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150話 装備の製作と素材の売却3

 久しぶりに訪れる王都の冒険者ギルドは、少し閑散としているように見えた。人が少ないように思えたが、すぐに昼が近いことを思い出す。依頼を受けるような冒険者は朝方にしか来ないので、今は丁度空いている時間なのだろう。

 左手にある依頼掲示板を素通りし、ギルドのカウンターへと足を運ぶ。そこでは、以前に何度も依頼の受付をしてくれた女性職員が対応をしていた。


「いらっしゃいませ。お久しぶりですね」


 そう言って、女性が笑顔を向けてくれる。

 どうやら、向こうも俺達の事を覚えていたらしい。


「確か、オストベルクへの護衛依頼を受けられていましたよね? 戻ってきたのですね」


「あ、あぁ、まぁな」


 女性の言葉に、俺は内心で舌を巻く。俺達の顔だけでなく、どの依頼を受けていたのかも記憶しているらしい。

 冒険者なんて一日に何十人と足を運ぶだろうに、それをいちいち覚えているとは、何という記憶力だろうか。俺なんて、一昨日の夕飯すら……いや、旅の間は別の町別の宿に泊まったから、結構思い出せるな。


「今日は買取でしょうか?」


「あぁ、ちょっと大物でな。ミスリルゴーレムの買取を頼む」


「ミスリルゴーレムですか?!」


 女性の驚愕の声が、やや閑散とした冒険者ギルド内に響き渡る。すると、俄かにあたりが騒がしくなった。

 ギルド内で酒などを飲んでいた冒険者たちが、興味深げな視線をこちらへと向けてくる。さらに、「ミスリルゴーレムだって?」「本当かよ?」「あんな小僧たちがか?」などと口々に話し始めた。


 俺はそれらの反応を聞き流しながら、女性と向き合う。


「そうだ。買い取ってくれるだろう?」


「え、えぇ、もちろんです。こちらへどうぞ」


 そう言って女性が立ち上がり、右手の方向を示す。勧められるままに進み、カウンターの向こうからこちらへとやって来た女性と合流すると、建物の奥へと歩き出す。

 すると、後ろからどやどやと話し声と足音が続いてきた。どうやら、ギルド内にいた冒険者たちが付いてきたらしい。


 おそらく、ミスリルゴーレムを見に来たのだろう。まぁ、わざわざついてくるなと言うほどではない。一目見たら満足して帰ることだろう。

 後ろに続く冒険者達を無視して進み、辿り着いたのは何もない広い部屋だった。今まで通ってきたところは木製だったが、この部屋は壁も床も石で構成されているようだ。

 掃除はされているように見えるが、血痕だろうか、部屋の真ん中に少々跡が残っていた。


「ここは大型の魔物などを解体するための場所です。ひとまず、ここにミスリルゴーレムを出していただけますか?」


「わかった」


 それから、俺達は手分けしてマジックバッグからミスリルゴーレムの残骸を取り出していった。もっとも、小柄なシャルロットでは持てないような大きさのものもあったので、そのあたりは俺が手伝ったが。

 すでにある程度解体しているため、どれがどこの部位だったのかはまったくわからない。そのためミスリルゴーレムを綺麗に復元するようなことはなく、残骸を一箇所に集めただけだ。


「なんだ、ミスリルゴーレムって言っても、表面だけで他は黒魔鉄じゃねぇか」


「そんなこと言って、お前にミスリルが斬れるのかよ?」


「これをあいつらがやったのか? 落ちてたのを拾っただけじゃないか?」


「馬鹿か、ミスリルゴーレムの残骸を放置する冒険者なんているわけないだろ」


 何やら外野がうるさいが、放っておいてもよいだろう。中には俺達が倒したことを疑っている者達もいるようだが、別に俺達は素材が売れればそれでいいのだ。わざわざ否定するために声を上げる必要はない。

