239話 二人の行方4
前日振りに見る火兎族の里は、変わりのない廃墟のような状態だった。それでも、里に帰って来られたこと自体は嬉しいのだろう、前を行く火兎族達の顔が、目に見えて明るくなった。
里へと入っていく火兎族達の中から、自然と歓声が上がる様子を眺めながら、俺はフィリーネと共に里の外で足を止める。奴隷狩り達を里の中へと入れるのもどうかと思うので、俺達は少しの間、外で待機するつもりのなのだ。
里の中へと入った火兎族達は、思い思いの方向へと広がっていった。おそらくは、自身の自宅を確認しに行ったのだろう。
俺達は里のすべてを確認したわけではないが、見た限りではすべての建物が奴隷狩り達に荒らされており、赤い鎖によってだろう、崩れた家屋も多かった。原型が残っている建物が、一つでも多くあればよいのだが。
火兎族達が里の様子を確認している景色を眺めながら、俺はこれからの行動について考える。
ひとまず、ここに長居は不要だろう。火兎族達は問題なく里に送り届けられたのだし、これからは俺達自身の事を考えなければ。まずは捕らえた奴隷狩り達を連れて、シュネーベルクの町に戻るべきだ。
とは言え、さすがに一言も告げずに立ち去るのは、アメリアに悪いだろう。それなりの帰還、共に旅をした仲なのだし、去る前に挨拶くらいはしておきたい。
そこで問題になるのが、アメリアに声を掛ける間、奴隷狩り達をどうするかだ。奴隷狩り達を連れて里へと入るのは、あまりよくないだろう。里を荒らした張本人たちを入れるのは、火兎族達も良くは思わないはずだ。
見張り役として、この場に一人フィリーネを残していくのも可哀相だ。フィリーネだってアメリアと仲良くしていたのだし、最後に言葉は交わしたいだろう。火兎族達は各々忙しそうにしているし、別の見張りを置いておくことは出来そうにない。
そこで、俺は奴隷狩り達になるべく小さく纏まるようにと指示を出す。疑問符を頭に浮かべる奴隷狩り達を正面に置き、俺は一つ魔術を行使した。
立ちどころに、奴隷狩り達を囲む土壁が築き上がる。その高さは俺の身長ほどである。後ろ手に魔封じの枷を嵌められている状態では、まず出ることはできないだろう。
よし、これで問題ないな。枷を嵌められ、互いに縄で繋がれた状態では、放っておいても逃げ出すこともできないだろうが、身動きさせないに越したことはない。少しの間目を離す以上、保険は必要だ。
土壁の内側の奴隷狩り達が、抗議の声を上げるのを背中に受けながら、俺はフィリーネと共に火兎族の里へと踏み入った。そうしてアメリアの姿を探し求める。
アメリアはすぐに見つかった。入口から正面に当たる広いスペースで、一人の男性と共に奴隷狩り達の砦から持ち出した物資を並べているようだ。
そちらへと歩み寄れば、近寄る俺達の存在にアメリアが気付いて顔を上げた。それから作業の手を止めると、こちらへと小走りで駆け寄ってきた。その後ろに、共に作業をしていた男性が続いて来る。
「ジーク、どうかした?」
「あぁ、そろそろ出ようと思ってな」
「もう……ってわけでもないわね。そうよね、二人が心配だもの」
俺の言葉に、アメリアは納得したような表情を見せた。
火兎族達の件に関してはひとまずの解決を見せたものの、俺達の問題はまだ続いている。囚われた二人を、一刻も早く助け出さなければならないのだ。
そこへ、アメリアの後からやって来た火兎族の男性が、その隣へと並ぶ。
「お二人とも、今回はありがとうございました」
そう言って、頭を下げて見せる。男性の立場などはわからないが、改めて礼を言うということは、この里の代表みたいなものなのだろうか。
男性の言葉を受け、俺は小さく首を横に振る。
「いや、気にしないでくれ。俺達が勝手にやったことだ。それに、礼ならもう十分に貰ったよ」
今回火兎族達を助けたことに関して、恩に着せるつもりはない。俺達だって目的があってこの地に来たのだし、そのついでのようなものだ。
礼に関しても、既に助け出した火兎族達から口々に言われている。奴隷狩り達の残党を砦で待つ間、夜が明けるまでに時間はたっぷりとあったからな。
俺の言葉に、男性は「そうですか」と言って顔を上げる。
それから、思い出したように背後を振り返った。
「ですが、本当に全部頂いてしまっても良いのですか?」
そう言う男性の視線の先には、先程アメリアと共に作業をしていた場所だ。そこにはマジックバッグがいくつかと、その中から出された様々なものが並べられていた。
そのすべてが、奴隷狩り達の砦にあったものだ。
奴隷狩りの砦には大量の食料や酒、金や貴金属、その他生活に必要な様々なものが存在した。そのまま放置しても仕方がないし、火兎族達の復興に役立てるのが良いだろうと、同じく発見したマジックバッグに入れてここまで運んできたのだ。
当面の食料は心配する必要がなくなるし、火兎族の里から持ち出されたものも、持ち主に返されることだろう。それらの確認のためにも、マジックバッグから出して並べていたところのようだ。
「あぁ、構わないさ。これからが大変だろう。復興に役立ててくれ」
食料を多少頂いたものの、それ以外のものは火兎族達のものだと決めている。雑多なものを貰ったところで仕方がないし、彼らはむしろこれからの方が大変なのだ。奴隷狩り達の襲撃で壊れたものも多いだろうし、物資があって困り過ぎるということもないだろう。
それでも男性は少し申し訳なさそうな顔をしていた。何も礼を出来ずに心苦しいと言った様子だが、あまり気にしないで欲しいものだ。
それから俺は、アメリアへと向き直る。
「それじゃ、俺達は行くよ。元気でな、アメリア」
「アーちゃんと旅するの、楽しかったの。きっとまた、会いに来るの」
俺とフィリーネが別れの言葉を口にすれば、アメリアは何やらきょとんとした表情を浮かべる。その様子に、俺は内心で首を傾げた。
それからアメリアは不思議そうな表情をしたまま、口を開く。
「何言ってるの? 私もついて行くに決まってるじゃない」
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