表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

189/685

189話 対大鬼防衛戦6

 また一匹、この世からオーガを葬り去る。これで、今日は一体何匹のオーガを倒したことだろうか。

 俺はアメリアと共にノルドベルクの町を回りながら、町へと侵入したオーガを倒して回っている。町には結構な数のオーガが侵入してしまったようで、この短時間で既に両手の指では足りない数のオーガを倒している。


 幸いなのは、今のところ民間人の犠牲者を見ていないことだろう。冒険者ギルドからの避難指示が的確だったからか、町の北側は既にもぬけの殻のようだ。

 新たなオーガを打ち倒し、俺は剣を鞘へと納めて一息つく。

 そこへ、額の汗を拭いながらアメリアが近づいてきた。


「まったく、キリがないわね」


 そう言うアメリアの表情は、少しうんざりとしたものだった。倒しても倒しても終わりが見えないとなれば、そんな風に思う気持ちもわかるというものだ。

 それに、と俺はアメリアの様子を窺い見る。元々、アメリアがこの戦いに臨んでいるのは、シャルロット達を巻き込んでしまった罪悪感からである。

 今は一応、俺の身を案じてついて来てくれたようだが、町の人達のために戦っているわけではないので、意気込みとしてはそれほど高くはないだろう。


 そんな風に考えていると、遠くの方から悲鳴が上がった。それと同時、何かが崩れるような音が響く。その声に、その音に、俺達は揃って弾かれたように顔を上げる。

 もしかすると、人のいる場所へオーガが辿り着いてしまったのかもしれない。音の大きさから言って、それほど離れてはいなさそうだ。


「近いわね」


「あぁ、急ぐぞ、アメ――」


 声を掛けながら、アメリアへと振り向いた俺は驚愕に目を見開くこととなった。

 いつからそこにいたのだろうか、アメリアの後ろに額から角を生やした、赤黒い肌の巨漢の魔物が、既にその剛腕を振り上げた状態で存在していた。その立ち位置からすると、おそらくは建物の間の小道から現れたのだろう。

