247話 騎士団と共に6
俺は一気に扉を開け放ち、扉の向こうへとその身を躍らせた。俺の後ろにはフィリーネが続く。
踏み込んだ部屋は、休憩所のような作りだった。部屋の真ん中にテーブルがあり、それを囲むように数脚の椅子が置かれている。
この部屋には騎士の姿もなく、人が隠れるほどのスペースもない。先程の声が聞こえてきたのは、さらに奥からだろう。
俺はフィリーネと共に、さらに奥の扉を開いた。
そこには、多くの騎士達が集まっていた。俺達と共に侵入した人数よりも多いことから、もう一つの入口から突入した騎士達と合流したのだろう。
その騎士達の中心に、三人の男達がいた。見るからに悪人面、というわけでもなく、取り立てて特徴のない男達だ。
その男達は騎士に取り押さえられ、床にうつ伏せに転がされていた。抵抗する素振りを見せてはいるが、騎士の力が強いようで身動きができないようだ。
その男達の後ろ手に、魔封じの枷が掛けられる。これで、男達には打つ手はないだろう。
「放せ! 俺達が何をしたって言うんだ!」
「ここに来る途中で、捕らえられた人達を見たぞ! 言い逃れできると思ってるのか! 詳しい話は騎士団で聞かせてもらおう!」
「ギード、少しだけ待ってくれ!」
男達を立たせ、連れて行こうとするところに待ったをかける。この男達には、クリスティーネとシャルロットの居場所を聞かなくてはならないのだ。
ギードもそのことを思い出したのか、男達を俺の前へと連れてくる。
「俺の仲間はどこだ?」
「さっきの部屋にはいなかったのか?」
「そうなの」
俺の言葉に、手前の男は答える気がないとでもいうようにそっぽを向いた。
思わず、俺は拳を握り締める。
「答えろ。半龍族と精霊族……氷精族の娘がいるはずだ。どこにいる?」
「さぁな」
どうやら痛い思いをしなければわからないらしい。俺は腰の剣を手に取ると、躊躇なく抜き放った。ミスリルの輝きが、照明の光を眩しく反射する。
その輝きに、さしもの人身売買組織の者も恐れを抱いたようだ。瞳を大きく開き、つばを飲み込んだのがわかった。
「もう一度聞くぞ? 半龍族と氷精族の娘はどこだ?」
「し、知らねぇよ! 商品のことなんて、いちいち覚えてねぇ!」
「首を刎ねられたいのか?」
三人もいるのだ。一人くらい殺したところで、別に構わないだろう。それくらいのことがなければ、この男達に口を割る気はないようだ。
男の喉元へと剣を突きつければ、男は剣から遠ざかるようにその身を仰け反らせた。その頬を、一筋の冷や汗が流れていく。
「こ、ここに来るまでに、商品の部屋を通ったんだろう? その中にいないんなら、ここにはいねぇよ!」
「嘘だ! あの中にはいなかった。それなら他の部屋があるんだろう? 答えろ!」
剣を持つ手に力が入り、男の喉元を浅く傷つけた。傷口から、色鮮やかな赤い雫が一筋流れ落ちる。ひっと小さく男が悲鳴を漏らした。
このまま少しずつ剣を押し込もうとしたが、その腕が横合いから掴まれる。誰かと思えば、ギードだ。俺の腕を掴むギードの顔には笑みがあるが、その目は笑ってはいなかった。
「そこまでにしておけよ。こいつらには、まだまだ聞きたいことが山ほどあるんだからな」
「そうはいくか。二人の居場所を吐かないのなら、どんな手を使ってでも吐かせるまでだ」
「そう言う事は、俺達の方でやっておく。お前達の仲間が見つからないのなら、今日は引き上げて、また明日来てくれるか?」
「駄目だ。今すぐにでも、教えてもらう」
腕に力を籠めるが、俺の手を掴むギードの力は強く、それ以上動かすことが出来ない。それでも、俺はここで退くわけにはいかないのだ。単純な腕力で敵わなくても、方法などいくらでもある。
俺がギードと睨み合っていると、反対の手が柔らかく取られた。思わず顔を向ければ、フィリーネが俺の腕を抱きしめるように取っていた。
そうして眉尻を下げた表情で、白髪の少女は口を開く。
「ジーくん、今日のところは、騎士さんの言う通りにしておこう?」
その言葉に、俺は内心では決して小さくない衝撃を受けた。
