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27話 生き残った少女2

「こいつらの処理は後回しだ! まずは生存者を救助するぞ!」


「うん!」


 俺は倒したばかりのワイルドウルフ達をその場に放置し、クリスティーネに声を掛けて倒れた人影の方へと駆け寄った。既に絶命したワイルドウルフ達の処理は後でも出来るが、倒れた者達の中には、まだ助けられる人がいるかもしれない。

 そうして倒れた人影の傍へと駆け寄った俺は目を疑った。その場に倒れているのは、どれも10歳前後と思わしき子供ばかりだったのである。道理で、遠目で見た際に人影が小さく見えたわけである。

 そんな子供が、十人ばかり横たわっている。ほとんどは人族のようだが、中には獣人と思わしき姿もあった。


 俺は倒れた子供の傍へと駆け寄り、腰を落として状態を確認する。そうして一人、二人と確認していくが、呼吸はしておらず胸の鼓動も止まり、既に事切れているようだった。ワイルドウルフに食い荒らされたのか、遺体の損傷も激しい。


「『強き光の癒しリヒト・シュタルク・ハイレン』!」


 子供達を確認する俺の背後から、クリスティーネが治癒術を行使する声が聞こえてきた。俺はしゃがみ込んだクリスティーネの方へと駆け寄るとその隣に立ち、目の前の子供を見下ろした。

 そこに倒れていたのは、一人の少女だった。緩くウェーブのかかった水色の長い髪が特徴的である。その肌は、死んでいるのではないかと思えるくらいに真っ白だった。


「生存者か?」


 死んでいてもおかしくはないと思いつつ問いかければ、クリスティーネからは頷きが返った。


「うん、怪我はしてるけど、気絶してるだけみたい」


「わかった、それならその子を頼む」


 水色の髪の少女をクリスティーネへと託し、俺は残りの子供の様子を見に回る。しかし、残念ながら他に生存者は見つからなかった。溜息を吐きながらクリスティーネの傍へと戻ってくる。水色の髪の少女は未だ目を覚ましていない様子だ。

 それにしても、と俺は周囲を一度ぐるりと見渡した。なぜ子供ばかりがワイルドウルフの犠牲となっているのだろうか。それも、皆同じように質素な灰色のボロを着た姿でだ。街の外に出るというのに、大人の姿が見えないのが不思議である。それとも、共にいた大人はワイルドウルフに恐れをなして逃げ出したのだろうか。

 俺はクリスティーネの太ももの上に頭を乗せられた、水色の髪を持つ少女を見下ろした。何よりも気にかかるのは、少女の手に嵌められた無骨な手枷と足枷だ。その両手と両足には枷が嵌められ、それぞれを短い鎖が繋いでいた。どの子供にも、その体の自由を奪うように黒い手枷と足枷が嵌められていたのだ。


 枷を嵌められる存在として俺が思い当たるのは、奴隷だ。この国には奴隷と呼ばれる者達が存在する。奴隷には大きく分けて二種類が存在した。即ち、借金奴隷と犯罪奴隷だ。

 借金奴隷というのは、何らかの理由により財産が底をつき、借金を背負った者達が行きつく先である。借金の金額にもよるが、購入した主人の元で労働などに従事することになる。

 金額分の働きをすれば奴隷から解放されるし、その者の持つ技能によっては重宝される存在にもなる。奴隷から解放された後も仕えた主人の下で働くことも珍しいことではなく、奴隷と言ってもそこまで悲観した存在ではない。


 対して、犯罪奴隷というのは殺人など、犯罪を犯した者が落とされる身分である。その後の人生というものは大層辛く、国に管理された鉱山などで肉体労働に従事することになるという。刑期が終わるまで、犯罪奴隷達に自由はない。

 そうした犯罪奴隷達が逃げ出さないように付けられるのが、魔封じの枷だった。この枷は取り付けられた者の魔力を吸うため、魔術の使用はもちろん、身体強化の使用まで封じてしまう。こういった枷をしなければ、犯罪を犯すような者達の中には身体強化などが得意なものも多く、危険だからである。


 しかし、と俺は思考から抜け出し、今なお眠り続ける少女を見下ろした。この年若き子供達が犯罪奴隷はもちろんのこと、借金奴隷だとは到底思えない。どこからどう見ても、そのあたりの街にいる普通の子供達だ。

 これ以上考えていても仕方がない。俺は次の行動に移ることにした。


「クリスはそのまま、その子の様子を見ていてくれるか?」


「うん、わかったわ。ジークはどうするの?」


「子供達を埋葬してくるよ。このまま野晒しはあんまりだろう。何かあったら、すぐに呼んでくれ」


 俺はクリスティーネにそう言い残し、倒れた子供を一人抱え上げて街道から少し離れた場所へと向かう。そうして土魔術で穴を掘り、一人一人丁寧に埋葬した。何か身元を証明するものでもあればと思ったが、残念ながら誰一人、何一つとして見つからなかった。

 墓石代わりの岩を生成して埋め、手を合わせる。簡素ではあるが、これ以上俺には何もしてやれないだろう。


 それからクリスティーネの元に戻った俺は、少女の意識がまだ戻らないことを確認すると、ワイルドウルフ達の解体へと向かった。移動した先には、ワイルドウルフ達が俺達によって倒された姿のままで地面へと倒れ伏している。

 俺は手早くワイルドウルフを解体し、その魔石を入手する。そうしてさらに、ワイルドウルフの毛皮を剥ぎ取っていった。ワイルドウルフの毛皮は、これで結構いい値が付くのだ。魔術で倒したワイルドウルフは胴体に大きな穴が空いているが、剣で倒した二匹は首意外に目立った外傷はない。これなら高く売れることだろう。


 剥ぎ取った毛皮を背負い袋へと仕舞い、俺はクリスティーネの元へと再び戻った。クリスティーネは、太ももの上に少女の頭を乗せた先程の姿のままだ。


「まだ目を覚まさないか?」


「うん、もう怪我は治ってるんだけど……どうする、ジーク?」


「そうだな……」


 このまま少女の目覚めを待つという選択もあるが、それが何時になるのかわからない。ともすれば、日が暮れることになるだろう。

 それなら、王都に向けて移動した方が良いだろう。既に王都までは折り返しを過ぎているのだ。その道中で少女が目を覚ませば休憩がてら話を聞けばいいし、先に王都へ着くならそれでも構わない。宿に泊まって、ゆっくりと少女の目覚めを待とう。


「よし、王都に移動しよう。その子は俺が背負う」


 男として、クリスティーネに背負わせるわけにはいかない。俺は水色の髪の少女を背負うと、クリスティーネと共に王都へと歩き始めた。

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