18話 追放ギルドのその後2
俺の名はヴォルフ。この王都グロースベルクに拠点を構える、『英雄の剣』というギルドのギルドマスターをしている。
『頂へ至る翼』というSランクギルドとの合併の話が白紙となった日から数日、ギルドを追放したジークハルトの行方を追っているものの、未だ奴は見つかっていない。
いくら王都が広大だと言っても、ギルドに入っていない冒険者が依頼を受けるためには冒険者ギルドに行く必要がある。そう思って冒険者ギルドを見張ってみたものの、奴は姿を現さなかった。
つまり、奴はあれから依頼を受けていないか、王都を去ってしまったか、既に別のギルドに入ってしまったか、そのどれかだろう。
ただ依頼を受けていないだけなら問題ないが、王都を去ってしまったとなると見つけ出すのは困難だろう。奴の腕では有名になることなどないだろうし、もしかすると冒険者を辞めて故郷に帰ってしまったかもしれない。
そうなると、奴を再びギルドへと入れて『頂へ至る翼』と合併するという俺の計画が頓挫してしまう。
また、既に別のギルドに入ってしまった場合もまずい。
余程そこでの待遇が悪ければ話は別だが、そうでもなければ俺の話に耳を貸さない可能性もある。その場合でも、ギルド合併への道が閉ざされてしまう。
問題はそれだけではない。
ジークハルトをギルドから追放してから、数人のギルドメンバーがギルドを脱退していってしまったのだ。去って行ったのは何れもここ一年以内に入った新人達で、その中には将来有望な者も含まれていた。
そして今も、俺はギルドマスターの部屋でギルドを辞めるという新人二人に向き合っていた。
元々幼馴染だというこの二人は、半年ほど前に一緒にギルドに入ったばかりの、まだ年若い冒険者だ。男の方がテオ、女の方がアルマという名前である。
二人とも冒険者歴は浅いものの、何れはこのギルドを代表する冒険者になるはずだった。
テオのギフトは『剣豪』という『剣士』の上位に該当するギフトであり、アルマの方も『魔導師』という『魔術士』の上位互換であるギフトだったことが理由だ。
二人はまだレベルが10を越えたくらいだが、テオは既に中級剣技を、アルマは中級魔術を使用可能である。特に魔術の使えるアルマは、剣士主体の『英雄の剣』では重宝される存在だった。
そんな二人がギルドを辞めると言い出すものだから、俺は慌てて二人を部屋へと呼びつけたのだった。
「それで、どうしてギルドを辞めるなんて言い出したんだ?」
俺がそう言えば、二人は顔を見合わせた。
それから俺へと向き直り、テオが口を開く。
「ギルマス、あんたがジーク先輩をギルドから追い出したからだよ。俺達は元々、ジーク先輩に誘われてギルドに入ったんだからな」
テオの発言に、二人がギルドへと入った時のことを思い返す。そう言えば、二人を連れてきたのはジークハルトの奴だったか。
二人を連れてきた時、あいつは何と言っていただろうか。
そうだ、確かジークハルトが冒険者ギルドに行った際、冒険者になったばかりの二人が依頼を受けるのに困っている様子だったため、一緒に依頼を受けたと言っていた。
それで、依頼を達成した後に丁度良いからと、二人をギルドに誘ったんだったか。
「俺達はジーク先輩とパーティを組んでたわけじゃないが、よく依頼について来てもらってたんだよ」
「そのジーク先輩がギルドからいなくなったのなら、私達も別にこのギルドに拘る理由がありませんから」
「待て待て! そりゃ、お前達はあの男にギルドへ誘ってもらった恩があるかもしれないがな。そう言う事を抜きに一冒険者としてみれば、あんな役立たず、別にいてもいなくても変わらないだろう?」
『頂へ至る翼』のギルドマスター、レオンハルトは何やらジークハルトの奴を過大評価しているようだったが、俺のジークハルトへの評価は、相変わらず低いままである。
そりゃあ、レベルが上がれば強くなる可能性はあるのだろうが、今のあいつは初級剣技と初級魔術しか使えないような役立たずなのだ。
それこそ、レベルが低くても中級剣技や中級魔術が使えるテオとアルマに比べればずっと弱いだろう。
そう思って口に出したのだが、二人の評価は違ったようだ。
俺の発言に驚いたように、目を大きく見開いている。そうして互いに顔を見合わせ、再びテオが口を開いた。
「役立たずだなんてとんでもない! ジーク先輩は尊敬できる冒険者だぞ!」
そう言ってテオが語ったのは、俺の知らないジークハルトのことだった。
まず剣術だが、ジークハルトは確かに初級剣技しか使えないものの、動き自体は『剣豪』のギフトを持つテオと比べても遜色ないほどだったと言う。
中級剣技以上の大技は使えないものの、純粋な剣術に立ち回り、それに初級剣技を組み合わせることでテオよりも早く、それでいて魔力の消費も少なく魔物を討伐していたという。
さらに、ジークハルトは魔術も使用できる。その狙いは正確で、状況に応じた魔術を使い分けるのが巧かったという。
確かに中型以上の魔物を一撃で倒せるような魔術は使えなかったが、複数の魔物に囲まれた際は、初級魔術を駆使して一人で戦線を維持することができたそうだ。
その間に、テオの中級剣技やアルマの中級魔術で魔物を減らしていったらしい。
なるほど、どこまで本当かはわからないが、ジークハルトも少しは慕われていたらしい。
そう言えば、あいつは新人達など若い冒険者と一緒に依頼を受けていたようだったからな。あんなやつでも、多少は役に立っていたのだろう。
「とにかく、俺達はギルドを辞めさせてもらうからな。一応、世話にはなったと言っておく」
「今までお世話になりました。失礼しますね」
「お、おい、待て!」
俺の制止も聞かずに、二人は部屋を出て行ってしまった。
なぜこうも悪いことばかり重なっていくのだろうか。すべてはジークハルトの奴を追放したことから始まった。あれが間違っていたとでも言うのだろうか。
いや、そんなはずがない。この俺が、判断を誤るはずがないのだ。
だが、上手くいかない現状にも、ジークハルトが見つからないことにもイライラが募る。
「くそっ!」
拳を握り込み、机を強く叩く。
鈍い音が、部屋の中に虚しく響いた。