「フィナ、どうして止めるんだ? フィナは二人のことが心配じゃないのか?」
俺の目から見ても、彼女達は良好な関係のように思えた。喧嘩をしている様子もなかったし、二人を助け出したいのはフィリーネも同じだと思っていた。だというのに、ここにきてフィリーネは二人を見捨てるというのだろうか。
俺の言葉に、フィリーネは少し悲しそうな表情を見せる。そして否定するように、首を横にふるふると振って見せた。
「そんなことないの! フィーだってクーちゃんとシーちゃんのことは心配なの! でも、ここに二人がいないなら、明日からも探すことになるの。それなら、今日は休んで、明日からのことに備えたほうがいいの。だって、ジーくんは疲れてるはずなの。昨日だって寝てないの」
フィリーネの言葉に、俺は言葉に詰まった。確かに、フィリーネの言葉は尤もだ。二人がどこに行ったのかもわからない以上は、明日以降も捜索を続けることになる。
そうなったとして、これから先、一度も休まないというわけにはいかない。俺は丈夫な方ではあるが、別に体力が無制限にあるわけではないのだ。連戦し、徹夜し、移動しと、疲労だって随分と蓄積している。
それなら、今のうちに休むというのは、悪い選択ではないだろう。騎士団が夜のうちに調査をしてくれていれば、明日の朝には二人の行先がわかるかもしれない。
それでも、手掛かりが目の前にある状況だ。俺は内心の悔しさに、下唇を噛む。
そこへ、アメリアが一歩近寄ってきた。
「私も、フィナの意見に賛成ね。フィナは二人の事を心配してるけど、貴方のことも心配しているのよ。もちろん、私もね。今日のところは引き上げて、明日以降に備えたほうがいいと思うわ。それに――」
アメリアはそこで一度言葉を切り、俺に耳を貸すよう手振りで示す。
俺は大人しく、アメリアの口元へと顔を近づけた。アメリアは口元に手を添え、俺に小声で話しかける。
「――ここで騎士団を敵に回したくはないでしょう? そうなったとしても、私は貴方に味方するけれど、多分勝てないわよ?」
その言葉に、俺は肩の力を抜いた。確かに、アメリアの言う通りだ。ここで俺が無理矢理男に二人の行先を吐かせようとしても、今度は騎士団に俺が取り押さえられる羽目になるだろう。
十数名もの騎士に取り囲まれたこの状況で、勝てるわけがないのだ。どちらにせよ、ここでは騎士団に従う他にない。それなら、今後の事を考えても、あまり騎士団とは険悪な雰囲気になるのは避けるべきだろう。
俺から剣呑な雰囲気がなくなるのを察してか、俺の腕を掴むギードの力が緩んだ。俺もそれ以上争う気などなく、大人しく剣を鞘へと納めた。その様子を目に、人身売買組織の男はあからさまに安堵の表情を見せた。
「悪かったよ。今日のところは引き上げよう、フィナ、アメリア。ギード、明日の朝、また騎士団に足を運ぶ。こいつらから、よくよく聞きだしておいてくれ」
「あぁ、任せておけ。それで、お前の仲間の特徴を教えておいてもらえるか?」
そう言えば、クリスティーネとシャルロットについては、ギード達騎士団に詳しい特徴などは何も話していなかった。
精々、半龍族と氷精族の少女二人と言う事だけだ。二人とも珍しい種族なので、他に該当する人物がいるとは思えないが、より詳細な特徴は伝えておいた方が良いだろう。
「陽の光を受けて輝く銀髪に意志の強い金の瞳が目を引く、笑顔が明るい可愛く美人な半龍族の娘と、透き通った水色の髪に、髪と同じ色合いの宝石のような瞳を持つ、とびきり可愛く庇護欲に駆られる氷精族の娘だ」
「お、おぅ……」
俺の言葉に、ギードがどこか引き攣ったような顔を見せる。何かおかしなことを言っただろうか。二人の特徴を、実によく伝えられたと思うのだが。
ギードはどこか引いたような顔で、何度か頷きを見せる、
「わかった、良く調べておこう……余程仲間が大事なんだな」
「あぁ、大切な仲間だ。よろしく頼むよ」
そうして後のことは騎士団に任せ、俺達はその場から引き揚げるのだった。
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