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269話 潜入2

 突然現れた男の姿に、アメリアが警戒を露わにその身を低くした。それに対し、俺は特に構えを取らなかった。どう見ても男は武器のようなものを携帯しておらず、敵意のようなものも感じなかったからだ。

 だが、疑問はある。何故、俺達の元に現れたのだろうか。確かに俺達は昨日、奴隷店の前で言葉を交わしたが、それだけだ。男から情報を聞き出すために、対価として金貨を差し出したが、それ以上の関係性はない。


 改めて、男の全身像を視界に収める。

 少し痩せ型で、俺よりも僅かに身長は高いだろうか。ぼさぼさの灰色の短髪に、髪と同じ色で少し垂れ気味の瞳をしている。昨日見たときは着古したよれよれの服を着ていたが、今日はもう少しちゃんとした服装をしていた。

 男は片足が不自由なのか、少し歩き方に妙なところがあった。


「何の用だ? もう金貨はやらないぞ? 十分情報は貰ったからな」


 そう声を掛けてみれば、男は大仰に肩を竦めて見せる。


「おいおい、そう邪険にしないでくれよ。折角、あんた達にいい話を持ってきたんだからな」


「いい話?」


 俺は首を傾げながら短く問い返す。

 いい話も何も、男は俺達の事情など、大して知らないはずである。それなのに、男の口調はまるで俺達の事情を知っているかのようだ。

 訝しむ俺の前で、男は続けて口を開く。


「昨日言っていた、銀髪と水色の髪の娘を探してるんだろう? あんた達とどういう関係かまでは知らないが、わざわざ奴隷店を回って探すくらいには大切な相手ってことだ。それで、その娘達がいる屋敷をここから見てたんだろう?」


「……さて、どうだろうな」


 男がどのような立場なのかわからない以上、あまり迂闊なことを言うべきではないだろう。俺は内心を悟られないよう、平静を装って答えをはぐらかした。

 それを聞き、男はぷらぷらと両手を軽く振って見せる。


「そう警戒するなよ。あんた達、あの屋敷に手出しができないんだろう? そこで、あの屋敷に潜り込めるいい話があるんだ。俺について来てくれたら、人を紹介するぜ?」


「……それに従ったとして、あんたに何の得があるんだ?」


 何の得もなく、俺達に都合のいい話を持ってくるわけがない。上手い話には裏があるというものだ。俺達に話を持ち掛ける以上は、男にとっても得のある話なのだろう。

 そう思って問いかければ、男は唇の端を吊り上げた。


「まぁ、ちょいとここの領主には恨みがあってね。あんた達があの領主に一泡吹かせてくれるんなら、俺としても少しは気が晴れるってものだ」


「……なるほどな」


 男の言い分をすべて信じることはできないが、何かしら男にとっての得はあるのだろう。何もないと言われるよりは、その方が信用は出来る。

 とは言え、俺の一存で決めるというわけにもいかない。


「……少し考えさせてくれ。フィナ、アメリア」


 俺は二人へと声を掛け、少し男から離れる。

 それから声を潜めて話し始めた。


「二人はどう思う?」


「どうって、明らかに怪しいでしょう。ジーク、まさかあの男について行くつもり?」


 どうやら、アメリアとしてはあの男について行くことには反対らしい。まぁ、アメリアは人一倍、警戒心が高いからな。怪しげな男について行くことを、そう簡単に良しとはしないだろう。

 続いて、俺はフィリーネへと目線を移す。


「フィナはどうだ?」


「んん、アーちゃんの言う通り怪しいけど……ついて行っても大丈夫だと思うの。何か危ないことがあっても、あの人を人質にとればいいの」


 なかなか物騒なことを考えているようだ。だが確かに、あの男が俺達を騙そうとしていたとしても、身柄を取り押さえるのは容易だろう。

 何せ、男は片足が不自由なのだ。そんな体では、俺達を相手に逃走も抵抗もできはしないだろう。


 俺としても、男の話に乗るのは賛成だった。何しろ、今の俺達には打つ手がないのだ。少しでも現状を打開する手掛かりが欲しい状態の今、男の話を聞いてから次の手を考えても遅くはないだろう。

 そう俺が口にすると、若干渋々といった様子のアメリアだったが、首を縦に振った。


「まぁ……ジークがそう言うなら、それでいいわ」


「悪いな、アメリア」


「……ふん」


 宥めるようにアメリアの頭に片手を乗せれば、アメリアは少し頬を染めて俺から目を逸らした。アメリアとの付き合いもそれなりに長くなってきた。この反応は怒っているわけではなく、照れているのだと俺にはわかる。

 その様子を目にしてか、フィリーネが無言で俺の方へと身を寄せる。そうしてねだるような瞳で、俺の方を上目で見上げてきた。その頬は少々膨らみを帯びている。


 口を開かずともわかる。俺は無言でフィリーネの頭へと片手を乗せた。途端にフィリーネが口元に笑みを浮かべたので、対応は間違っていなかったのだろう。

 ひとまず、意思の統一は出来た。俺は二人に対して一つ頷きを見せると、再び男の方へと向き直る。


「わかった、案内してくれ」


「そうこなくっちゃな。俺はレナートって言うんだ。よろしく頼むぜ」


 そう言うと、男は片足を引き摺るようにしながら、俺達を先導し始めた。

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