めた後、俺の方を見上げて小首を傾げて見せた。


「間違いないの。二人とも、お昼まではいたの!」


 そう言って、フィリーネは自分が目で見てきたことを説明してくれた。

 クリスティーネとシャルロットの二人は、間違いなく今日の昼にはこの屋敷にいたそうだ。少し遠目ではあったが、パーティ会場にいた二人の姿を見間違うはずがないと言う。

 何度か会場を出入りしたが、二人は他の奴隷達と並び立ち、貴族達に鑑賞されていたようだ。残念ながら、夕方には裏方の仕事があったため、二人がそれからどこに行ったのかはわからないということだ。


 フィリーネの証言に、俺は両腕を組む。ここは一度、ナターリヤの元に戻り、屋敷の主人であるイリダールから二人の行方を聞き出すのが早そうだ。

 そう考える俺の傍で、アメリアが室内へと顔を覗かせた。それから、何かに気が付いたように紅の瞳を大きく見開いた。


「……えっ?」


「どうした、アメリア?」


 何か気が付いたのかと声を掛けるが、アメリアは答えない。その代わりというように、室内へと足を踏み入れると、テーブルの方へと一歩、二歩と近付いた。

 そちらには、火兎族と思しき少女が腰掛けている。本を広げた状態で、こちらへと視線を向けていた。


「貴方、エリーじゃない?」


「えっ?」


 エリーと呼ばれた赤毛の少女は、アメリアの言葉に小さく小首を傾げて見せた。それから徐々に瞳を大きくしたかと思えば、テーブルに手をつき勢いよく立ち上がる。


「もしかして、アミー?!」


 その言葉を皮切りに、二人は互いへと駆け寄る。その距離が零になったところで、互いの体をひしと抱き締めた。


「エリー、生きててよかった」


「アミーも、元気そうだね」


 見る限り、二人は既知の間柄のようだ。確かに、二人とも火兎族なのだし、面識があってもおかしくはない。火兎族が俺達の訪れた里にしか存在しないというわけではないと思うが、ここからの距離を考慮すると同郷と言う可能性の方が高いだろう。


「アメリア、知り合いか?」


 二人の方へと歩み寄りながら声を掛ければ、アメリアは赤毛の少女へと抱き着いたまま、俺の方へと顔を向けた。


「えぇ、火兎族の里の友達よ」


 なるほど、有り得ない話ではない。クリスティーネとシャルロットがそうだったように、この少女も奴隷狩りに捕らえられ、シュネーベルクの町で売られたのだろう。それからここ、ダスターガラーの奴隷商の手に渡り、イリダールによって買われたということだ。

 と言うことは、この少女もあの赤い鎖を操る男、確かゴルトと言ったか、あの男の被害者と言うことだろうか。そうアメリアへと問いかけてみれば、少女は首を横に振って見せた。


「いえ、エリーはもっとずっと前……確か、五年程前に、別の男に捕らえられたの。私達……私とエリーと、それからベティーとロジーの四人で、シュネーベルクの町に行ったときにね」


 どうやら最近の出来事ではないようだ。そんなに前から奴隷狩りの被害に遭っていたとは、火兎族を取り巻く状況と言うのはなかなかに大変なものである。

 そこでふと、以前聞いた話を思い出した。あれは火兎族の里から一時的に洞窟へと避難していた、ある夜のことだ。火兎族であるベティーナとロジーナの口から、以前奴隷狩りに捕らえられたエリーゼと言う少女の話を聞いていた。

 そのエリーゼと言うのが、今目の前にいる少女と言うことだろう。


「なるほどな、以前聞いたエリーゼって言うのは、この子のことか」


「あら? 私、そんな話をしたかしら?」


 俺の言葉に、アメリアは少し不思議そうな顔を浮かべた。

 それに対し、俺は軽く首を横へと振って見せる。


「いや、前にベティーナとロジーナからな」


「ふぅん……ねぇ、他に何か変な話とか、していないでしょうね?」


「いや、別に?」


 アメリアが訝しむような顔を向けてくるのに対し、俺は再び首を横に振って見せた。特に、アメリアが気にするようなことは話していないはずだ。

 出来ることなら、次に火兎族の里を訪問した時には、アメリアの昔話なども聞いてみたいところだが。


 そんな俺達のやり取りをどう思ったのか、エリーゼは俺とアメリアの顔を見比べる。それから少しアメリアの影になるよう位置取り、口を開いた。


「ねぇアミー、この人達は?」


「えっと……色々あって、一緒に旅をしているの。こっちがジークハルトで、そっちがフィリーネ」


「えっ?!」


 アメリアの説明に、エリーゼは何故だか驚いたような表情を見せた。それから、俺の顔をまじまじとした様子で眺めてきた。

 一体なんだというのか。少なくとも、俺にはそんな風に見られる心当たりなどない。


「そう言えば、アミーと一緒に旅してるって言ってたっけ……と言う事はもしかして貴方、クリスちゃんとシャルちゃんの知り合い?」


「二人を知ってるのか?!」


 前のめりに問えば、エリーゼはどこか嬉しそうな様子で両掌を合わせて見せた。


「えぇ、この部屋で一緒に生活してるから。それにしても……ふぅん、なるほどねぇ」


「……なんだ?」


 どこか興味深そうな視線を向けてくるエリーゼに対し、俺は少し体を引いた。


「ううん、貴方について話を聞いていたから、ちょっとね。もしかして、二人を助けに来たの?」


 どうやら同室だった二人から、俺達に関して話を聞いているようだ。確かにシャルロットはともかく、クリスティーネならすぐに打ち解けて、身の上話などしていてもおかしくはない。

 どういった話をしていたのか、詳しく聞いてみたいところはあるが、今はそれよりも二人の行方だ。


「あぁ、二人がどこにいるか、わかるか?」


「ごめんなさい、夕方までは一緒だったんだけど、それ以降は……多分、イリダールなら知っていると思うわ」


「そうか……」


 どうやら彼女も詳しい事情は知らないらしい。やはり、二人の居場所を知るためには、イリダールを問い詰めるほかないようだ。

 ここはひとまず、ナターリヤの元へと行くのが良いだろう。俺は傍らのフィリーネへと視線を向けた。


「フィナ、ナターリヤのところへ行こう」


「ん、わかったの!」


「待って、私も行くわ」


 俺がフィリーネを伴って部屋を後にしようとしたところ、アメリアが声を上げた。

 その言葉に少し考え、俺はゆるやかに首を横に振って見せる。


「いや、アメリアはここで話をしていていいぞ。どうせ、二人の居場所を聞くだけだ」


「それは、でも……」


 言い淀み、アメリアは俺とエリーゼの顔を交互に見やった。その顔は、俺の言うようにエリーゼと話をしていたいが、二人の行方も気になると物語っていた。

 そんなアメリアの頭へと、俺は軽く片手を乗せた。


「五年振りに会ったんだろう? じっくり話をするといいさ。二人のことは、俺達でじっくり聞いておくから」


「……わかったわ、ありがとう。一応、気を付けるのよ」


「あぁ、アメリアもな」


 それから俺はアメリアを部屋へと残し、フィリーネを伴って再び屋敷の中を歩き始めた。

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