 先程の悲鳴に気を取られ、接近を察知できなかったようだ。アメリアの視界には映っていないようで、彼女はまだ後ろのオーガに気が付いていない。


「アメリア!」


 剣を抜くだけの時間もない。

 俺は強く地を蹴ると、一息でアメリアへと肉薄した。


「なっ――」


 突然の俺の行動に後ろを振り向き、アメリアがその身を固くする。

 その様子にも構わず、俺はアメリアの背中に手を回し、その頭を押さえて体の内へと抱え込む。さらに、アメリアの身を守れるよう、オーガとの間に自らの体を割り込ませた。

 そうして全身の身体強化を強め、来る衝撃に備える。


 その瞬間、オーガの剛腕が俺の頭部を撃ち抜いた。


 オーガは、単純な膂力では人を遥かに凌駕する魔物だ。これまで冒険者側が優位に立ち回れていたのは、出来る限り力勝負に持ち込まなかったからである。

 直撃を受けた俺が踏み止まれるはずもなく、成す術もなく地へと叩き伏せられた。


 天と地とがひっくり返り、上下がわからなくなる。

 視界が赤く染まり、思考が吹き飛んだ。

 頭が割れるように痛む。


 身体の感覚が朧気だ。

 俺は今、どういう状態なのだろうか。

 立っているのか、それとも倒れているのかもわからない。


 ただ、腕の中の暖かな感触を守らなくてはと、強く抱き締めた。


「――! ――!」


 腕の中の少女が何かを言っているようだが、上手く認識できない。

 聞き取ろうとしたところで、再度、背中に強い衝撃を受けた。

 上手く認識できない視界が回り、全身に鋭い痛みが走る。

 肺の空気が押し出され、強く咳き込んだ。


 何とかしなければと脳内は叫ぶが、思いに反して体は動かない。

 ただぼんやりと、あぁ、俺はここで死ぬのかと考え――


「『光龍墜剣』!」


 聞きなれた少女の声に、意識が覚醒する。

 それと同時に、柔らかな風が頬を撫でた。


 そうだ、俺はアメリアを庇ってオーガに殴り倒されたのだ。

 それを証明するように、今も尚頭部は酷く傷みを感じる。


 横になった視界を動かせば、先程のオーガの前に、銀の翼を持つ少女の姿が見えた。少女の持つ剣が、オーガを縦一文字に切り裂いているのがわかる。

 少女は血振りをすると、後ろ向きに倒れるオーガに目もくれずこちらへと駆け寄ってきた。


 俺の傍へ膝立ちになると、こちらの顔を覗き込む。

 その顔は普段の明るいものではなく、はっきりと青褪めていた。


「ジーク!」


「ク……ス……」


 名を呼ぼうとしたが、痛みのためか上手く発音が出来なかった。

 それと同時に咽せ、ゴホゴホと咳き込んでしまう。


 そこへ、白い翼が空から舞い降りてきた。

 銀の翼の少女の隣へと並ぶ。

 その表情も、いつもの眠たそうな瞳ではなくはっきりと憂いが浮かんでいた。


「クリス、フィナ……二人とも、大丈夫なのか?」


 二人は、空を飛んでいたところをオーガの操る重力の魔術により地面へと落とされ、負傷していたのだ。

 だがこの様子を見るに、治療が完了したとみてよさそうだ。


「フィー達は平気なの。それよりも今はジーくんなの!」


「待っててね、すぐに治すから! フィナちゃん、警戒をお願い!」


「任せるの!」


 その言葉と同時、クリスティーネの治癒術が俺の体を包み込む。

 暖かな光に包まれ、俺の体から徐々に痛みが消えていった。


 そのまましばらくの時間が経過し、元の健康体へと回帰する。

 それから俺はゆっくりと上体を起こした。


「ありがとうな、二人とも。おかげで助かったよ」


「ううん、ジークが無事でよかった!」


 俺が礼を言えば、二人は安堵の微笑みを見せた。


「そ、そろそろ、放してほしいんだけど……」


「ん?」


 不意に、下の方から声が聞こえた。

 何だろうかと見下ろしてみれば、俺の腕の中で赤毛の少女がその身を小さくしていた。

 そうだった、アメリアをオーガから庇ってから、そのまま抱き締めていたままだった。


 俺が小柄な体を解放すれば、アメリアは逃げるように俺から距離を取った。

 その頬には、少々の赤みが差していた。やはり、オーガに襲われた衝撃が大きかったのだろう。


「アメリア、怪我はないか?」


「え、えぇ、まぁ、そうね……」


 なにやら歯切れの悪い答えだ。それに、そわそわしているというか、何だか余所余所しい。

 あまり見ない反応に、俺は小さく首を傾げた。とりあえず、怪我はないようなので何よりである。


 そんなことを考えている間に、通りの向こうから悲鳴が響く。

 そうだ、まだまだ町中にはオーガがいるのだ。こうしてはいられない、早く向かわなければ。


 俺はその場へ素早く立ち上がると、クリスティーネ達へと視線を向ける。


「クリス、フィナ、行けるか?」


「大丈夫だよ! 行こう、ジーク!」


「フィー達に怪我をさせた報いを受けさせてやるのっ!」


 二人ともやる気は十分なようだ。少なくとも、先の負傷を思わせない表情だった。

 次いで、アメリアへと視線を向ければ、小さく頷きが返ってくる。彼女も問題なさそうだ。

 そうして俺達は悲鳴の聞こえた方向へと駆け出すのだった。

評価およびブックマークを頂きました。

ありがとうございます。


「面白い!」「続きを読みたい!」など思った方は、是非ともブックマークおよび下の評価を5つ星にしてください。

作者のモチベーションが上がります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
上記リンクをクリックするとランキングサイトに投票されます。
是非投票をお願いします。

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