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267話 ガールズトーク5

 改めて自覚してみると、こんなに恥ずかしいことだとは思わなかった。ここにジークハルトがいなくて、本当によかった。もしいたとしたら、余りの恥ずかしさに目を合わせることなどできなかっただろう。

 一体いつから、私はジークハルトに恋をしていたのだろうか。思い返してみれば、随分と前からジークハルトに対して、好意を抱いていたように思う。フィリーネと出会った頃だろうか。いや、シャルロットと出会った頃には、既に好きだったような。


「ふふふ、これは楽しめそうね」


「……私、今いっぱいいっぱいで……ちょっと、考えさせて」


 何やら楽しそうな表情をしているエリーゼには申し訳ないが、今の私にはまったく余裕と言うものがない。何だかいろいろな考えが、頭の中をぐるぐると回って、無性に叫び出したくなる。

 私は机に突っ伏し、頭を抱える。私はこれから、どんな顔をしてジークハルトに会えばいいのだろうか。いや、今のままでは会うこともままならないのはわかっているんだけど。

 悶える私に顔を覗き込むように、エリーゼが机に顔を伏せる。


「えぇっ、これから具体的な話をするのが、恋バナの醍醐味なのにっ!」


「……無理」


 とてもではないが無理だ。

 私は今まで、良くもあんなに恥じらいもなく、ジークハルトに抱き着いたり、頭を撫でられたりしたものだ。彼に恋をしていると自覚した今、以前のように何も考えずに接することは不可能だろう。


「仕方ないなぁ……それじゃ、次はシャルちゃんの番ね!」


「えっ?!」


 どうやら私が話せない状態とみて、標的がシャルロットへと移ったようだ。シャルロットには申し訳ないが、エリーゼの注意がそちらに向いているうちに、気持ちを整えよう。

 私が頭を抱える前で、エリーゼがシャルロットに向き直る気配がした。


「それで、シャルちゃんは……あれ? シャルちゃん、なんでそんなに顔を赤くしてるの?」


 エリーゼが不思議そうな声を漏らした。その言葉にシャルロットの様子が気になり、私も腕の隙間から窺い見てみれば、そこには顔を真っ赤にしたシャルロットがいた。


「え? いえ、その、それは……」


 シャルロットは焦ったように小さく呟くと、その小柄な体躯をさらに縮めて見せた。その様子は、明らかに恥ずかしがっているように見えた。

 どうして先程までの会話で、シャルロットが恥ずかしがっているのだろうかと、私は首を傾げる。先程の私とエリーゼとの会話は、私がジークハルトの事をどう思っているのかと言うことだ。決して、シャルロットが恥ずかしがるような内容が含まれていたとは思えないのだが。


 そう思った時、あることに気が付いた。

 今のシャルロットの様子は、まるで私を見ているようだ。顔を真っ赤に染め、何を言えばいいのかわからないといった風に恥ずかしがる様子は、今の私によく似ている。

 そのことと、先程までの会話の内容を思い返せば、自然と答えが思い浮かんだ。


「もしかして、シャルちゃん……シャルちゃんも、ジークに恋をしているの?」


 私の言葉に、シャルロットは益々顔を赤く染め、太腿の上で両手を握って俯いた。答えは返らなかったが、その様子で察せられる。

 私が驚きに何と声を掛けようかと迷っていると、腰を浮かせたエリーゼがシャルロットの方へと身を乗り出す。


「で? で? どうなの、シャルちゃん?」


 エリーゼの追及を受け、シャルロットはむぐむぐと唇を小さく動かしているが、やがてほんの僅かに頷きを見せた。その様子を目に、私は思わず方から力抜いた。反対に、エリーゼはその場で両の拳を握る始末だ。


