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210話 火兎の少女と物資調達1

 陽がその高さを少しずつ増していく頃、俺はクリスティーネ達を連れて木々の後ろに身を隠し、前方の様子を探っていた。視界に収まる範囲には動くものなど一つとして存在せず、辺りを静けさが支配している。

 俺は小さく指を打ち鳴らし、使用していた風の魔術を解除する。しばらくの間、周囲の音を探っていたのだが、聞こえてくるのは鳥の囀りくらいなものだ。少なくとも、奴隷狩りを始めとした部外者は、周囲にはいないらしい。


「よし、いないみたいだ」


 そう、俺は隣に並んで屈み込むクリスティーネへと声を掛けた。隣からは、少し複雑な色合いをした苦笑が返る。


「う~ん、良かったような、悪かったような?」


「そうだな」


 それに対し、俺は同意を示す頷きを返した。


 俺達がいるのは、火兎族の里の目と鼻の先である。里の中へと入る前に、木々の陰に隠れて内部の様子を探っていたのだ。

 前回のように、突然奴隷狩り達に襲われるような事態は避けたい。事前に里の中に他者が入り込んでいないかどうかを探るのは、安全を考えれば必須であった。


 そうして風の魔術で内部の音を探っていたのだが、これといった異音を捉えることはなかった。少なくとも、魔術の届く範囲は無人であるとみていいだろう。

 これが良いことなのかどうかというと、クリスティーネの言うように微妙なところである。


 元々、俺達はここへは物資の補充に来たのだった。火兎族の隠れ里は奴隷狩り達に襲われているために、金目のものは残っていないだろうが、生活に必要なものはそのほとんどがそのまま捨て置かれているはずだ。

 食糧庫に残っているであろう食料に魔術具の燃料となる魔石、予備の毛布などはいくらあってもよいものだ。そういった品々を、拠点としている洞窟に持ち帰ろうということだ。


 それだけを目的とするのであれば奴隷狩り達がいないことは好都合なのだが、俺達には他に、奴隷狩り達の拠点を突き止めるという目的もあった。

 そのためには、奴隷狩りの仲間を捕まえてしまうのが最も手っ取り早いのだ。そうすれば、自ずと奴隷狩り達の拠点を知ることもできるだろう。そう言う意味では、奴隷狩り達がいないということは都合が悪いのだ。


 とは言え、いないものは仕方がない。俺達は木の影から姿を現すと、火兎族の里へと足を進めた。

 俺の他の同行者はクリスティーネとシャルロットとフィリーネ、それにアメリアである。まさか拠点である洞窟に子供達だけを残すわけにもいかないので、ベティーナとロジーナの二人には残ってもらっているのだ。


「使えそうなもの、残ってるかな?」


 隣を歩くクリスティーネが、軽く小首を傾ける。


「少なくとも、食料は残ってると思うぞ。子供達が見つかってなかったからな」


 地下倉庫に隠れていた子供達が無事だったのだ。そこに置かれていた食料は無事なはずである。もちろん多少は減っているだろうが、里の規模から言っても食べ尽くしたということはないだろう。


「魔石とかも残ってればいいの」


「もう少し、毛布とかもあればいいんですが……」


「そのあたりになると、微妙なところだな」


 少なくとも、この荒らされようを見れば貴金属を始めとした金目のものは、既に奴隷狩り達によって盗まれていることだろう。

 魔石や毛布などは比較的安価ではあるが、生活に必要となるため、奴隷狩り達に持っていかれてしまっている可能性もある。


 そうしてアメリアを先頭にして到着したのは、一昨日にも訪れた倉庫のような建物である。倒れた柱を乗り越えて向かったのは、子供達の出てきた地下へ続く扉だ。

 入口を開け放ち、先に入ったアメリアに続いて梯子を下りて地下へと向かう。地下は少しばかり地上よりも気温が低く、俺は思わず身を小さく震わせた。


 地下は薄暗く、入口から降り注ぐ光が届かない範囲は闇に閉ざされている。それも、アメリアが柱に手を触れれば天井の魔術具に光がほんのりと灯り、地下の様子を浮かび上がらせた。

 地下は子供達が隠れていたために当然だが、奴隷狩り達が荒らした様子もなく綺麗なものだった。壁際には隙間なく棚が並べられ、数々の木箱が並んでいる。


 それら壁に囲まれた通路の先、突き当りの部分に数枚の毛布が固まって床に落ちているのが目に入る。おそらく、子供達はこの辺りに身を寄せていたのだろう。

 元々はこの地下倉庫に毛布などなかっただろうから、ベティーナかロジーナが隙を見て外から持ってきたに違いない。


 俺は毛布を拾い上げると、丁寧に折り畳んでから背負い袋へと入れた。毛布は不足しているとは言わないが、何枚あってもいいからな。

 それから、食料の残量を確認しているアメリアの傍へと近寄る。


「どうだ、アメリア?」


「そうね、いくらかは減ってるけど、塩漬け肉も芋もまだまだあるみたい。これなら、当面の食料は心配しなくても良さそうよ」


「よかった! アメリアちゃん、これ、一通り持って行ってもいいんだよね?」


「えぇ、置いていても仕方がないし、持てるだけ持っていきましょう。全てが終わったら、また戻しにくればいいわ」


 アメリアの許可も取れたところで、俺達は手分けして地下倉庫の食料を背負い袋へと入れていく。それからしばらくの時間を要して、ほとんどの食料を背負い袋へと詰め終わった。

 それなりの量を詰め込んだものの、マジックバッグには『軽量化』の魔術を掛けているために、重量はほとんど変わっていない。俺達はさしたる苦労もなく、荷物を抱えて梯子を上り、地下倉庫から出るのだった。

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