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168話 人族至上主義の町1

「あれが、ノルドベルクの町か」


 前方に見える光景を眺めながら、俺は小さく言葉を漏らした。

 王都を発って数日目、陽の陰る夕方頃である。今のところ、赤い鎖の襲撃に合うようなこともなく、順調に旅を続けられている。


 目の前に見える街並みは、今まで目にしてきた都市と比べてもそれほどの違いは見られない。至って普通の様子に見えた。

 だが、これまでの道中で、既に前方の町が通常の町とは少し異なることはわかっていた。


「ジーク、あの町がそうなんだよね?」


 俺へと顔を向け、小首を傾げたのは半龍族の少女、クリスティーネだ。その背中と臀部には、一目で異種族だとわかる銀の翼と尻尾があった。

 俺は前方に目を向けたまま、少女へと頷きを返す。


「あぁ、そのはずだ。あれが、人族至上主義の町か……」


 主に、王都からここまで来る途中に助けた商人から得た情報だ。

 ノルドベルクと言う町は、町全体が人族を至上の存在として考える人々で構成されており、異種族を排斥するような動きがあるという。

 異種族の冒険者が足を運ぶことはたまにあるが、何をするにも制限がかかるそうだ。


 遠目で見る限りでは、普通の町と変わらないように見える。少なくとも、ここからでは町中の詳しい様子は見て取れない。

 もう少し近づいてみれば、何かわかることもあるだろう。


「それじゃ皆、ひとまずは予定通りに」


「わかったの」


「はぁ、面倒ね」


 クリスティーネとフィリーネ、それにアメリアの三人は俺の声に指を打ち鳴らす。

 そうすると、三人の翼や尾、耳といった異種族の特徴である部位が消え去り、普通の人族と変わらない容姿となった。もっとも、三人とも人族に見えるようになったところで、別の意味で人目を惹く容姿をしているのだが。

 また、厳密に言えばシャルロットも異種族なのだが、その特徴としては胸にある精霊石だけである。大浴場などで見られなければ、異種族だと知られることはないだろう。


 異種族の特徴を隠したのは、異種族だと知られることを避けるためである。人族至上主義の町へと俺達がそのまま踏み入れば、どんな悪意を受けるかわからない。異種族だと知られないに越したことはないはずだ。

 もっとも商人から聞いた話では、町中の複数個所には隠蔽解除の魔術が施されているという。隠したところですぐに判明するかもしれないが、一度試すくらいはしても良いだろう。


 そうして俺達は町の入口へと足を運んだ。町をぐるりと囲う外壁の中、出入りのために設けられた門がぽっかりと口を開けている。

 門の両脇には、軽装姿の私兵が一名ずつ控えていた。俺達の姿を認めても、特に気にした様子はない。


 俺達はそのまま、素知らぬ顔をして門を潜り抜けようとした。

 その時だ。


「きゃっ」


 パチッという軽い音と共に、後方から短い悲鳴が上がった。

 何事かと振り向けば、どこか驚いた様子のクリスティーネ達が己の体を見下ろしていた。更には、隠していたはずの翼や尾が露わになっている。

 おそらく、隠蔽解除の魔術が作動したのだろう。なるほど、こんな風になるのか。


「びっくりしたぁ」


「ちょっと痛かったの」


「私もよ。まったく、鬱陶しいわね」


 純粋に驚いている様子のクリスティーネとフィリーネに対し、アメリアは少し苛ついているようだ。

 その様子を、シャルロットは不思議そうに見上げていた。どうやら、シャルロットは何ともないようである。


「私は何も感じませんでしたけど……」


「シャルは、別に魔術で隠しているわけじゃないからな」


 そのことから、隠蔽解除の魔術と言うのは異種族に対して無差別に働くようなものではなく、あくまで魔術を感知して発動するものなのだと分析する。

 まぁ、人族以外の種族に対して作動するような魔術というものは聞いたことがない。もっとも、俺が知らないだけで既にそういう魔術が存在する可能性もあるのだが。


 などと考えていると、門の両脇に立つ兵士が表情を変え、手に持つ長槍を俺達へと向けてきた。


「止まれ!」


 突然のことに面食らいつつも、俺は素直に足を止める。


「何か用か?」


「この町に一体何の用だ?」


 兵士の質問に、俺は思わず眉を顰める。未だかつて、町への出入りの際に兵士からこのような高圧的な態度を取られたことがない。

 これが、人族至上主義の町ということなのだろう。その証拠に、兵士たちの厳しい目は俺と言うよりも、後方のクリスティーネ達へと注がれている。まさか、町の出入り口に配置された兵士まで、ここまで露骨な態度を取るとは思っていなかったが。


 俺は兵士たちの態度に若干苛つきながらも、出来るだけ平静を装って口を開いた。


「何って、俺達は冒険者で、今は町から町へと移動する旅の途中だ。別に、俺達が町へ入るのは問題ないだろう?」


 町へ入ることが拒否されるのは、顔の知られた犯罪者くらいのものである。当然、俺達は指名手配などされてはいない。

 一介の兵士に、俺達を止めるほどの権限があるはずもないだろう。


 俺の言葉に、兵士たちは俺達へと武器を向けたまま一歩後ろへと下がった。通ってもよいということだろう。

 そうして一歩踏み出したところで、再び兵士から声を掛けられる。


「この町の中では、異種族が人族に身を偽ることは禁止されている。発覚すれば罰金刑に処されることを覚えておけ」


「なんだそりゃ……」


 町によって運営方法は異なるものだが、そのような決まりを聞いたのは初めての事である。事前に知らされるだけマシだと考えるべきだろうか。

 町中に入って再び異種族の特徴を魔術で隠したところで、聞いた話ではこの門のように隠蔽解除の魔術が至る所にあるという。それなら何れにしても知られてしまうことだろうし、今は大人しく従う他にはないだろう。


「わかった、精々気を付けておくことにするよ」


 俺は憮然とした態度を隠さないまま、町の中へと入っていった。

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