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178話 大鬼進行対策会議1

 俺達は夜明けを待ち、すぐにノルドベルクの町へと引き返すことにした。町へとオーガの群れの接近を知らせ、その対策を講じるためである。

 そこで一人、難色を示したのはアメリアだ。オーガの群れなど放っておいて、先を急ぐべきだと主張した。


 人族に良い感情を持たず、特に異種族に排他的だったノルドベルクの町など、どうなったところで構わないと思っているのだろう。

 だが、その主張に従うわけにはいかない。事は町が一つなくなるかどうかの瀬戸際なのだ。


 確かに、アメリアの気持ちはわからないでもない。ノルドベルクの町では俺達だって少なからず嫌な思いはしたのだ。その町を救うことに、思うところがないわけではない。

 だが、町ごと消えてなくなってもよいものだとは思わない。それに、あの町にはエマやゲルダ、リリーといった、俺達に良くしてくれた人達だって暮らしているのである。

 そう言った人達を助けるためにも、事態を知った俺達には知らせる義務があると思うのだ。


 最終的にはクリスティーネ達の説得によって、アメリアが折れてくれた。

 人族の暮らす町の事を考えてくれたというよりも、このまま先へと進んでオーガの群れと遭遇する危険性とを天秤にかけた結果のようだ。


 そうして一日半かけてきた道程を、俺達は一日で走破した。

 二日振りとなるノルドベルクの町では、相変わらず町への入口である門で兵士たちから厳しい目を向けられる。

 俺達からするとわかっていたことだが、その様子に驚きを見せたのはテオとアルマだ。二人とも、人族であるために数日前にこの町を訪問した時はごく普通の対応をされ、何の疑問も持たなかったそうなのだ。


 そんな反応を他所に、俺達は冒険者ギルドへと急いだ。既に夕暮れ時なのだが、事は一刻を争うのだ。このまま宿屋へ行って、報告は明朝に、と言うわけにはいかない。

 そうして俺達は冒険者ギルドへと足を踏み入れた。

 冒険者ギルドの中は前回訪れた時と変わらない、実に平和な様相を呈していた。少なくとも、オーガが接近しているという情報は出回っていないのだろう。


 俺は冒険者ギルド内をざっと見渡すと、その中に唯一知っている相手を見つけた。

 ノルドベルクの町の冒険者ギルド職員、小柄な少女リリーである。彼女であれば、俺達の話も親身になって聞いてくれることだろう。


「リリー!」


 俺達は彼女の名を呼びながら、そちらへと駆け寄る。

 リリーは何やらカウンターの向こうで書類を整理していたようだが、俺達の声に気付いて顔を上げた。そうして目を丸くしたかと思うと、不思議そうに首を傾げるのだった。


「あ、あれ? ジークハルトさん達って、町を出たんじゃなかったですか? あ、もしかして、もう御用事が終わったのですか?」


「いや、そうじゃないが、今はそれどころじゃない」


 そう言って、やや前のめりになってカウンターへと両手をつく。

 リリーは少し頬を赤くして肩をすくませ、こちらを上目遣いで見上げ出来た。


「そ、それでは、どうなさいましたか?」


「いいか、落ち着いて聞いてほしい。今、この町にオーガの群れが迫っている」


「……えっ?」


 出来るだけ驚かせないようにゆっくりと告げるが、リリーは良くわからないといった様子で首を傾げて見せるばかりだ。

 それからパチパチと瞬きしたかと思うと、何かを思いついたように顔を上へと持ち上げた。さらに両の掌を合わせ、笑顔まで浮かべて見せた。


「あっ、もしかして、十匹くらいのオーガの群れを見つけたんですか? 森の奥であれば放置で、街道近くに度々出没するようであれば、討伐依頼を出す決まりになってますが……」


 どうも、俺達の考えが正確に伝わっていないようだ。

 だが、一般的に魔物の群れと言えばリリーの言うように十匹程度、多くても三十匹程度を指すことが多い。それくらいであれば、腕の良い冒険者であれば討伐可能なので、対した危機感は抱けないだろう。


