160話 火兎の少女6
「それで、どこまで話したんだったか?」
少し話が逸れてしまった。
えぇと、確かアメリアが火兎族であることを話したところで、俺がクリスティーネ達へ火兎族に関する説明をしたのだった。
これで、ひとまずアメリア達火兎族が、人族を目の敵にしている理由はわかっただろう。
本題はそこからだ。
「結局のところ、その赤い鎖は何なんだ?」
「それも話しましょう」
そう言うと、アメリアは再び口を開いた。
何故か腕にシャルロットを抱きかかえたまま。
「数日前、火兎族の暮らす里が奴隷狩りに知られたのよ」
それは突然の事だったという。
武器を持った人族の集団が突如として現れ、火兎族の仲間達を捕え始めたのだ。
だが、火兎族も無抵抗で捕らえられたわけではない。
元々、素の身体能力では人族よりも火兎族の方が優れているのだ。それに、火兎族には火属性の魔術の使い手も多い。
始めは、火兎族の男達の手により戦況を優位に進められていたらしい。アメリアも戦いに参加し、そのまま返り討ちにしようとした。
「その時よ。あの男が現れたのは」
奴隷狩りの集団の中から、両腕に赤い鎖を巻きつけた奇妙な男が現れたという。
その男が腕を一振りすれば、数多の鎖が地面より伸び、仲間達を次々と拘束していったという。アメリア自身も、一度は成す術もなく捕らえられたそうだ。
「どうして火兎族が狙われたんだ?」
「一部の人族の間では、未だに火兎族が幸運を呼ぶと伝えられているそうね。それで、生きたまま捕えれば高く売れるらしいわ。捕まった時に、人族の男達が言っていた」
「なるほどな……」
捕まった後、アメリアは隙を見て短剣で鎖を切り、何とか逃げ出したという。だが、その時には既に、両手首に赤い鎖が巻きついていたそうだ。
それ以来、時折今回のようにどこからともなく赤い鎖が現れ、捕らえられそうになっているという。
川を流れていたのも、何度目かの逃走の際に誤って足を滑らせたからだそうだ。
「赤い鎖を操る男か……」
全く聞いたことのない魔術だ。呪術のような、希少な魔術とみていいだろう。
破壊力自体はあまりないようだが、こと捕縛と言う観点で見ると驚異的だと言える。
しかも、近くに姿が見えないことから、赤い鎖を遠隔で操ることも可能だということだ。その目印とするのが、アメリア達の手首にある赤い鎖なのだろう。
だが、そうなると――
「これから先は、クリスとフィナも狙われるという事か」
「恐らくは」
俺の言葉に、アメリアが肯定するように頷いた。
厄介な状況である。これから先、何度も襲撃などされるのであればおちおち狩りなどやってはいられない。
これから先、どうするべきだろうか。
まず、何もせずに捕らえられてみるというのは論外である。相手は奴隷狩りなのだ。
クリスティーネもフィリーネも、見目のいい若い少女である。奴隷狩りになど捕まってしまえば、一体どうなってしまうのかなど想像に難くない。
間違いなく、良い結果になどならないだろう。
では、赤い鎖が自然と消えるまで、襲撃を凌ぐというのはどうか。
それも難しいだろう。
まず、赤い鎖がいつ消えるのかがわからない。その状態で普通に生活を続けていたところで、いつか不意を突かれて捕らえられてしまうだろう。
もし魔物との戦闘中に襲われてしまえば、その場で命を落とす可能性もある。
やはり、取るべき道はただ一つ。
術者を探し出し、魔術を解除させる。
それしかない。
「ねぇ、ジーくん。ジーくんなら、呪術みたいにこれも何とかならないの?」
そう言って、少し眉尻を下げたフィリーネが俺の方にと片腕を伸ばしてくる。
確かに、俺のギフトは『万能』であるが故に、あらゆる魔術を使いこなすことが出来る。
希少な術の一種であった呪術だって使えたのだ。この赤い鎖を操る魔術だって、俺になら何とかできるかもしれない。
「そうだな……少し試してみるか」
「んっ」
フィリーネの手を取り、赤い鎖を指で撫でる。つるりとした金属の感触は、普通の鎖とそれほど変わらないものだ。ただ、表面に細かい凹凸のないところが、やはり魔術で作られているのだなと感じる。
目を閉じて軽く魔力を流してみると、内側から押し返されるような反発を感じた。少しの間そうして、魔術の構成を感じ取る。
「ジーク、どう?」
「何とも言えないな……少なくとも、もう少し情報が必要だ」
術式さえ解読できれば魔術の解除も可能だろうが、今のままでは情報不足だ。呪術の時は、詳細が記載された本が手元にあったから可能だったのである。
残念ながら、俺の手元にはこのような赤い鎖を操る魔術に関する書籍はない。
無理矢理魔力を流して力任せに解除するという方法もなくはないが、その場合は暴発の危険がある。クリスティーネやフィリーネの身を傷つけるような手段を取るわけにはいかない。
「やはり、術者を探すしかないな……アメリア、何か手掛かりはないか?」
「ないこともないわ。まずは、火兎族の隠れ里に行く必要がある。私は元々、これから里に戻る予定」
「それなら、一緒に行ってもいいか?」
「む……」
他に手掛かりはないのだ。俺達は何としても、アメリアに同行する必要がある。
アメリアは少しの間俯いていたが、すぐに顔を上げて首を縦に振った。
「二人は私が巻き込んだからね。その責任は取りましょう。言っておくけど、貴方のためではないからね」
「別に、それはどっちでもいいさ」
俺としては、クリスティーネ達に危害が及ばなければそれでいいのだ。アメリアが俺と親交を深めたくないというのなら、別にそれでもよいだろう。
ひとまず、これからの方針は打ち立てた。これからは、火兎族の隠れ里を目指して動くこととなる。
こうして、俺達の同行者にアメリアが加わることとなった。
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