183話 大鬼進行対策会議6
「はぁ……限界だ……」
俺は小さく言葉を溢すと、その場に腰を下ろし足を投げ出した。そうして後ろ手で体を支えて、周囲をなんとなしに見渡した。
俺の周囲には、俺と同じように疲れ切った冒険者が草原の上に大の字になった姿がある。
陽の傾き具合から言って、今は夕方頃だろう。朝からほとんど休むことなく作業を続けていたのだから、いくら体力自慢の冒険者にも限界と言うものがあるのだ。
「お疲れ様、ジーク。はい、マナポーションを貰って来たよ!」
そう言って、満面の笑みで近寄ってきたのはクリスティーネだ。
その手には、青い液体の入った瓶が握られている。俺の傍にしゃがみ込み、瓶を俺の方へと差し出していた。
「あぁ、ありがとうな、クリス」
そう礼を言って、俺は瓶を受け取る。笑顔を作ったつもりだったのだが、若干複雑な表情になった自覚があった。
だが、そうなってしまったのも無理もないだろう。これで、今日何本目のマナポーションになるのだろうか。
以前、ユリウスと言う貴族の屋敷で行った、夜通しの呪術解除にも匹敵するほどの量を既に飲んでいるのだ。
これで、マナポーションの味がもう少し飲み易ければ喜んで飲むのだが。生憎、口を付けて流れ込んでくるのは、ただただ苦い液体である。
それでも、飲まなければ満足に体を動かせないだろう。仕方なく、俺は瓶に入った液体を一息に飲み干すのだった。
「どう、ジーク? もう終わった?」
「あぁ、丁度今、終わったところだ。見てくれ、即興で作った割には、なかなかのものだと思わないか?」
そう言って、俺は前方を指し示した。
その指差す方向には、黒々とした高い壁が聳え立っていた。土魔術の使える冒険者達の手によって作り上げられた、ノルドベルクの町を護るための防壁である。
今俺達が目にしているのが三層目の防壁で、その向こうにはさらに二層の壁が立っているのである。
最も外側の壁、一層目の壁の高さはオーガの身長の二倍から三倍ほどになる。
オーガの筋力はかなりのものだが、跳躍力というとそうでもない。万が一にも、オーガが壁の上へと昇ってくることはないだろう。
さらに二層目、三層目の壁の高さは前方の壁よりも高い造りになっている。防壁の上から、オーガ達へと魔術を放つためである。
そのため、防壁の裏側は防壁の上へと出られるよう、階段状に作られていた。
さらに、防壁の一層目と二層目、二層目と三層目の間には防壁上を移動できるよう、石の橋が掛けられていた。万が一にも防壁が破られた場合、後方の防壁へと円滑に移動するためである。
移動が終わった後は、中途半端に崩された防壁をオーガが昇ってきた場合に追ってこれないよう、崩してしまえば良い。
極めつけは、防壁に設けられた隙間である。三層の防壁すべてには、人が通り抜けられるだけの隙間が各所に空けられているのだ。この隙間は、オーガが通り抜けられないように作られている。
魔術だけでオーガを殲滅するのは不可能であろう。そのため、近接職の冒険者もオーガと戦う必要がある。そのために、この通路が用意されているのだ。
この隙間を通って前に出ることで、冒険者は直接オーガと切り結ぶことが出来る。それに、危険な時は防壁の後ろへ逃げることが出来るというわけだ。
この壁を作り上げるのには、本当に苦労した。何せ、土魔術を使える冒険者が、俺を含めて六人しかいなかったのだから。それに土魔術が使えるギルド職員を一名加えた、計七人での建造と相成った。
ギルドマスターであるディルクの指示の元、防壁を作り上げていくのだが、これがただただ疲れるのだ。ギルドから支給されたマナポーションをがぶ飲みしながら、この時間まで延々と魔術を使い続けたのだった。
だが、その甲斐もあって立派な三重の防壁が完成した。見栄えはあまりよくないが、機能的には十分な性能を備えていることだろう。これがあれば、オーガの進行も止められるに違いない。
「うん、すっごくいいと思うよ! これなら、オーガが攻めてきてもへっちゃらだよね!」
そう言って、翼と両手を大きく広げて見せる。
クリスティーネの目から見ても、この防壁はなかなかのものらしい。
そうしてふと、クリスティーネの周囲を見渡す。俺が防壁を建造している間、クリスティーネ達には自由に過ごすよう言っていたのだが、皆と一緒にいたのではないのだろうか。
「クリス、他の皆はどうした?」
「ん? 向こうの方で、お話してるよ?」
言いながら、クリスティーネは俺の隣へと腰を下ろした。
足を大きく投げ出し、後ろ手で体を支えて見せる。
「今日は、どんな風に過ごしていたんだ?」
「えっとね、邪魔にならないところで皆で訓練してたんだ。後はご飯食べたり、お話ししたりとか!」
「なるほどな。楽しかったか?」
「うん、すっごく!」
どうやら今日は一日、有意義な休暇が取れたらしい。
普段のクリスティーネ達であれば町を回ったりしたのだろうが、こればかりは仕方がない。この町で、異種族であるクリスティーネ達が女性だけで町を歩いていれば、どんなトラブルに巻き込まれるかわからないからな。
その後、俺とクリスティーネは話すことに夢中になり、シャルロット達の事をすっかりと忘れていた。戻ってこないクリスティーネを心配したシャルロット達が来た時には、既に陽が沈み始めていた。
そうして仲間達と合流した俺は、作り上げた防壁を後に宿へと戻った。
宿の室内でも、クリスティーネ達はいつもと変わらない様子だった。少なくとも、明日にはオーガの大群と戦うことになるということに緊張した様子はない。そのことを頼もしいと感じる。
俺自身は、どうだろう。少し緊張しているだろうか。
実際にこの目でオーガの群れを見てみるまでは、あまり実感が湧かないな。
こうして夜が更け、次の日がやってくる。
オーガ達との、決戦の日だ。
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