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202話 火兎の少女と隠れ里7

 くるり、くるりと白い羽毛が踊るように天から舞い降りる。俺はそれを、なんとなしに伸ばした手でそっと摘まんだ。

 雪のように純白な羽は、いつ見ても綺麗なものだ。天然の芸術作品であるそれは、然るところに売りに出せばそれなりの値段が付くことだろう。


 その落とし主は、と俺は視線を上へと上げる。ところどころに雲の見える青空の中、二対の翼が空を舞っていた。

 それらは目的を終えたのか、ゆっくりと下降してくるところだった。時折羽ばたきを交えながら高度を下げ、俺の傍へ体重を感じさせない軽さでふわりと舞い降りる。


「どうだった、クリス、フィナ?」


 俺はたった今、空から降りてきた二人へと問いかける。

 それに対し、銀翼の翼を持つ少女と白翼の翼を持つ少女は、揃って首を横に振った。


「ごめんねジーク、見えなかったわ」


「一面森が広がってるの。上から探すのは無理そうなの」


「やっぱり無理か」


 俺は小さく溜息を吐いた。


 奴隷狩りの男達に襲われ、男の一人が生み出した赤い鎖を撃退したのは、つい先程の事だ。

 襲撃自体は誰も怪我をすることなく凌げたのだが、取り逃した男達が問題だった。どうやらあの男達は、俺達が赤い鎖の対処に追われている間に逃げてしまったらしい。随分と逃げ足の速いことだ。


 追いかけようにも痕跡などなく、どうしようかと悩んでいたところへ、クリスティーネが上空からの偵察を申し出たのだ。

 そうしてフィリーネと二人、空から周囲の様子を見てもらったわけなのだが、残念ながら男達の行方を知ることは出来なかったらしい。これだけ木々が生い茂っているともなれば、仕方のないことだろう。


「ありがとうな、二人とも。さて、どうしたもんかな……」


 俺は腕を組み頭を悩ませる。

 奴隷狩り達が、先程の男達だけですべてと言うことはないだろう。あの男の言った、お頭と言う言葉からもそれは明白である。

 お頭と言うのが赤い鎖を操る男と同一人物かは定かではないが、仲間を集めて再び来られては面倒だ。人数次第では、普通に敗北してしまうことだって考えられるのだ。


 その事を考えると、このままこの場に留まるのは危険だ。


「よし、皆、ひとまずここから移動しよう。あの男達が、いつ戻ってくるかもわからないからな」


「ちょっと待って。その意見はわかるけど、子供達がいるんじゃなかった?」


 アメリアの言葉に、先程ベティーナ達と交わした会話を思い出す。そう言えば、彼女達の他にも子供達が六人程いるという話だった。

 まさか、置いていくことなど出来るはずがない。


「そうだったな。ベティーナ、案内してくれるか?」


「おう、任せとけ! こっちだ!」


 ベティーナに先導され、俺達は火兎族の隠れ里の中を進む。

 やがて、ベティーナは一軒の建物へと踏み入った。その建物も周囲の家々の例に漏れず、無残にも倒壊してしまっている。元の形は既に知れないが、散乱している物から察するに、元は倉庫の役割をしていたのではないだろうか。


 中は既に奴隷狩り達に荒らされているようで、崩れた建材の上に比較的新しい足跡がついている。それらを尻目にベティーナは倒れた柱を乗り越え、建物の奥へと入っていく。

 そうして奥の部屋の端、建材が積み重なった場所の前で足を止める。そのあたりには足跡も少なく、崩れた建材の影となって目立たないところだ。


 それからベティーナは積み重なった建材を取り除いていく。そのほとんどは薄い板材のようで、手を貸す間も無くすべての建材が取り払われた。

 そうして現れたのは、床に作られた扉である。


「そう言えば、地下食糧庫と言っていたな」


「あぁ、子供達はこの中だ」


 言いながら、ベティーナが扉を開け放つ。少し中の様子が気にはなったが、見知らぬ人族がいては子供達が驚いてしまうだろう。

 クリスティーネ達と共に少し離れて見守る中、アメリア達火兎族の少女達が地下倉庫への入口の周りに集まる。


 やがて、一人の女の子が地下から現れた。どうやら地下倉庫はそれなりの深さがあるようで、女の子は梯子を上ってきたようだ。

 そうしてアメリアの姿を認めると、瞳を大きくして勢いよく抱き着いた。


「アメリアお姉ちゃん!」


 対するアメリアも、膝をついて女の子を抱き留める。


「無事でよかったわ」


 そうこうしている間に、全ての子供達が地上へと出てきた。年齢は六歳から十歳くらいの、男の子が三人に女の子が三人だ。当然のことながら、全員がアメリア達と同じ火兎族である。

 子供達は一通りアメリアとの再会を喜んでいたが、俺達の存在に気が付いてからは警戒するように少女達の影へと隠れている。


「あの人達なら大丈夫だ! 何と言っても、アミーが連れてきたんだからな!」


「信じてもいいわよぉ?」


 不安げな子供達へと、ベティーナとロジーナが俺達の紹介をしてくれているようだ。軽く片手を振ってみたが、女の子は身を竦ませてしまった。いきなり慣れろというのも無理な話だろう。


 子供達の相手を二人に任せ、アメリアが俺の方へと近づいてくる。


「それで、移動するって話だったけど、当てはあるの?」


「いや、そう言うわけじゃないが、いつまでもここにいるわけにはいかないだろう?」


「それはそうだけど……」


 あの男達の様子では元々見当はついていたようだが、奴隷狩りの男達を取り逃したことで火兎族の生き残りがいることは奴らに知られてしまった。

 そうなった以上は、いつまた男達に襲撃されるかわからないのだ。そんな場所に、いつまでも留まっているわけにはいかない。


「物は相談なんだが、シュネーベルクの町に行くって言うのは無理なのか?」


「それは無理よ。あの子達は、まだ人族を装う魔術を使うことはできないもの。町に行って、火兎族だと知られればまた面倒なことになるでしょう?」


「なるほど、そいつは難しいな……」


 奴隷狩りのような男達が町中にもいるとは思わないが、良からぬことを企むものと言うのはどこにでもいるものだ。火兎族の子供達を連れて町中に行けば、却って余計なトラブルに巻き込まれる可能性もある。

 それでも、奴隷狩り達に捕らえられるよりはマシである。最後の手段として、町へと行く選択肢は残しておきたい。

 そうなると、取れる方針は限られてくる。


「どうするの、ジーク? やっぱり、ここから離れてどこか適当なところで野宿でもする?」


「とりあえずは、それしかないだろうな。一応、考えはあるから、ひとまずは俺について来てくれ」


「考えね……信じてもいいのね?」


 そう言うアメリアは、少し浮かない表情だ。普段俺を相手にこんな表情を見せることはないのだが、やはり子供達がかかわっているためか不安なのだろう。

 俺はその不安を少しでも打ち消せるよう、力強く頷いて見せた。


「あぁ、任せてくれ。決して悪いようにはしないと約束する」


 俺の言葉に、アメリアは瞬きを二つほどして頷いた。その後、アメリアの話でベティーナとロジーナもここから移動することには納得してくれた。

 そうして俺達は、火兎族の隠れ里を後にした。

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