249話 騎士団からの情報提供2
朝食を済ませた俺達は、宿を後にし騎士団へと向かっていた。町の中心街へと続く大通りは、多くの人が行き交い活気に溢れている。
そんな中、フィリーネの向こうを歩くアメリアは、未だに落ち着かない様子で、俺の方へとちらちらとしきりに視線を寄越している。どうやら、ある程度時間が経過した今でも、今朝の事を気にしているようだ。
「アメリア、俺は気にしてないからな」
「わ、わかってるわよ! ……うぅ、よりにもよってジークに、あんな醜態を見せるだなんて……」
そう言って俺とは目を合わせず、フィリーネの陰に隠れてしまう。
俺としては普段と違ったアメリアが見れて新鮮な気持ちだったのだが、本人にとっては相当不本意だったらしい。アメリアはかなり恥ずかしがっている様子だが、時間が経てば普段通りに振舞えるだろう。
「アーちゃんは気にし過ぎなの。抱き着かれるくらい、ジーくんにはいつものことなの。ね、ジーくん?」
「フィナはもう少し、恥じらいを持った方がいいぞ」
フィリーネなど、アメリアに抱き着かれている俺に、後ろからさらに抱き着く始末であった。信頼の証だとは思うが、あまり時間をかけたくない今、出来ればアメリアを起こすのを手伝ってほしかった。
やがて、昨日訪れた騎士団へと辿り着いた。騎士団の正門には、昨日と同じように左右に一人ずつ騎士が立っている。よくよく見てみればどちらの騎士も、昨夜人身売買組織のいた地下へと踏み込んだ際、同行した騎士だった。
騎士の方も俺達に気が付いたようで、片手を軽く上げて見せる。
「お前達は、昨日の冒険者だよな?」
「あぁ、捕らえた人身売買組織の者から、情報を聞きに来たんだ。ギードには会えるか?」
「わかった、少し待っていてくれ」
そう言って、騎士の一人が騎士団の建物へと入っていく。ほどなくして、騎士が二人に増えて帰ってきた。新たに増えた騎士も、見覚えのある騎士である。
「今、騎士団長を呼びに行っているところだ。私について来てくれ」
そうして新たに現れた騎士に連れられ、騎士団の建物へと踏み入った。長い廊下を歩き案内されたのは、昨日も訪れた部屋だった。長テーブル前の椅子に腰を下ろし、ギードがやってくるのを待つ。
それほどの時間もかからず、俺達が入ってきたのと同じ扉からギードが入ってきた。昨日のように、その手にはいくつかの書類が抱えられていた。
ギードは俺の正面の椅子にどっかりと腰を下ろし、長テーブルの上に持っていた書類を置く。その表情には、少し疲れの色が見えた。もしかすると、昨夜から寝ていないのかもしれない。
ギードのためにも手短に済ませてしまおう。
「おう、来たな、おはよう」
「あぁ、おはようだ。それでギード、どうだった? 俺の仲間の行方について、何かわかったことはあるか?」
俺の問いに、ギードからは力強い頷きが返った。その仕草に、俺は思わず前のめりの姿勢を取る。
「ばっちりだ。地下に残された売買記録と、それから夜のうちに追加で捕まえた奴らから、話を聞いておいた」
「夜のうちに? 昨夜捕まえた三人以外にもいたってことか?」
驚きと共に問い返せば、ギードからは再び頷きが返った。
「あぁ、店の者や利用客が来ると思って騎士を残しておいたら、案の定な。しばらくは、交代で騎士が張り込むことになるだろう」
昨夜は多少町中では目立ってはいたものの、地下の人身売買組織に騎士団が踏み入ったことは、表沙汰にはなっていないようだ。このままいけば、しばらくの間は何も知らない人身売買組織の関係者が、続々と捕らえられていくことだろう。
動員される騎士達には少々負担がかかるものの、奴隷狩りを根絶するためにも頑張ってもらいたい。
ひとまずそのあたりのことは騎士団に任せておいて、それよりもクリスティーネとシャルロットのことだ。
「それで、俺の仲間については?」
「あぁ、これが押収した売買記録だ。ここを見てくれ」
そう言うと、ギードは持ってきた書類の一枚を俺達に見せてくれた。トン、と指先で示した箇所へと視線を送れば、文字列が羅列してある。
そこに書かれていたのは日付と購入者の名前、それにどんな奴隷を購入したのかと、その金額についてだ。
そこには確かに、半龍族の女と精霊族の女という文字が書かれていた。人身売買の平均額など俺は知らないが、他の例と比較しても、二人ともかなりの高額である。やはり希少種族だからなのか、それとも二人とも若く美形だったからなのか。
日付を見れば、二日前のことだとわかる。俺達が、奴隷狩り達の拠点としていた砦に踏み入った日である。つまり、二人はこの町で売られてすぐ、さらに別のものに売られていったということだ。
「購入者の名は……ヴァジーム・ボリシャコフか」
当然だが、名前に聞き覚えはなかった。それはそうだ、王都からは離れているし、人身売買にかかわるような知り合いなど俺にはいない。
名前がわかったのは僥倖だが、それでも未だ雲を掴むような話だ。多少の推測は出来るものの、もっと色々な情報が欲しいところである。期待を込めてギードを見つめれば、力強い光を宿した瞳と目が合った。
「安心しろ、情報はこれだけじゃないぞ。新たに捕らえた組織の者が、お前達の仲間を売ったようでな。売買記録と併せて聞けば、すぐに口を割った。このヴァジームという男は、組織の常連みたいでな。これまでにも、何度も奴隷を買っていったようなんだ」
ギードの説明に、ほぅほぅと耳を傾ける。一見の客に売っていれば、組織の者もどんな相手に売ったのかなどいちいち覚えていなかっただろうが、幸いにも相手は常連客だったようだ。
人身売買の常連客など碌な奴ではないが、今回はそれがいい方向に働いたというわけである。
「その男は月に一度か二度、店に立ち寄るらしい。それほど会話をすることはなかったようだが、どうやらその男も別の人身売買組織を営んでいる身だそうだ」
つまり、買い取った奴隷を、また更に売りに出すというわけか。闇が深いな。
「そして一つ、お前達にとっては悪い知らせだ。この男、どうも帝国の人間らしい」
続いて告げられた言葉に、俺は思わず下唇を噛むのだった。
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