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179話 大鬼進行対策会議2

 冒険者ギルドを後にした俺達は、宿屋へと向かっていた。今からでもオーガの群れに対抗するために出来ることがないわけではなかったが、俺達が独断で動いては却ってギルドの迷惑になることだろう。

 それに、急いで帰ってきたために疲労が蓄積している。明日からはまた忙しくなるだろうし、休むのも冒険者にとっては大切なことである。


 向かっているのは、数日前にも宿泊したゲルダの宿屋である。異種族でも利用できる宿をそれ以外に知らないのだし、宿を変えるほど不満もないからだ。

 テオとアルマは数日前まで別の宿屋に泊まっていたようだが、一緒の宿の方が何かと都合がいいだろうと、俺達に同行している。


 そうして歩くことしばらく、町の西側にある宿屋へと辿り着いた。変わりのない古びた外見に、テオはあまり気にした様子はなかったが、アルマは少し不安そうな顔をしていた。

 建付けの悪い扉を開き、宿屋の中へと足を運ぶ。

 建物の中では数日前に見たのと変わらない様子で、一人の老婆が煙管を手に受付に腰掛けていた。


 宿屋へと入ってきた俺達の姿を認め、ゲルダは少し意外そうな顔をした。

 まぁ、数日前に出ていったばかりの客が、再び訪れたとなれば少なからず驚くだろう。特に、俺達みたいな異種族連れは特徴的だろうからな。


「なんだいあんた達、もう戻ってきたのかい?」


「あぁ、ちょっと事情があってな」


「ふん、そうかい」


 さすがに、この町にオーガの群れが迫ってきているなど言えるわけがない。住民達に知らせるかどうかは、冒険者ギルドが判断してくれることだろう。

 ゲルダは訝しげな顔をしたものの、それ以上を追及することはなかった。その辺り、引き際と言うものをよくわかっている人である。


 さらに、ゲルダは俺達の顔を一通り眺め、テオとアルマへと視線を移した。


「しかも、新しい客まで連れてきてくれたのかい。気が利くじゃないか」


 そう言って、ニヤリと笑って見せた。


「あぁ、知人の冒険者でな。悪いが、まとめて泊まらせてもらうぞ」


「構わないさ。部屋は余っているからね」


 少々経営が心配になる台詞だが、部屋に空きがあるのは俺達としては助かる状況である。

 空き部屋が埋まらないのは外観に問題があるのでは、などと思うのだが、そのあたりを指摘するのは差し出口と言うものだろう。この町に来るたびに利用するだろうから、出来るだけこの宿が長続きすることを祈るのみである。


「それじゃ、前と同じ大部屋を一つと……テオ、アルマ、二人はいつもどうしてるんだ?」


 いつものように皆で泊まれる大部屋を頼み、テオとアルマの方へと顔を向ける。二人がどういった間柄なのかは聞いたことがないが、宿屋の部屋割りはどうしているのだろうか。

 すると、二人は少し戸惑ったような表情を作った。


「そりゃ、別室ッスけど……」


「えぇと……ジーク先輩達って、皆で同じ部屋に泊まっているんですか?」


「そうだが?」


 何か問題でもあるのだろうか。

 だが、俺の返答を聞いた二人は何か言いたげに顔を見合わせる。それから小声で何事か話し合ったかと思うと、アルマが肘でテオを突いた。

 その反応に、俺は首を傾げるばかりである。


 そうして、どこか気まずい様子でテオが口を開いた。


「なんつーか……大人、ッスね……」


「まて、何か勘違いしてないか?」


 明らかに、別の何かを想像している様子である。

 このまま誤解を解かないと、何かとんでもないことになりそうだ。


「そりゃ、俺だって男女一対一ならさすがに考えるぞ? だが、皆でいるなら別に同室だって構わないだろう」


 シャルロットであれば年齢的にセーフかもしれないが、クリスティーネやフィリーネと二人きりで同室に泊まるというのはさすがに不味いだろう。

 例えそうなったとしても、二人ともむしろ喜びそうなので、そのあたりのブレーキは俺がしっかりとしなければならないのだ。


 だが、俺の返答にテオもアルマも納得していない様子だ。二人して顔を見合わせ、アルマが再度テオを肘で突いた。

 促されたテオはと言うと、目を逸らして頬を掻きながら、再度口を開く。


「いや、むしろ男一人と女複数でいる方が、なんていうか……」


 なるほど、そう言う考えもあるのか。確かに、その意見はわからないでもない。

 だが、俺自身には何も疚しいところなどはない。

 何とか二人を説得できるようにと、俺は必死で言葉を探した。


「だ、だが、冒険者であれば野外とかで一緒に寝ることくらいあるだろう?」


「野宿と宿は別ッスよ!」


 テオの言葉に、愕然とした。確かに、テオの言う通りかもしれない。

 実際には赤い鎖の襲撃を警戒して同室に泊まっているので、仕方ないところはある。だが、今のところは襲撃の片鱗も見えないところだし、もしかすると考えすぎだったのかもしれない。


 やはりここはテオの言う通り、俺は皆と別室に泊まるべきかもしれない。

 そんな風に考え直していると、クリスティーネとフィリーネに両腕を取られた。


「そんなことはないの。冒険者なら、一緒の部屋に泊まるのは普通なの」


「みんなで泊まる方が、楽しいもんね!」


 やはり、二人は俺が同室で泊まることを歓迎しているらしい。シャルロットへと視線を移せば、小柄な少女は二人に同意するように首を縦に振っていた。

 ただ一人、このことに否定的であろうアメリアはと言うと、少し離れた場所で苦い顔をしていた。心情的には反対だが、赤い鎖の事と自分が金銭を出していないことからあまり強く言えないといったところだろうか。


「二人は、俺と同じ部屋に泊まることに思うことはないんだな?」


「むしろ望むところなの!」


「ジークだって、別に嫌じゃないんだよね?」


「まぁ、そうだな」


 皆で同じ部屋に泊まることを、嫌だと感じたことはない。寝ている間に決まって二人から抱き着かれるのだが、それも少々困るといった感想くらいである。

 クリスティーネ達に異論がないのであれば、俺が同室に泊まっても構わないだろう。その方が、少々宿代が安く済むという懐事情もある。


「と、言う事らしい。俺達が同室で泊まるのは、何の問題もないということだ」


「確かに、うるさくはないねぇ。中で何をしているかは知らないけどね」


「ゲルダさん、あんたわかってて言ってるだろう」


「ふぇっふぇっふぇっ、さぁて、どうだろうねぇ?」」


 明らかに面白がっている様子のゲルダへと半目を向け、俺達は宿泊手続きを取った。

 俺達は一つの大部屋へと泊まり、テオとアルマはそれぞれ一人用の部屋に泊まるようだ。幼馴染と言うことは聞いているが、二人の関係性についてもそのうち詳しく聞いてみたいところである。

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