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242話 騎士団と共に1

 夕陽が赤く染まり、影がその身を長くする頃になって、ようやく俺達はシュネーベルクの町へと辿り着いた。町の外壁が見えたところで、俺は思わず安堵の吐息を漏らす。


 これまでの道中、町が近づくにつれて、引き連れる奴隷狩り達が抵抗するような素振りを見せた。どうやら今頃になって、騎士団に引き渡されるのを恐れているようだ。

 その中でも一際暴れ出した男の腹部に拳を一発お見舞いし、少し大人しくなったところで手枷に繋いだ縄を引き、男を引き摺ってやった。引き摺られる男は地面で体を擦られ、肘や膝、尻などの皮が破れ血を滲ませていた。


「まだ自分の立場がわかってないようだな。別に、お前達をこの場で殺したって、俺達は一向に構わないんだぞ?」


 そう凄んで見せれば、男は怒気を滲ませて俺のことを睨み返してきた。それでも、俺が軽く腰の剣へと手を添えれば、怯えたように肩を竦ませ、首を横に振って見せる。

 そんなことがあり、今の奴隷狩り達はすっかり大人しくなっていた。この場で死ぬよりは、騎士団に引き渡されて強制労働をさせられる方が遥かにマシだろう。


 そうして大所帯で町の入口へと近寄れば、門に立つ騎士達が警戒したように武器を構えた。


「そこで止まれ!」


 槍を向けられ、俺は無抵抗を示すように軽く両手を上げて見せた。

 こうなることは、事前に予想していた。それはそうだろう。魔封じの枷を嵌め、互いに縄で繋いだ男達を、何人も引き連れているのだ。この状態で、何事もなく町中に入れるなどとは、流石に思っていなかった。

 それに、町の入口で騎士に止められるのは、俺としても好都合だった。人身売買の現場を抑えるためには、どの道騎士団の協力は不可欠なのだ。この場で、騎士団と繋がりが持てる意味合いは大きいだろう。


 俺は奴隷狩り達をフィリーネとアメリアの二人に任せると、応対のために騎士の方へと歩み寄る。


「お前達、何者だ? その縛られている者達は何だ?」


「別に怪しい者じゃない、俺達は冒険者だ。それからこの男達は、北の森を拠点とする奴隷狩りの組織の者達だな。色々とあって捕らえるに至ったため、騎士団に引き渡したいんだが……」


「何? ……少し待っていろ」


 俺の前に立つ騎士はそう言うと、もう一人の騎士へと何やら指示を出す。指示を出されたもう一人の騎士は、踵を返して慌しく町の中へと消えていった。俺達は騎士に言われ、奴隷狩り達と共にその場で待たされることとなった。

 そうして待つことしばらく、先程の騎士が戻ってきた。その後ろには、更に六人程の騎士を引き連れている。


 新たに現れた騎士達は、俺達を取り囲むように位置取った。特に敵意などは感じないため、俺も身構えることなく自然体で接している。


「奴隷狩りを捕らえたそうだな。ひとまず、我々について来てくれ」


 新たに現れた騎士の一人から、そのように声を掛けられる。特に拒否をする意味もないため、俺は素直に頷いた。

 そうして騎士達に囲まれる形で、俺達は町へと足を踏み入れる。擦れ違う人々から何事かと視線を向けられるのは、仕方ないことだろう。傍目から見れば、まるで騎士達に連行されているように映るはずだ。


 騎士達に案内されるまま、俺達は町の中心付近へと辿り着いた。目の前にあるのは、白を基調とした壮大で立派な建物だ。装飾などは控えめで、見た目よりも機能性を重視しているような印象を受けた。

 建物の正面、鉄製の門扉の左右には、武器を持った騎士の姿がある。その他、敷地内にも騎士の姿がちらほらと見えることから、ここが騎士団の本拠地なのだろうと見当をつけた。


 騎士達の先導により、俺達は門を潜り抜け敷地内へと足を踏み入れる。このまま建物内へと入るのかと思えば、俺達を先導していた騎士が足を止め、こちらを振り返った。


「冒険者の方は、このまま私について来てくれ。その他の者は、彼について行くように」


 そう言って、右手の騎士を指し示した。

 それから奴隷狩りの男達は、四人の騎士に囲まれ、建物の右側へと歩いていく。当面は地下牢行きだろう。いや、その前に取り調べがあるはずだ。さすがに、俺達の証言だけで処遇が決まるとは思えない。

 どちらにせよ、ここからは騎士団の仕事である。俺は連れられて行く奴隷狩り達から視線を外すと、再び正面の騎士へと目を戻した。


 それから俺達は、残った二名の騎士に前後を挟まれる形で、建物の中へと足を踏み入れた。建物の中は、長い廊下を魔術具の照明が照らしている。掃除は行き届いているようだが、壁などをよく観察してみれば、隠しきれない年季を感じさせた。

 幾つかの角を曲がりながら、建物の奥へ奥へと進んでいく。そうして案内されたのは、応接室のような部屋だった。


 部屋の中央には木製の長テーブルが設えられ、それを挟む形で数脚の椅子が並べられている。隅の方には観葉植物が飾られ、壁に設けられた窓からは茜色の陽光が差し込んでいた。

 案内をしてくれた騎士に促され、俺はフィリーネとアメリアと共に、長テーブル前の椅子へと腰かける。それから騎士は俺達にそのまま待つようにと告げると、扉の外へと消えていく。後に残されたのは俺達と、扉の前に立つ一人の騎士だけだ。


 待てと言われれば、今は待つより他にない。逸る気持ちを抑えながら、俺は同行する二人の様子を窺う。


「むぅ、どれくらい待てばいいの?」


「それほど待たされることはないと思うが……」


 いつもと変わらない様子なのはフィリーネだ。眠たげな瞳で背もたれに体を預け、少しうとうとしているように見える。昨夜は眠るよう促したものの、あの砦ではよく眠れなかったのだろう。それでも、もう少しは緊張感と言うものを持ってほしい。


「こういう場所は、慣れないわね……」


「少しだけ我慢してくれ」


 その反対に、アメリアは少し落ち着かない様子だった。どこかそわそわとした様子で、しきりに扉や窓へと視線を向けている。その様子は、さながら逃走経路を探す侵入者のようだった。

 フィリーネ程とは言わないが、アメリアにはもう少しリラックスしてほしいものだ。扉の前に立つ騎士から、訝しむような視線を向けられていた。


 それからしばらくの時間が経過して、再び扉が開かれる。

 そうして部屋へと入ってきたのは先程の騎士ともう一人、書類のようなものを抱えた強面の騎士だった。

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