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182話 大鬼進行対策会議5

「あぁ、君達か、よく来てくれた」


 冒険者ギルドのギルドマスターの居室へと入って早々、執務机に腰掛けたディルクから声を掛けられる。その様子は、昨日見た姿よりもどこか疲れて見えた。

 他のギルド職員たちと同様に忙しいのだろう、机の上には書類が散乱している。そう思って部屋を見渡してみれば、昨日見たときは整然と整えられていた室内も、少し散らかっているようだ。


「忙しそうだな」


「君達のおかげでね。おっと、別に責めてるわけじゃない。むしろ、君達には感謝しているよ」


 そう言って首をぐるりと回し、後ろ手で腰を叩いて見せる。

 その様子から、長い時間机に座り続けているのだろうと窺えた。


「さて、君達を呼んだのは他でもない。君達が知らせてくれた、この町に迫りくるオーガの群れに関しての話だ」


 ディルクの言葉に、俺達は一つ頷いて見せる。やはり、冒険者ギルド側でも確認が出来たようだ。たった半日で確認できるとは、さすがは冒険者ギルドの魔術具である。

 差し当たっての問題は、それにどう対応するかと言うことだ。


「まず、この町の冒険者ギルドのギルドマスターとして、礼を言わせてくれ。オーガ達の接近を知らせてくれて、本当にありがとう」


 そう言ってディルクは椅子から立ち上がると、腰を折り綺麗なお辞儀を見せる。

 俺達としては別に恩着せがましくするつもりなどないのだが、この町のギルドを預かるものとして、礼の一つくらいはするのが妥当と言うところだろう。


 俺達が各々軽く頭を下げたところでディルクは顔を上げ、椅子を引いて再び腰掛ける。

 そうして、机の上で両手を結んで見せた。


「本当ならここで情報料を渡すところなんだが、今は少し慌しくてね。すまないが、そちらは全てが終わってからにしてくれ」


「あぁ、わかってるさ」


 そう言って、俺はディルクの言葉に頷きを返した。


 情報料と言うのは、その名の通り情報に対する報酬である。

 今回オーガの群れの接近を知らせたように、町の近くの森などで強力な魔物の存在を知った場合、ギルドに知らせることでその対価として情報料が得られるのだ。

 ギルドはその情報が妥当かを確認し、間違いがなければ冒険者達へと討伐依頼を出すのである。


 情報料の金額は、その魔物の危険度によって変わってくる。今回のオーガ達の接近は町の危機に直結しているため、それなりの金額が支払われることだろう。

 本来であれば魔物の確認が済んだ段階で情報料が支払われるのだが、今はそれどころではないのだろう。そんなことよりも、オーガ達の接近に備える方が先決である。


「それで、進行してくるオーガ達に対抗するために冒険者達を集めているわけなんだが、君達も討伐に参加してくれるだろうか?」


「あぁ、そのつもりだ」


 さすがに、この状況で町を見捨てて逃げ出すほど非情ではないつもりだ。

 もちろん、冒険者にとっては敵わないと思えば逃げ出す判断も時には必要となるだろう。だが、俺達には十分にオーガに対抗できるだけの力があるのだ。力のある者には、それ相応の責任があるというものだろう。


 俺の返答を受け、ディルクは満足そうに深く頷いて見せた。


「助かるよ。何せ、この町の冒険者はそれほど多くないからね」


 やはり、異種族の冒険者が寄り付かないためか、この町には冒険者の絶対数が少ないようである。

 今からでは、近隣の町からの助力も望めないそうだ。今町にいる冒険者だけで、この事態に対応する必要がある。


「それで、具体的にどうするつもりだ?」


「そのことについては、他の冒険者達と一緒に知らせようと思う。すぐに向かうから、先に降りておいてくれないか?」


 そう言うディルクへと、俺は了承を返す。

 確かに、ここで俺達に説明した後、他の冒険者に説明するのでは二度手間になってしまう。今はとにかく時間が惜しいようだし、ここは言われた通りに一度戻るとしよう。


 そうして俺達は部屋を辞すると、階段を降りてギルドの広間へと戻ってきた。相変わらずギルド職員が慌しく右へ左へと行き来し、冒険者達の会話で騒がしい。

 俺達は職員達の邪魔にならないよう、広間の隅の方へと移動した。


 だが、やはり異種族を連れている者が目立つのか、先程からやけに視線を感じる。

 そう思って見渡せば、冒険者の一人と目が合った。その冒険者は俺を睨むと、一つ舌打ちをして視線を逸らした。

 ノルドベルクの街中を歩いている時とは、少し異なる反応である。


 なるほど、わかった。

 これは異種族どうこうではなく、単純に美少女達を連れた俺に対する嫉妬である。

 ある意味では冒険者らしい反応に、俺は小さく息を吐いた。


「なんだか、見られてるの」


「なんだろうね? 町を歩いてる時とは、違う感じだけど……」


「うぅ……こんな風に見られるのは、苦手です」


 クリスティーネ達も、自分達がみられていることには気が付いているようだ。だが、その視線の意味するところまでは分からないようである。

 シャルロットは俯き、居心地悪そうに身を縮こまらせた。アメリアがその肩を抱き寄せ、シャルロットと共に冒険者たちの視線を遮るように俺の影へと身を隠す。完全に壁代わりとして利用されているが、アメリア達が嫌な思いをするよりは良いだろう。