「これよ! やっぱり恋バナはこうでなくっちゃ!」


 何やら興奮した様子のエリーゼは、ひとまず置いておこう。出会った時はもう少し落ち着いた印象だったのだが、恋の話をすると人はここまで興奮するものなのか。

 それよりも、今はシャルロットのことだ。私自身も未だ恥ずかしい気持ちはあるが、今はシャルロットの心境と言うものを聞いてみたい。


「もしかして、シャルちゃんもさっきの話で、自分がジークに恋をしているって、自覚しちゃった?」


 おそらく、シャルロットは先程の私の話を、自分自身に置き換えて聞いていたのだろう。それで、自分にもたくさんのことが当て嵌まったに違いない。

 そうして、自分がジークハルトに恋をしたと気が付いたのだ。だからこそ、今の私と同じように、これほどまでに恥ずかしがっているに違いない。


 そう思って問いかけたのだが、ややあってシャルロットは首を横に振った。それから顔は若干伏せたまま、おずおずと私の方へと上目だけを向けてくる。


「いえ、その……自覚は、以前からあったんです。ただ、改めて言われると、恥ずかしくなって……」


 言葉尻は小さくなり、シャルロットは尚も恥ずかしがるように体を丸めて見せた。

 その言葉を受け、私は衝撃を受けた。

 何ということだ。シャルロット自身は、自分がジークハルトに恋をしていることを、以前から自覚していたということである。自覚のなかった私なんかより、ずっと先を進んでいたようだ。

 小さな体躯の少女が、何故だか私より年上に見えてきた。


「えっと、シャルちゃんはその……いつから?」


 いつからジークハルトに恋をしていたのだろうか。そんな素振りは……いや、よくよく思い返してみれば、心当たりはあるような。

 ジークハルトに後ろから抱き抱えられている時とか、頭を撫でられているときなどは、実に幸せそうな顔をしていた。


 私の問いに、シャルロットはチラリと私を見上げ、再び顔を伏せる。


「その……お二人に、助けられた時から、です」


 シャルロットが言っているのが、魔物に襲われていた時なのか、それとも人攫いから助けた時のことか、どちらを言っているのかはわからないが、どちらにせよ出会ってすぐのことには違いない。

 そうか、シャルロットはそんなに前からジークハルトに恋をしていたのか。


 だが、シャルロットの気持ちはわかる。何しろ、私自身もジークハルトに恋をしている身なのだ。好きになるのも無理はないと思うのだ。

 思えば、フィリーネだってそうだろう。彼女は常日頃から、ジークハルトへの好意を口に出していた。てっきり、以前の私のように恋愛感情と言うわけではないと思っていたのだが、今思えばあの瞳は明確に恋する乙女のそれだった。フィリーネもジークハルトに恋をしていると見て、まず間違いないだろう、


 後はアメリアだが、彼女はどうだろうか。最初はジークハルトに対して敵対心を露わにしていた彼女も、旅を通して大分打ち解けていた。

 とは言え、流石に恋はしていないのではないだろうか。少なくとも私の目で見る限りは、そんな態度は見えなかった。


 とは言え、今の今まで恋をしていることを自覚していなかった私の目から見ての話だ。実際のアメリアの胸中はわからないし、ここ数日の間、私達のいない間に距離を詰めている可能性だってある。

 何せ、相手はあのジークハルトだ。私が彼に恋をしているからなのかもしれないが、例え好きになったとしても、無理はないと思う。


 そう言う事を考えてみると、何というか複雑な気分だ。彼が人に好かれることは歓迎すべきことのはずなのだが、何というか、もやもやする。

 ふと視線を感じて顔を向ければ、私達の方を向くイルムガルトと目が合った。いつもは退屈そうに窓の外を眺めているイルムガルトだが、今は少し楽しそうな様子だ。どうやら、今までの話を聞いていたらしい。


「さぁ、楽しくなってきたわね! それじゃ今度は、二人が体験した具体的な出来事について聞いて行きましょうか! ちょっとイルマ、貴方もこっちに来て話しましょうよ!」


 エリーゼが窓際のイルムガルトへと声を掛ければ、イルムガルトは少し考え込んだ様子を見せ、徐に腰を上げた。


「……まぁ、暇つぶしくらいにはなりそうね」


 そう口にするイルムガルトは、思いのほか楽しそうにしていた。

 それから私とシャルロットは、エリーゼに今までのジークハルトとの出来事について、根掘り葉掘り聞かれるのだった。

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