 やがて、すべての素材を出し切った俺は額を軽く拭った。


「これで全部だ。確認してくれるか?」


「はい、少々お待ちください……なるほど、ミスリルと黒魔鉄のゴーレムですね。鍛冶屋に持ち込めば加工してくれると思いますが、どうしますか?」


「鍛冶屋には既に必要な分を渡しているからな。すべて買い取ってくれ」


「わかりました。これから買い取り額を計算しますので、そちらで少々お待ちください」


「よろしく頼むよ」


 女性に示された方向には、壁際に設えられたベンチがあった。そこで待っていてくれと言う事らしい。

 ミスリルゴーレムのような大型魔物は、ゴブリンやオークとはわけが違う。精算を終えるまでには、それなりに時間がかかることだろう。


 俺達は職員の女性にその場を任せ、隅にあるベンチに腰を下ろした。横目で入口の方を窺えば、満足したのか冒険者達が帰っていく姿が見えた。


「やっと鞄が軽くなったの。いくらマジックバッグでも、やっぱり重かったの」


 そう言って、フィリーネがぐぐっと背伸びをして見せた。今は背の白翼を見せていないが、出していたなら大きく広げていただろう仕草だ。

 その気持ちは俺にもわかる。俺は足元に置いたマジックバッグを見下ろした。


 いくら『軽量化』の魔術が掛かったマジックバッグと言えど、重量を零にすることはできない。まして、中に入れていたのは大量のミスリルゴーレムの残骸である。

 持ち上げられないということはないが、それなりの重さが俺達の肩にはかかっていたのだ。これで、煩わしい重さとはおさらばである。


「ねぇジーク、いくらくらいになるかな?」


「そうだな……揚げ団子を百個買ってもまるで減らないくらいかな」


「本当?! 買ってもいいかなぁ?」


「さすがに食いきれないだろう」


 クリスティーネが瞳を輝かせるのに対し、俺は苦笑を返す。他に欲しいものとかないのだろうか。こう、貴金属とか、服とかだ。

 だが、今までのクリスティーネの言動を思い返してみても、食べ物以外の執着を見せたところを見たことがない。年頃なのだし、折角見目もいいというのに、どこか勿体ないような思いである。まぁ、冒険者には何れも不要なものなのかもしれないが。


「ところでジーくん、どうしてシーちゃんを抱えているの?」


「ん?」


 フィリーネの指摘に、俺は下を見下ろした。俺の視界のほとんどは、透き通るような水色の髪が占めていた。というのも、俺は膝の上にシャルロットを抱えていたからだ。

 何故かと問われれば、


「見ての通り、甘やかしているだけだが?」


 以前、頑張っている褒美として甘やかしてほしいと願ったシャルロットを見て、俺は思ったのだ。シャルロットと、もっとスキンシップを取るべきだと。

 クリスティーネやフィリーネと違い、シャルロットはあまり自己主張をしない子である。何か言いたいことがあったとしても、内に抱え込んでしまう子だ。


 そんな子が、初めて自らの願いを口にしたのである。俺としては、その意思を尊重してやりたいのだ。もっとも、撫でる髪の手触りのよさが気に入ったという思いも、幾分か含まれているのだが。

 シャルロット本人も嫌がっている様子はないので構わないだろう。まぁ、少し恥ずかしそうに頬を染めていたりはしているが。


「シーちゃんだけずるいの。不公平なの」


「そう言われてもな」


「えっと……すみません……」


 シャルロットは子供だが、フィリーネは既に一人前の大人なのである。それでなくても、日頃からスキンシップの多いフィリーネである。わざわざ膝にのせてスキンシップを取る必要はあるまい。

 だが、そんな俺の態度に不満があるのか、左隣に座るフィリーネは俺に腕を絡めてきた。


「膝に乗せて欲しいとは言わないの。でもフィーにもそういうことして欲しいの。具体的には添い寝とか! 添い寝とか!」


「それ以外にないのか? それに、添い寝ならこの前しただろう」


「えっ?」


「あっ」


 思わず、シャルロットの頭を撫でていた手を止め、反射的に口元を抑える。

 そうだった、クロイツェル家でフィリーネやユリアーネと共に寝てしまったことは、誰にも言っていないことなのだった。他言するつもりはなく、心に仕舞っておくつもりだったのだが、つい口から出てしまっていた。


 冷や汗が背を流れ落ちるのを感じていると、右隣に座るクリスティーネが半目を向けてきた。


「ジーク、どういうことなのかな?」


「いや、それはだな……」


「ジークさん……」


「違うんだ、シャル」


 その後、俺はミスリルゴーレムの精算が終わるまで、延々と弁明、もとい言い訳を続けることとなった。

 心なしか、クリスティーネとシャルロットからの心象が下がったように思えた。

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