表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

237/685

237話 二人の行方2

 迎えた翌朝、奴隷狩りの残党が戻ってきたところを、俺はアメリアと共に砦の上から眺めていた。遅い時間にならなかったことに、安堵の息を吐く。これなら、今日は予定通りに行動できそうだ。

 全部で四人の奴隷狩り達は、砦上の俺達の存在にも、見張りがいないことにも気が付いた様子はなく、呑気に会話をしながら砦の中へと入っていく。その背後へと、俺とアメリアは音も立てずに降り立った。


 そうして砦に踏み入ったところで、背後から不意打ちで二人の足を蹴り砕く。完全なる奇襲だった。

 そうして崩れ落ちる二人を尻目に、まだ何事かわかっていない様子で振り向いた前方の男へと、右の拳を叩き込む。隣では、アメリアの蹴撃を受けて最後の一人が倒れるところだった。


 一瞬のうちに四人の奴隷狩りを無力化した俺とアメリアは、その両腕に魔封じの枷を嵌めると、ずるずると引き摺りながら砦の奥へと向かう。

 そうして足を運んだのは、既に捕縛している奴隷狩り達が集められている部屋だった。見張り役として、数人の火兎族の男達も一緒だ。

 どの奴隷狩りの男も、火兎族の手によって報復を受けているために、体中傷だらけだった。そこから少し離れた場所へ、新たに捕らえた四人の奴隷狩りの男を投げ出す。


 新たに捕らえた男達は、未だ何が起きたのかわかっていない様子で、目を白黒とさせていた。その男達の前で、俺は徐に腰を下ろした。

 それから、ゆっくりとした口調で話し始める。


「さて、見ての通り、お前達の仲間は捕らえてある。ここにいない者は死んだ者だ。お前達の首領も、その中に入っている」


 この言葉には、少し嘘がある。ただ一人、ヴォルフの行方が知れないのだ。奴隷狩りの男達を一箇所に集めるために砦内を回ったのだが、縛り上げたはずのヴォルフがいなくなっていることに気が付いたのだ。

 どうやったのかはわからないが、逃げたのだろうと考えられる。とは言え、切断した両腕はその場に残されていた。腕がなければ、どの道何もできはしない。そこまで気にする必要もないだろう。


 それから、なくなっていたものがある。ヴォルフの使っていた漆黒の大剣と、鎖の男が操っていた深紅の鎖の魔道具だ。どちらも気になるものだっただけに、回収しておかなかったことが悔やまれた。

 ヴォルフが持っていったのかとも考えたが、両腕が無くては持ち去るのは困難だろう。捕らえた奴隷狩り達に聞いても知らないという答えで、もちろんその中に持っている者がいたわけでもない。結局のところ、その二つが行方知れずなのだった。


