244話 騎士団と共に3
「どうした? まだ何かあるのか?」
ギードが長テーブルに手を置き腰を浮かせたままの格好で、不思議そうに問い返す。
だが折角、この町の騎士団長と知り合えたのだ。連れ去られた二人を助け出すのに騎士団の協力を依頼するのは、今を逃しては他にないだろう。
俺は腰を浮かせたままのギードを見上げ、言葉を続ける。
「実は、捕らえた奴隷狩り達から、この町にある人身売買の会場について聞き出してあるんだ」
「ほぅ……詳しく話を聞いた方が良さそうだな」
立ち去りかけたギードが、再び椅子へと腰を下ろす。どうやら、少なからず興味を引けたようだ。
俺は少し肩の力を抜きながら、詳細を語り始める。
「俺の仲間は、他に二人ほどいるんだ。だが、今は少し厄介な状況でな」
そうして俺は、俺達の身に起こったことについて、詳しくギードへと説明していった。もちろん、火兎族の里に関しては伏せている。しばらく火兎族の里は復興に忙しいだろうし、騎士団に存在を知られて余計な労力を割かせたくはない。
俺の話している間、ギードはその逞しい両腕を組み、静かに耳を傾けていた。そうして一通り話し終わると、ギードは大きく一つ頷きを見せた。
「なるほどな。お前達の仲間が奴らに捕らえられて、救出に行ったものの既に売られていたってわけか。それで、売られた先がこの町にある人身売買組織ってことだな。それで、お前達は奴隷狩り達からその情報を得て、ここまで来た、というわけか」
ギードが納得したように短く纏めた言葉に対し、俺は頷きを返す。火兎族の里の存在については伏せた形で、上手く説明が出来たようだ。
ギードは何かを考えこむように、顎に片手を当てて見せる。
「それで、お前達としては仲間を助け出すのに、俺達騎士団の力を借りたいってことだな?」
「あぁ、頼めるだろうか?」
俺は内心の不安を隠しながら、ギードへと問い返した。ここで騎士団の協力を得られるのと得られないのとでは、二人の救出の成功率が大きく変わってくることだろう。
俺達が奴隷狩りを捕らえて騎士団に連行したことと、人身売買組織を摘発することとは、全く別の話なのだ。協力を断られる可能性や、組織として体勢を整えるまで待つように言われることは、十分に考えられた。
だが、そんな俺の考えは杞憂だったようだ。ギードは正面から俺の顔を見返したまま、二ッと唇の端を吊り上げた。
「全く問題ないぞ。元より、奴隷狩り達から聞き出して、人身売買組織は潰すつもりだったからな。お前達の仲間が捕らえられているのなら、出来るだけ早い方がいいだろう……それで、どこまでわかっている?」
「ちょっと待ってくれ」
俺はギードへと断りを入れると、背負い袋を取り出した。袋の口に手を入れ、中から折りたたんだ紙を取り出す。
そうして取り出した紙を、長テーブルへと広げて見せた。広げられたのは、この町で購入した町の地図だ。そこには、奴隷狩り達から聞き出した情報が書き込まれていた。
俺は片手を伸ばし、紙に記された赤い円を指し示す。地図には二か所ほど、奴隷狩り達から聞き出した情報をもとに赤い円が記されていた。
「こことここに、地下への入口があるらしい。奴隷狩り達によれば、この地下で夜な夜な、人身売買が行われているそうだ。こっちが客用の出入口で、こっちが店の者が出入りする方らしい。奴隷狩り達は、こっちの店側の出入口を利用していたそうだ」
俺の説明に、ギードは身を乗り出して食い入るように地図を見つめる。それから軽く地図の上を指先でなぞると、地図から目を離して俺の顔を見返した。
「この辺りは、どちらも人通りの少ない通りだな。確かに、人間を売り買いするような奴らが拠点とするなら、向いていると言えるだろう。それでも時折見回りはしていたはずだが……まぁ、後は実際に行ってみればわかることか」
ギードは、どこか思い出すように言葉を漏らした。俺としても、知っているのは奴隷狩り達からの伝聞情報だけで、この町には詳しくないために、言えることはそれ以上にない。
後は実際に足を運んでみて、確認するほかないだろう。そこに地下への入口があるのであれば、まず間違いないはずだ。
「それで、後はいつ踏み込むか、だが――」
「出来れば、今すぐにでも」
ギードの言葉に言葉を重ねる。今頃、クリスティーネとシャルロットの二人が、どんな状況に置かれているのかわからないのだ。俺としては、今すぐにでも飛び出したい気持ちである。
そうしないのは、騎士団にも騎士団なりのやり方があるだろうと考えているからだ。俺が私情で動き、騎士団に迷惑をかけるような事態になるのは、俺の本意ではない。それよりも、騎士団と足並みを合わせたほうがいいと考えているのだ。
出来れば今日中に、遅くとも明朝までには踏み込むことを確約してほしい。そうでなければ、俺はここを後にした足で、そのまま人身売買組織があるらしい場所へと向かうことだろう。
そう考えていると、ギードからは力強い頷きが返った。
「まぁ、お前達はそうだよな。いいだろう、今から騎士達を招集する。集まったら調査に出るから、それまではこの部屋で待っていてくれ」
「わかった、助かるよ」
それからギードは再び立ち上がると、俺達に背を向け部屋から出ていく。部屋の中には、扉の両側に立つ二人の騎士が残された。
ひとまず、これで二人を救出する手筈は整った。俺は椅子の背もたれに体を預け、大きく息を吐いた。
そうして肩の力を抜けば、ふと俺の片手が取られた。視線を向ければ、控えめな笑みを口元に浮かべたフィリーネと目が合った。
「良かったね、ジーくん。これでクーちゃんとシーちゃんを助けられるの!」
「あぁ、これで何とかなりそうだ」
フィリーネにはそう答えたものの、何故だろうか、胸騒ぎが拭えなかった。
それからは、ただ焦れるような時間だけが過ぎていく。
そうしてギードが再び戻ってきたときには、既に夜の帳が降りていた。
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