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263話 ガールズトーク1

 この屋敷に来てから、三日目となった。三日目にもなれば、ある程度はこの屋敷での過ごし方と言うのもわかってくる。とは言え、そのほとんどは体験したものというより、同室であるエリーゼから聞いた内容になるのだが。


 まず、この屋敷には私とシャルロットを含めて、全部で十二人の奴隷がいるようだ。そしてその全員が、年若く美しい女性だった。

 その中には人族の女性もいたが、奴隷の中に同じ種族の者はおらず、全員がばらばらの種族だった。同室の女性以外とは夕食の席でしか会わないために、今のところ言葉を交わしたことはない。


 奴隷達は三つの部屋に分けられ、そこで共同生活を送っているようだ。私の同室はシャルロットと、火兎族の少女エリーゼに、深い青色の髪をした女性、イルムガルトだ。イルムガルトは自身の種族を教えてくれなかったが、体の各所に鱗があるのを見る限り、人族ではなく異種族に間違いはないだろう。

 私達はこの四人で、一日の大半を室内で過ごすことになった。扉には鍵が掛けられ、窓も嵌め殺しの上に鉄格子まで見えるので、外へ出ることはできない。


 室内には意外にも、暇を潰せるようにと言う配慮だろうか、本棚やいくつかのボードゲームがあるようだ。エリーゼによれば、あまり高価な願いでなければ、編み物と言った趣味も可能らしい。

 エリーゼは一日の大半を、本を読んで過ごしているようだ。それに対し、イルムガルトは窓から外を眺めてばかりいる。その顔からは、外に出たくてたまらないと言う色が見えた。


 部屋にはお手洗いと風呂が隣接しており、外に出る必要はなくなっている。食事も、朝食と昼食が外から運ばれ、部屋の中で食べるようだ。頃合いを見計らって、屋敷の者が食器を下げに来る。

 唯一、外に出られるのが夕食時だ。エリーゼによると毎日と言うわけではないようだが、夕食時の多くは屋敷の食堂へと移動することになる。


 そこで、他の奴隷達と食卓を囲むこととなるのだ。その時、唯一奴隷以外の者として、屋敷の主人であるイリダールがテーブルについていた。

 私とシャルロット、それにエリーゼとイルムガルトはテーブルの端の方にと案内された。イリダールの付近に腰掛けた奴隷達は、何やらイリダールと楽しげに会話をしていた。そこには主人と奴隷と言う関係性が見出せず、初めて見たときは困惑したものだ。イルムガルトは何やら、「あそこまで行ったら終わり」と言っていた。


 後ほど聞いた話によると、奴隷達の中には長い奴隷生活に耐えられず、イリダールに依存する者が出て来るそうだ。イリダールにとって、そう言った者達がお気に入りらしい。

 そういった奴隷がいる限りは、私達の身は安全と言う事らしい。大人しく、目立たずにしていれば、イリダールの興味が向くことはないそうだ。


「それで、どこまで話したんだっけ?」


 丸テーブル脇の椅子に腰かけるなり、エリーゼが首を傾げて見せた。

 今は丁度夕食を終え、再び部屋へと戻ってきたところだ。朝から夕食の時間まで、ずっとおしゃべりを続けていたというのに、まだ話し足りないようだ。

 だが、私達にとっても、エリーゼと話をするのは屋敷のことがわかるので助かる。

 私は夕食前までに交わした会話の内容を思い出しながら、口を開く。


「えっと、一通りここでの過ごし方について、注意点を聞いた感じかな?」


 途中、身の上話や火兎族の隠れ里についての話などで大いに脱線もしたりしたが、大体はそこに収束したはずだった。曰く、目立たず、騒がず、大人しくさえしていれば、少なくとも平穏には暮らせるということである。

 そもそも、イリダールが私達奴隷を購入したのは、パーティなどで自身の奴隷コレクションを自慢するためのようなのだ。そう言った場では外へと出され、着飾られて見世物にされるそうだが、それさえ我慢すれば特に危害を加えられるようなこともないという。


 奴隷の中には、所謂夜の相手なんかをしている者もいるそうだが、それは夕食の席で見た、イリダールに依存している者だけのようだ。イリダールには何やらポリシーのようなものがあるらしく、奴隷を無理矢理手籠めにすることはないらしい。

 それを聞いて、私は大いに安堵したものだ。例え命が危険になっても、好きでもないような相手と、そう言う事をしたくはない。


「そっかそっか。それじゃ、説明はこれで終わりだけど……何か質問とか、あったりする?」


 そう言って、エリーゼが小首を傾げて見せる。

 それに対し、先に口を開いたのはシャルロットだ。


「あ、あの……ここから、逃げようって、思わないん、ですか?」


 胸の前で両腕を組み、たどたどしく問いかける。この部屋に来た頃は、私の陰に隠れていることの多かったシャルロットだが、エリーゼとは大分打ち解けたようで、ある程度話せるようになっていた。

 その反面、イルムガルトとの間にはまだまだ高い壁があるようだ。それは、私も同じである。今もイルムガルトは会話には混ざらず、一人窓際で外の景色を眺めていた。


 さて、シャルロットの疑問だが、それは私も考えたことだ。確かに、日中のほとんどは部屋に閉じ込められているため、脱出の機会はないように見える。

 ただ、夕食の時間だけは部屋の外へと出て、食堂へと移動することになる。その間にいるのは他の奴隷と案内の女性、それに騎士が一人付くだけだ。


 魔封じの腕輪によって身体強化はできないが、上手くいけば逃げ出すことも不可能ではないと思うのだ。もちろん、屋敷を守る騎士は他にもいるのだろうが、彼らは内部から逃げ出す者を捕まえる役目ではなく、外からの侵入を防ぐのが目的だ。

 それなら、不意を突けば屋敷の外くらいには逃げられるのではないだろうか。人混みに紛れてしまえば、そうそう捕まるようなこともないだろう。


 そう思ったのだが、返ってきたのは否定の動作だった。

 エリーゼは首を横に振り、首元へと手を当てる。そこには私に嵌められたのと同じ、装飾の施された首輪が嵌まっている。


「逃げても、すぐに見つかっちゃうわ。これ、発信機になってるから」

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