 非常に気になるものではあるが、今はそれよりもクリスティーネとシャルロットの救出が先決だ。

 俺は目の前に転がる奴隷狩り達に目を向けたまま、言葉を続ける。


「今からする、俺の質問に答えろ。嘘を吐いたり、答えなかった場合は殺す」


 俺の言葉に、隣に立つアメリアが腰からナイフを取り出し、男達へと一歩近づいた。

 よくある脅しのような言葉だが、俺は本気だ。何せ、二人の生死がかかっているのだ。それと比べれば、奴隷狩り達の命など軽いものである。

 俺の言葉に本気を感じ取ったのか、男達は引きつったような顔でつばを飲み込んだ。


「昨日、半龍族の娘と精霊族の娘を、シュネーベルクの町へと連れて行ったな?」


「し、知らねぇ!」


 男の一人が俺から距離を空けるように後退りながら、大声を上げた。その言葉に、俺は思わず眉根を寄せる。

 この期に及んで嘘を吐こうというのか。やはり、見せしめと言う意味でも、一人くらいは殺した方が良いのかもしれない。

 アメリアが手の中のナイフをくるりと回す様子を眺めながら、俺は腰の剣に手をかけた。


「もう一度問うぞ? 銀髪金目で笑顔が可愛い美人な半龍族の娘と、とびきり可愛く庇護欲に駆られる水色の髪と瞳を持つ、精霊族の娘を連れて行ったな?」


 重ねての問いかけにも、男達は答えない。

 俺は無言で腰の剣を引き抜いた。ミスリルの輝きが、照明の光を反射する。

 その様子を目にし、男達の間で動揺が広がった。


 俺はその場に立ち上がると、ゆっくりとした動作で剣を構える。

 それを受け、最も近くにいた男が泡を食ったように話し始めた。


「つ、連れて行った! それがどうしたって言うんだ!」


「余計なことはしゃべるな」


 その男へと蹴りを入れれば、手に枷を嵌められた男は受け身も取れずに石床に倒れ込む。その様子を尻目に、俺は内心で安堵の息を吐いた。

 ひとまず、見立ては間違っていなかったらしい。この男達が、二人を町へと連れて行ったのだ。それなら、二人をどこに連れて行ったのかも知っているはずだ。


 俺は倒れた男の奥襟を掴むと、ずるずると引き摺りながら他の男と距離を開けた。男は膝を擦り剥くだろうが、知ったことではない。

 これで近くにいるのは俺と目の前の男、そしてその背後に立つアメリアだけである。

 その事を確認すると、俺は音を遮断する風の魔術を行使した。周囲に声が聞こえると、これからやることに支障があるからな。


「アメリア」


 俺の呼びかけに、アメリアは首肯を返すと男の後ろに屈み込む。そうして男の手首に嵌められた枷を、片方外してやった。

 もう片方は当然、反対の手首に嵌められたままだ。万が一にも、抵抗など許すつもりはない。


 俺はその場に腰を下ろすと、男の前に一枚の紙を広げた。シュネーベルクの町で購入した、町の地図である。当時はこんな事態など予想していなかったが、念のために買っておいてよかった。

 俺は広げた地図の上に勢い良く片手を振り下ろす。その動作に、ビクリと男が肩を跳ねさせた。


「先程の娘をどこに連れて行ったか答えろ。でなければ殺す。幸い、聞く相手には事欠かないんでな」


 そう言って、わざとらしく周囲を見渡して見せた。これだけ奴隷狩り達がいるのであれば、捕らえた者を連れていく場所くらい、誰かしら知っているだろう。わざわざ二人を連れて行った男達を待っていたのは、その方がより確実だからだ。

 俺の言葉に合わせ、男の背後に立つアメリアが男の首へとナイフを当てる。その冷たい感触が伝わったのだろう、男は大きく息を呑み込んだ。


 男は一瞬の逡巡を見せたものの、そろそろと右手を地図へと伸ばした。その手が、地図上の一箇所を指し示す。

 その様子に、俺は自然と前のめりになった。


「こ、ここだ! 三番街の一角……捕まえた奴隷は、ここで売り捌くことになってる!」


 男が示したのは、町の北東に当たる部分だ。土地勘がないために、地図の情報だけではいまいちよくわからない。


「どういう場所だ?」


「ま、周りには酒場がいくつかあるが、人通りはそこまで多くはない。ここに入口があって、地下の会場で奴隷を売り買いするんだ」


 それから男の話に時折質問をしながら、情報を記憶していく。

 一通り聞き取ったところで、俺は腕を組み考え込んだ。


 シュネーベルクの町でも、以前から人身売買に関しては調査されていたようだが、未だ現場は抑えられていないらしい。その現場と言うのが、今男が教えた場所である。

 出入口は二か所あるらしく、片方が店の奥へと続く、店側が利用する出入口。もう一つが、奴隷を売り買いする客が利用する出入口だそうだ。男達は、店側の出入口を利用していたらしい。


 商品を連れて行った男達は、地下で店側に商品を売るそうだ。店側は買い取った商品を地下牢に入れ、夜に行われるオークションに出品したり、個別に売ったりするらしい。

 クリスティーネとシャルロットは、今頃その店の地下牢にいるということだろう。


 一通り聞き取った俺は、男に枷を嵌め直すと元の場所へと追い立てた。それから別の男を引き摺り、再び同じことを質問する。これを四人分繰り返した。

 結果的に、新たに捕らえた四人の男は、全員が同じことを話した。一人くらいは嘘を吐くかと思ったのだが、我が身の方が大切だったのだろう。その方が、俺としても手間が省けて助かる。


 これで、二人の居場所は分かった。後は助け出すだけだ。

 俺は地図を畳んで鞄へ仕舞うと、硬い石床から腰を上げるのだった。

評価およびブックマークを頂きました。

ありがとうございます。


「面白い!」「続きを読みたい!」など思った方は、是非ともブックマークおよび下の評価を5つ星にしてください。

作者のモチベーションが上がります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
上記リンクをクリックするとランキングサイトに投票されます。
是非投票をお願いします。

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