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153話 ミスリル剣と試し切り1

 鍛冶屋を後にした俺達は、その足で王都の南にある森へとやって来ていた。目的はもちろん、新しく手に入れた剣の使い勝手を試すためである。

 なお、今回は冒険者ギルドには立ち寄っていない。依頼を受けるのが目的ではなく、試し切りのために来ているからだ。それでも、オークなどを仕留められればオーク肉の納品依頼などは達成できることだろう。


 そうして久しぶりにやって来た森だが、以前訪れた時とあまり変わった様子はなかった。まぁ、森の見た目など、少し変わっていたところで気が付かないだろう。

 そんな森の中を、俺達は獲物を探して彷徨い歩く。そのうち、不運な魔物と鉢合わせることだろう。


 それから歩くことしばらく、ようやく俺の風魔術の索敵に反応があった。魔物らしき生物の足音である。

 俺は三人へと音を立てないように指示を出すと、音の聞こえた方向へとそろそろと歩き始めた。


 やがて、俺達の目の前には少し開けた空間が現れた。そこに、丁度良い具合に三匹のオークがいるのが見て取れる。さらに都合の良いことに、三匹とも素手である。


「こいつは丁度いいな。俺とクリス、フィナで一匹ずつ受け持とう」


「わかったわ!」


「ふふん、これなら楽勝なの」


「頑張ってくださいっ」


 その場にシャルロットを残し、俺達は横並びとなって木の陰から近寄っていく。そのまま互いに少し距離を開けて、広場へと進み出た。

 オーク達の反応は顕著だった。雄叫びを上げると、それぞれ三手に分かれて俺達の方へと向かってくる。一人に二匹以上向かってこられると面倒だったが、何とも都合の良いことである。


 俺は自分へと向かって来るオークと対峙し、右手に剣を構えた。記念すべきミスリルの剣での初めての戦闘である。その切れ味は如何ほどのものなのか。

 まずは初級剣技なども使用せず、剣そのものの切れ味を試すのが良いだろう。軽く振るだけで致命傷を与えるくらいまではいけるだろうか。


 そうして正眼に構えた剣を振り被り、上段から袈裟懸けに切り下ろした。


「うおっ」


「あっ」


「んんっ」


 スパンっという小気味のいい音と共に、オークの上体が斜めにズレる。

 俺の剣はオークの首から右胸にかけてを斜めに切り裂いていた。そのまま切り離されたオークの頭が、地面へと落下する。切り口から噴水のように鮮血が溢れ、力を失ったオークの胴体は後ろへと倒れ込んだ。


 左右を見れば、クリスティーネとフィリーネが相手をしたオークも似たような状態だった。やや呆然としたような表情で、各々手に握る剣を見つめている。

 同じように、俺も手元の剣へと目線を落とした。少し血に濡れた剣が、陽光を受けて煌めいている。


 余りにも手ごたえがなさ過ぎた。白パンを切るよりも遥かに楽だっただろう。大した抵抗もなく剣が進む感触は、むしろ恐ろしいほどだった。


「ミスリルって、すごいんだねぇ」


「すごすぎるの。これならアイアンゴーレムだってさっくりなの」


「確かに、鉄くらいなら簡単に斬れそうだな」


 それほどまでに切れ味が良いのだ。この剣があれば、あの『石造りのダンジョン』だって相当楽に探索できることだろう。もっとも、再び訪れるつもりはないが。

 これは冒険が相当楽になるなと考えていると、突如として咆哮が聞こえた。

 その方向へと目を向ければ、一匹のオークがこちらへと走っている姿が見える。今倒したオーク達の仲間だろうか。


 だが、一匹だけと言うのは好都合だ。俺は兼ねてからの考えを実行しようと、素早くシャルロットを呼び寄せた。


「シャル、あのオークはシャルに任せる」


 俺の言葉に、目を大きく見開く。そして、自身なさげに体をきゅっと縮めて見せた。


「わ、私がオークと戦うんですか?」


「あぁ、そろそろ戦える頃だと思うんだ。安心しろ、初めてだし援護はするから」


「わ、わかりました」


 少々怯えながらも、シャルロットは頷きを見せた。

 魔術の得意なシャルロットだが、『石造りのダンジョン』でケイブゴブリン相手に経験を積んだことで、剣技もそこそこの上達を見せている。

 そろそろ、オーク相手にも剣で相手を出来るころではないだろうか。身体強化も上達しているので、素手のオーク相手なら少なくとも即死はしないだろうという安心感もある。それに、いきなり無茶をさせるつもりはない。


 剣を構えたシャルロットの前へとオークが辿り着いた。そのまま唸り声をあげ、大きく両腕を振り上げる。そのまま、シャルロットを叩き潰すつもりだろう。

 そこへ、


「『氷結掌(アイス・グライフェン)』!」


 俺は素早く魔術を行使した。

 魔力が集結し、氷の枷が現れる。それはオークの首と振り上げた両腕を封じ込めるように固め、その動きを完全に止めた。

 ひとまず、これでシャルロットの身は安全だろう。


「今だ!」


「やぁっ!」


 俺の掛け声とともに、シャルロットが高い声を上げてオークへと踏み出す。

 シャルロットの構えた剣はオークの胸へ突き立つと、まるで空を切っているかのように何の抵抗もなく鍔まで深々と刺さった。


 剣を突き立てたシャルロット自身も驚いた様子だったが、気を取り直したようで剣を引き抜き、二歩、三歩と後退する。

 傷口から血を溢れ出していたオークは、ゆっくりと後ろ向きに倒れていった。


「上手いぞ、シャル」


 俺が褒めるように言葉を掛けながらシャルロットへと近寄るが、当の本人は少し呆然とした様子だった。それから、ぎこちなくこちらへと顔を向けると、眉尻を下げた表情で口を開いた。


「ジークさん、その……切れ味が良すぎて、怖いんですが……」


 どうやら、ミスリル剣のあまりの冴えに、少し引いているようだった。まぁ、少し取り扱いを誤れば、簡単に己の指を落としてしまうのだ。及び腰になる気持ちもわからないではない。

 だが、取扱いさえ間違わなければ、心強い武器なのだ。


「気持ちはわかるが、慣れてくれ。これはシャルのためでもあるんだ」


「わ、わかりました、頑張ります」


 俺の言葉に、シャルロットはきゅっと両手を結んで見せる。少し自信のなさげな様子は相変わらずだが、ゴブリンを相手にすることで剣の扱いにはかなり慣れたのだ。きっと、ミスリル剣も使えるようになることだろう。


 無事にオークを倒した後は、解体である。オークの解体は久しぶりだが、最早慣れ親しんだものだ。途中で詰まるようなことはなく、順調に解体を進めていく。

 使用しているのは普通の解体用ナイフである。折角なので、ミスリル製のナイフを作っておけばよかったと思った。

 オークを解体するにはこれでも十分だが、いつかまたミスリルゴーレムのような硬い魔物を解体する必要が出てくるかもしれない。その時のために作っておこうと、町へと戻ったら鍛冶屋に立ち寄ることを心に決める。


 そうしてオークの解体を終え、背負い袋を背負った時だ。

 俺の索敵魔術に、何かを引きずるような大型の魔物の気配が引っ掛かった。

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