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221話 半龍の少女と地下牢2

 現れた二人の男は、どこか見覚えのある気がする者達だった。どこかで会ったことがあるだろうかと記憶を探ってみれば、すぐに思い至った。

 あれは二日前、ベティーナとロジーナと出会った日だ。火兎族の里で襲い掛かってきた奴隷狩りの男達を撃退したのだが、あの中にいた、気がする。

 こいつだ、と言うほどの確信は残念ながらないものの、あの男達から感じた雰囲気にとても良く似たものを、目の前の男達からも感じた。


 男達は鉄格子の前に立ち、値踏みするような視線で私達の事を見下ろしてきた。


「よし、全員起きてるな」


 男の一人はそう言うと、胸元から何か小さなものを取り出した。思わず身構える私達を尻目に、男は牢の扉へと近寄ると何やらガチャガチャと南京錠を触りだした。

 やがて軽い音と共に、扉に取り付けられた南京錠が外される。どうやら男が取り出したのは、南京錠の鍵だったようだ。


 それから男は扉を開け、牢の中へと身を潜らせた。

 私はフィリーネと共に、シャルロットを庇いながら男から距離を取るように遠ざかる。

 牢の扉が開けられたとはいえ、まさか素直に逃がしてくれるわけではないだろう。


「そこのお前……半龍の女、お前だ。それから精霊族のガキ。その二人は一緒に来てもらおうか」


 そのように、私とシャルロットが指名される。どうやら、シャルロットが精霊族であることは、男達に知られてしまっているらしい。大方、気を失っている間の枷を嵌める際にでも、胸の精霊石の存在が露見したのだろう。

 そうなると、半龍族である私の身も危険だが、精霊族であるシャルロットの身も危険だ。珍しい種族である私達を、奴隷狩りの男達が逃すはずがない。


 無言で男と牢の入口との距離を測る私達に対し、男は遠慮もなしに近付いてくる。


「おい、早くしろ!」


 そう言って、強引に腕を引かれる。男の力は相応に強く、身体強化の使えない私は抗うこともできずにたたらを踏んだ。

 普段であれば力負けなどしないのに、と私は内心で歯噛みする。魔力の使えない状況では、私は何と非力なのだろうか。


 男はさらに、反対の手をシャルロットへと伸ばす。


「お前もだ!」


「いっ……や……」


 シャルロットが苦しげな声をあげる。

 男が掴んだのは、あろうことかシャルロットの首に嵌められた枷から延びる鎖だったのだ。男に力任せに引っ張られ、小柄なシャルロットはつま先立ちとなる。

 シャルロットは抵抗するように、枷の嵌まった両手で首から延びる鎖を掴むが、男の鎖を掴む力は緩まない。このままではシャルロットの身が危険だ。


「シーちゃんに乱暴しないで!」


「お――」


 私が行動を起こす前に、フィリーネが動いた。その身を以て男へと体ごとぶつかっていく。

 男は倒れることなくその場に踏み止まったが、それでも私の腕とシャルロットの首から延びる鎖からは手を離した。


「けほっ、けほっ」


「シャルちゃん、大丈夫?」


 咳き込むシャルロットの背を、私は出来るだけ優しく撫でてあげる。両手に枷が嵌まっているせいで、こんなことすら満足にできないのだ。

 顔を覗き見てみても、シャルロットは依然として苦しげな表情のままだ。もしかすると、首の枷が擦れて怪我をしてしまったのかもしれない。魔封じの枷さえ外れれば、すぐにでも治療してあげるのに。


「この女、調子に乗るなよ!」


「きゃっ――」


 男の怒鳴り声と共に、フィリーネの体が勢いよく石の床へと倒れ込む。手足に枷を嵌められたフィリーネは受け身も取れず、その身を強かに地面へと打ち付けた。

 はっとして顔を上げれば、拳を振り切った体勢の男がいた。そのことから、男がフィリーネを殴り倒したのだとわかった。


 それだけでは怒りが収まらなかったのか、男は倒れたフィリーネへと歩み寄ると、その腹を思い切り蹴り飛ばした。


「てめぇに、用は、ないんだよ! わかったら、大人しく、していろ!」


「や……ぁ……」


「フィナちゃん! やめてよ!」


 咄嗟に私は屈み込むと、フィリーネを庇うように覆い被さった。蹴りの勢いが止められなかったのか、私も横腹に一撃を入れられたが、それ以上の追撃はなかった。

 脇腹の痛みに耐えながら振り向いて睨みつければ、少し興奮した様子の男が息を切らしていた。


 さらに、男は険しい顔をしたまま私の方へと片手を伸ばしてくる。思わず身を固くすれば、男の大きな手が私の髪を掴んだ。

 そのまま上へと引っ張られ、私はその場に立たされる。


「いっ、っ――」


 男の手を掴もうと両手を振り上げるが、反対に残ったもう片方の手で手首を抑えられてしまった。完全に身動きを封じられ、私はただ痛みに耐えるしかない。

 そこへ、シャルロットが駆け寄ってきた。


「や、やめて、ください。言う通りにしますから……だから……」


「あぁ?」


「ひぅっ」


 男に凄まれ、シャルロットは小さくその身を震わせる。瞳に涙を浮かべながら、それでも男から目を逸らさないのは、男に掴まれた私を慮ってのことだろう。


「おい、そのあたりにしておけよ」


 男の標的がシャルロットに向かったらどうしようかと思ったが、それよりも先に別の声が割り込んだ。私の髪を掴んだ男と一緒に来ていた、もう一人の男だ。

 その男は牢には入らず、鉄格子の向こうでやる気がなさそうに石壁にその背を預けている。


「その二人を連れてくるだけだって言われてただろう? それなのに、商品を傷つける奴があるか」


「ちっ、わかってるよ。少しくらいなら問題ないだろ」


 そう言うと、男は私の髪を掴む手をぱっと放した。それからほっと息を吐く暇もなく、男から再び腕を強く引かれる。

 それから私はシャルロットと共に、追い立てられるように牢の入口へと歩かされる。その際、後方へと目を向ければ、フィリーネは未だ床に横たわり小さく咳き込んでいた。

 後ろ髪を引かれる思いはあるが、今は男達に従う他にない。


 私とシャルロットが牢から外へと出され、男の手により再び扉に南京錠が取り付けられた。牢の中にフィリーネを一人残し、私はシャルロットと共に前後を男達に挟まれ、歩くようにと指示される。

 せめて、シャルロットだけは護らなければ。私はそう決意すると、小さく拳を握った。

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