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259話 帝国の町と奴隷商2

 ダスターガラーの町へと入った俺達は、その足で今夜の宿を探し、町の中ほどにあるそこそこの大きさの宿を、今夜の宿泊先としていた。数日分の宿泊代を一括で支払う方が、一日毎に宿泊するよりも若干安く泊まれるのだが、これからどれだけ泊るかわからないため、今日のところは一泊分だけである。

 それから食堂で夕食を済ませた俺達は、いつでも寝られるように布団を敷き、その上に車座になっていた。寝る前に話すのはいつものことで、今日の議題は明日からの行動方針についてだった。


「それでジーくん、明日からはどうするの?」


「まさか、奴隷の売買が合法だなんて、思ってもみなかったわ」


 フィリーネが軽く小首を傾げ、アメリアが小さく溜息を吐く。

 確かに、アメリアの言う通り、帝国では奴隷の売買が合法などと言うことは、俺も思ってもみなかった。根本的な認識が異なっているともなれば、行動方針は変えなければならない。


「奴隷が普通に売り買いできるなら、騎士団にも協力してもらえないの」


 そう、王国と同じように、人身売買が取り締まられているのであれば、シュネーベルクの町の時と同じ手が取れたのだ。騎士団に事情を話し、事と次第によっては協力だって得られていただろう。

 だが、人身売買が合法となると、そうはいかない。奴隷の売り買い事態に罪はないので、それを咎めることが出来ないのだ。違和感は拭えないが、帝国では当たり前のことなのだろう。


 そうなると、シュネーベルクの町と同じように、騎士団を引き連れて人身売買の現場を押さえることはできない。むしろ、奴隷売買を力尽くで阻止しようものなら、俺達の方が犯罪者と言うことになってしまう。


「いや……」


 ひとまず、頭を切り替えよう。出来ないことを、いくら考えても仕方がない。

 それよりも、これからどうするべきかだ。


「まず、どうにかして二人を探し出そう」


 救い出すことはひとまず置いておいて、二人を探し出すことが先決だ。二人の所在が分からないことには、次の手も考えることはできない。

 それに、二人がどこにいるのかさえ分かれば、後は簡単なのだ。何しろ、この国では奴隷の売買が合法なのである。つまり、普通に買い取ればよいのだ。


 奴隷の値段などわからないし、元々は俺達の仲間だなどと言うことは考慮してくれないだろう。それでも、幸い金自体は結構持っている。今の手持ちで、不足するということはないはずだ。

 俺の説明に、二人は揃って頷きを見せる。


「そうね、最悪の場合は無理矢理助け出してもいいけど、それはそれで面倒なことになりそうだし。ジークに賛成よ」


「フィーもそれでいいの! ……でも、この広い町を三人で探すのは、大変そうなの」


 そう言って、フィリーネは小さく肩を落とした。

 確かに、ただ闇雲に町を探し回っても、探し出すのは困難だろう。シュネーベルクの町で、すぐに人身売買組織の場所を探し出せたのは、奴隷狩り達から聞き出した情報があったからだ。

 今回はそのような前情報はないし、土地勘のない町だ。騎士団の協力を仰げないので、人海戦術と言う手も使えない。馬鹿正直に探したところで、何日かかるかわからないだろう。


 だが、そのことについては、俺はそこまで心配していなかった。俺の考えが合っていれば、少なくとも数日中には、二人の所在は明らかになるはずである。

 その事を告げると、二人は揃って首を傾げて見せた。


「ジーくん、それってどういうことなの?」


「私達の持っている手掛かりって、二人を買っていった男の名前と、人相書きだけでしょう?」


 俺は一呼吸置き、フィリーネとアメリアの顔をじっくり見返した。


「簡単な話だ。この国では奴隷の売り買いは合法なんだろう? それなら、普通に人に話を聞けばいい」


 俺の言葉に、二人ははっとして表情を変えた。


「それもそうなの! 奴隷の売り買いが合法なら、普通にお店として出してるってことなの!」


「確かに、秘密裏に営業する必要なんてないものね。盲点だったわ」


 俺は二人の言葉に、深く頷きを返した。

 王国では人身売買は違法なので、それに手を出すような輩は、裏社会で秘密裏に取引をしているのだ。必然、一般の人々の耳に入るようなことはない。人を売り買いしているところはどこか、などと言う質問を道行く人にすれば、すぐに騎士団に通報されることだろう。


 だが、ここ帝国では奴隷の売り買いが合法なのだ。つまり、一般の人々であろうとも、普通に買うことが可能と言うことである。服を買うのと同じように、とまでは言わないが、店の場所くらい聞けばわかるだろう。

 俺の言葉に、二人は表情を明るくさせた。


「そう思うと、ちょっと安心したわ。思っていたよりも、すぐに見つけ出せそうね」


「それじゃジーくん、明日からは人に聞きながら、奴隷を売ってるお店を探すの?」


「あぁ、そうしよう。もちろん特殊な店だろうし、誰もが知ってるとは限らないが、その分、店の数はそこまで多くはないはずだ。二、三日もあれば、この町の店全部くらい、回れると思うぞ」


 町の門に立つ騎士も言っていたが、奴隷を買うのは貴族や金持ちのような、所謂特殊な人々のはずだ。需要もそこまで多くはないだろうし、店の数には限りがあるだろう。いくら町が広いとはいえ、奴隷を売るような店が何十件とあるわけがない。

 後は、時間の問題だ。


「そうと決まれば、今日はもう休もう。明日の早朝訓練はなしで、朝食を食べたらすぐに出るぞ」


「そうね、そうしましょう」


「わかったの! それじゃジーくん、アーちゃん、おやすみなさいなの」


 そうして明かりの魔術具を消し、俺は布団へと入った。

 早ければ明日のうちには、二人を探し出すことが出来るだろう。

 どうか二人とも、それまで無事にいてくれ。

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