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254話 半龍少女と氷精少女1

 石壁に背を預け、細く息を吐きだす。ここ数日、あまり体を動かしていないために、体が固まってしまいそうだ。だが、それも仕方のないことではある。私の両腕と両足、それに加えて首には、未だに魔封じの枷が嵌められたままなのだから。

 奴隷狩り達に捕らえられてから、一体何日経過したのだろうか。私のそこそこ正確な腹時計によれば、大体三、四日といったところである。ただ、正確なところはわからない。


 私は膝を抱えて瞳を閉じ、ここ数日の事を思い返す。

 始まりは、奴隷狩り達に囚われた地下牢からだ。あの場でフィリーネを牢に残し、奴隷狩り達に連れられた私とシャルロットは、砦の外へと連れ出された。それから男に麻袋を頭から被せられ、担がれたのだ。

 抵抗を試みたところ、腹に拳を叩き込まれた。外が見えない状況だったので事前に身構えることもできず、とても痛かったのを覚えている。


 身体強化さえあれば、人一人を運ぶくらいは簡単なものである。どうやら私は男に抱えられ、森の中を移動しているようだった。

 どれほど歩いたころだろうか。不意に地面に下ろされたかと思えば、麻袋を取り払われ視界が開けた。傍にシャルロットの姿があることを確認し、ほっと息を吐いた。少なくとも、シャルロットと離れ離れにされることはなかったようだ。


 周囲を見渡して現在地を確認すれば、丁度森を抜けたところらしい。遠くの方には、町があるのが見えた。

 そうすると今度は声が出せないよう猿轡をされ、傍に用意されていた馬車へと乗せられる。不安げな様子のシャルロットと身を寄せ合っていると、すぐに馬車は動き出した。どうやら、先程見えた町へと向かっているようだ。


 やがて馬車が停止し、外から小さく声が聞こえてきた。おそらく、町の門に立つ騎士と話をしているのだろう。声を出そうとしたところ、見張りの男に口元を押さえられ、ナイフを突きつけられた。さすがに、これ以上の抵抗は私の身が危険だ。

 騎士達に咎められることを祈ったが、私の願いは届かなかったようだ。再び馬車が動き出し、町中に入ったことで馬車の床から伝わる振動の種類が変化した。


 やがて再び馬車が止められ、私とシャルロットは馬車から降ろされる。そこは人通りの少ない、裏路地のような場所だった。男達に首の枷に繋がる鎖を引かれ、私はシャルロットと共に路地を進む。

 やがて男は壁の前で立ち止まった。どこへ行くのかと思えば、なんと男は壁を通り抜けていった。私が内心で驚いていると、鎖を引かれる。仕方なく男の後を追えば、私の体も壁をすり抜けた。これも、魔術の類なのだろう。


 私は通り過ぎた後ろの壁を確認しようとしたが、鎖を引かれるために仕方なく前へと進む。地下へと通じる階段を降り、扉を開けた先には多くの人々が檻の中に入っていた。その中には、火兎族の姿もあるようだ。

 男の一人が前方の扉の向こうへと消え、私とシャルロットは他の者と共にこの場へと残される。

 やがて、男は別の男と共に戻ってきた。そうして男達が何事かを話し合った結果、私はシャルロットと共に檻へと入れられることとなった。そこで、私は自分が売られたことを悟った。


 まぁ、それ自体は別に構わない。奴隷狩り達に捕らえられた時点で、いつかは売られるとわかっていたのだ。

 惜しむらくは、それより前に助け出されなかったことである。きっとジークは、今頃あの砦に辿り着いていることだろう。せめて、フィリーネが無事に助け出されていれば良いのだが。


「クリスさん、私達、どうなっちゃうんでしょうか?」


 シャルロットが不安げな様子で私の方へと身を寄せる。

 それに対し、私は敢えて笑顔を作った。


「大丈夫だよ、シャルちゃん。すぐにジークが助けに来てくれるから!」


 移動距離から考えても、ここはシュネーベルクの町に間違いない。それならば必ず、ジークハルトが助けに来てくれるはずだ。

 今頃はきっと、奴隷狩り達をやっつけている頃だろう。捕まえた奴隷狩り達からこの場所を聞きだすのは、そんなに難しいことではないはずだ。早ければ、明日にでも助けに来てくれるのではないだろうか。


 そんな風に油断していたのが悪かったのだろうか。

 私がいるのは、また別の人身売買組織なのである。当然、私達は商品として、再び売られることとなるのだ。そしてその時は、すぐにやって来た。


「おい、お前達。次の主人が決まったぞ、出てこい」


 そう言われたのは、檻に入れられてしばらくのことだった。シャルロットと共に、身を寄せ合ってうとうととしていたところ、先程の男が檻の扉を開ける。その隣には、見るからに悪人と言った風貌の男が立っている。

 どうやら私達は、再び売りに出されるようだ。だが、これは非常にまずい展開だ。この店までならきっと、ジークハルトは辿り着けるだろうが、この先となると非常に難しい。誰に売られたのか、どこに連れていかれたのかを突き止めるには、かなりの時間を要することだろう。


 連れていかれてなるものかと、私はシャルロットを背後に庇い、小さな檻の中で男から距離を取る。けれど、そんなのは些細な抵抗だ。男は私の方へと手を伸ばすと、首の枷から伸びる鎖を手に取り、何の躊躇もなく引っ張った。


「けふっ」


 首を引かれ、必然的に私の体が前へと動く。反射的に手を突こうとしたものの間に合わず、床の上へと倒れ込んだ。座った状態からだったので、それほど痛くなかったのが幸いだろう。


「クリスさん!」


 慌てた様子でシャルロットが近くへと寄ってくる。伸ばされた手を借り、どうにか体を起こした。


「大丈夫ですか、クリスさん?」


「うん、平気だよ」


「おい、早くしろ!」


 男を睨み返すものの、再び鎖を引かれては立ち上がるよりほかにない。やはり、身体強化が使えない身では、抵抗など出来なさそうだ。

 私は仕方なく、男の命に従うことにした。これ以上反抗して、シャルロットにまで危害が及ぶようなことは避けたい。


 悪人面の男には他にも仲間がいる用だ。私とシャルロットは男達に前後を挟まれ、入って来た時とは別の出口から階段を上り、外へと出た。

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