 そうして待つことしばらく、二階の通路にディルクが姿を現した。

 手すりに両手をつき、俺達の方を見下ろす。そうして眼下の冒険者達を、一通り端から端まで眺めた。


「諸君! 今日は集まってくれてありがとう!」


 ディルクが大きな声を響き渡らせる。

 力強い声色に、話し合っていた冒険者達もすぐに口を閉ざし、声の出どころを見上げた。

 それを目にし、ディルクは満足そうに一つ頷くと、再び声を張り上げる。


「皆も既に聞いていると思うが、今、この町に大きな危機が迫っている! 北東の街道方面から、オーガの大群が迫っているのだ! その数は、優に五百匹を超えるものと思われる!」


 その言葉に、再び冒険者達がざわめきだす。どうするんだ、逃げるべきじゃないか、などといった声が上がる中、ディルクは宥める様に片手を上げた。


「恐れる必要はない! 我々にはこれだけの仲間がいるのだ。私達が力を合わせれば、必ずやオーガの大群を撃退せしめるであろう!」


 ディルクの演説に、「確かに……」「これだけの人数がいるんだもんな!」といった楽観的な声が上がる。それでも、中には懐疑的な表情の者もいた。


 俺自身、無策で当たるのであれば難しいと思っている。この町の冒険者たちをすべて集めても、その数は百人に満たないであろう。

 集まっている冒険者達はそれなりの腕を持っているように見えるが、如何せん数の差と言うのは大きいのだ。


「オーガ達が到達するのは、明日の朝の見込みである! どうか、町を守るために皆の力を貸してほしい!」


 そう言って、ディルクが頭を下げて見せる。

 その様子を見て、冒険者達は再び口々に会話を始めた。耳に入ってくる内容を聞き取る限り、肯定的な意見が多いようだ。

 まぁ、冒険者と言うのは基本的に戦いたがりばかりである。こういった場面で逃げ出すような者は、そもそも冒険者になどならないだろう。


 そんなざわめきの中、冒険者の集団から一人の男が注目を集めるように片手を上げた。背中に大剣を背負った、体格の良い男だ。

 自然と、その男へと冒険者達の視線が集まる。


「ディルクさんよお。もちろん俺達には町を守って戦うつもりはあるが、無駄死には御免だぜ? 何か策はあるんろうな?」


「もちろんあるとも。これを見てほしい」


 そう言うと、ディルクが片手で合図を出す。その声に応えるように、二名のギルド職員が現れた。そうして、二人して大きな紙の左右を持ち、俺達に見えるように広げて見せる。

 その紙には、何やら大きな円やいくつかの矢印などが書き込まれている。


 さらに、ディルクはどこからか指し棒を取り出すと、それで紙面上を指し示す。


「戦場の想定を図示した。ここがノルドベルクの町、こちらがオーガの接近ルートだ。この間に、土魔術によって三重の防壁を築く予定だ。土魔術を使える者には協力を仰ぐので、該当者はこのまま残ってくれ」


 そうして、ディルクの口から作戦の概要が説明される。

 基本的には防壁でオーガ達を足止めし、魔術で数を削っていく作戦のようだ。壁まで張り付かれた場合は、近接職が対応する予定である。

 壁が一枚だけであれば突破される恐れが高いが、そのために防壁を三枚用意する予定だという。徐々に後退しながら数を減らしていけば、上手くいけば二枚目、最悪でも三枚目の防壁で食い止められるはずだとディルクは語る。


 確かに、その方法であれば何とかなるかもしれない。少なくとも、無策で真正面からぶつかるよりはずっと成功率が高いだろう。

 それに、俺達冒険者の目的は町を守ることで、オーガの殲滅ではない。町を落とすことが出来ないとわかれば、オーガも引き返してくれることだろう。それらを見送って、後日少しずつ数を減らしていけば良い。


 その後はギルド職員が冒険者達に名前とランク、戦闘スタイルなどを聞いて回った。おそらく、今回の作戦に当たって戦力を分散する際の参考にするためだろう。

 冒険者と言うのはパーティ内はともかく、こんな風に大規模に協力することは稀である。そのため、俺とクリスティーネ達が別々に配置されるようなことはないだろう。せめて、パーティ内だけでも連携が取れるよう、固めて配置されるはずである。


 こうして、この日は明日に備えて依頼の受注が中止となり、冒険者達は解散となった。

 ただ、俺は土魔術が使えるために防壁の建設に当たるため、その場に残されることとなった。

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