 俺は否定を口にしようとしたが、それよりも先にクリスティーネとフィリーネが俺の両側から顔を覗かせた。


「そうじゃなくって、も~っとたくさんのオーガが、この町に向かってきてるの!」


「一面オーガだらけだったの。このままだとこの町が大変なことになるの」


「えっ? えっ? えっ?」


 二人の勢いに、リリーは目を白黒させる。

 少し混乱している様子だったので、俺は落ち着くようにと片手の動きで示した。

 そうしてリリーが呼吸を整えるのを待ち、再度口を開く。


「要約するとだな。今、このノルドベルクの町に数百匹のオーガの群れが近付いているんだ。対応を誤れば、町が滅ぶ」


「ジ、ジークハルトさんったら、冗談がお上手なんですから……」


 リリーは頬に冷や汗を垂らしながら、乾いた笑みをして見せる。

 だが、俺達が一様に真剣な顔をしていたためだろう。やがて現実を受け入れ始めたのか、顔色を青く変えていった。

 そうして、落ち着きなく周囲をきょろきょろと見渡し始める。


「ど、どど、どうしましょう?! に、逃げるにしたって、どこに逃げれば――」


「落ち着いてくれ。幸い、オーガ達が来るまでにはいくらか時間の猶予がある」


「見た感じ、後一日以上はかかると思うよ!」


「と言うことで、逃げる前に対策を講じる必要があるんだ」


「え、えぇと……と、とにかく! 私の手には負えませんので、ギルドマスターに相談しようと思います。ジークハルトさん達も、一緒に来ていただけますか?」


「あぁ、わかった」


 確かに、この件はギルドの一職員の手には負えないだろう。何らかの対策を立てるにしても、組織の頭の指示が必要となる。ここでギルドマスターに相談するのは妥当な判断だ。

 そうしてリリーがカウンターを回り、手招きをする方へと足を運ぶ。先導されるままにギルド内の二階に上がり、奥の部屋へと辿り着いた。どうやらここがギルドマスターの居室のようだ。


 リリーが軽く扉を叩けば、中から男の声で返答が返った。リリーが扉を開け、その後に続いて部屋の中へと踏み入る。

 部屋の中は、一言で言うならば整っているという印象だった。物が少ないわけではないが、何れも綺麗に整頓されている。


 その部屋の中、奥にある窓際の執務机で、一人の男が夕陽を背中に受けながら椅子に腰かけていた。室内には他に人がいないため、その男がギルドマスターなのだろう。


 俺は今まで冒険者ギルドのギルドマスターには会った覚えがないが、俺の想像とは異なる容姿をしていた。てっきり、ギルドマスターと言えば筋骨隆々な大男といったイメージがあったのだが、前方に座る男はそこまで極端な体格をしているわけではなかった。

 それでも、やはり鍛えているのだろう。書類を手にする腕は、普通の男性のそれよりも引き締まって見えた。


「リリーか。そちらの人達は?」


「ディルクさん、大変です! 町にオーガの大群が迫っているそうです!」


「……何だって?」


 突然の話に、ノルドベルクの冒険者ギルドマスター、ディルクはよくわからないといった表情で首を傾げた。


 その後、俺達は軽く自己紹介を交わし合い、クリスティーネとフィリーネが見たオーガの群れが、この町へと迫っている事実について話した。

 始めは穏やかな顔をしていたディルクも、話を聞くにつれて真剣な表情へと変わっていく。そうして全ての話を聞き終え、男は難しそうな顔をしてその逞しい両腕を組んだ。


「なるほど、話は分かった。何はともあれ、まずは確認が必要だな」


「至極もっともな考えだとは思うが、そこまで時間に余裕があるか?」


 確かに、突然立ち寄った俺達の説明だけで、ギルドとして軽々に動くわけにはいかないというのはあるだろう。だが、クリスティーネ達の見立てによれば、猶予は既に一日と少しくらいだ。

 今から確認に向かうとは言っても、空を飛べるクリスティーネ達ですら、あの場から確認に半日を要したのだ。ギルドに都合よく有翼の者がいるとは思えず、馬などで確認に向かったところで、今からでは一日ほど経過するのではないだろうか。


 疑問に思う俺達に、ディルクは「安心しろ」と告げる。


「こういう時のために、ギルドには遠方を確認する魔術具がある。それを使えば、明朝にははっきりしていることだろう」


「そうか」


 ディルクの言葉に、俺は胸を撫で下ろす。明日の朝に真偽がはっきりするのであれば、対策には一日ほど時間をかけることが出来る。

 猶予としては依然として心許ないが、全く時間がないよりかはマシであろう。


 それから俺達は二言、三言話し合い、明朝再びギルドへと来ることを約束した。

 その後、ギルドマスターと話したことで肩の荷が下りたのか、少し落ち着いた様子のリリーに別れを告げ、俺達は冒険者ギルドを後にした。

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