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146話 しばらくの休息3

 俺は宛がわれたクロイツェル家の部屋の大きなベッドで微睡んでいた。いよいよ、明日が出立の日だ。随分と長居をしてしまったが、翌日の朝にはこのクロイツェル家を出て王都へと向かうこととなる。

 必需品も買い込んだし、道具の点検も完璧だ。体も毎日動かしているし、体調も良好である。


 最終日くらいはだらだらしようと、俺は大きなベッドで大の字となり、昼寝をしようとしていた。そうして意識が途切れかけたところで、扉を叩く音が聞こえた。


「あ~……俺だ」


「ジーくん、入るの」


「お邪魔します、お兄様」


 少しぼんやりとしたまま返事を返せば、フィリーネ・ユリアーネ姉妹の声が聞こえた。続いて扉が開く音がして、二人分の足音が部屋へと入ってきた。

 俺はのろのろと、首だけを入口方向へと向ける。


「あぁ、二人ともどうし――」


 言いかけ、驚きに目を開く。

 俺の部屋へと入ってきた二人は、随分な薄着をしていたのだ。最低限の布地しか存在しないような服で、剥き出しの二の腕や太ももの白さが眩しかった。別に下着姿と言うわけではないのだが、正直に言って、目のやり場に困る格好だ。


 俺は顔を正面へと戻すと、咳ばらいを一つ。そうして、横目でチラチラと伺いながらも口を開いた。


「んんっ、二人とも、何か用か?」


「ジーくんにお礼をしに来たの!」


「来たのです」


「お礼?」


 はて、礼を言われるようなことがあっただろうか。思い返してみると……まぁ、心当たりがなくはないな。ダンジョン絡みのどれかだろう。それ以外に思いつかない。

 だが、具体的に何の礼なのかは今一つ思いつかなかった。

 俺は首を捻りながらさらに問う。


「どのことだ?」


「フィーの方は、治癒術で助けてもらったことなの。ユーちゃんは……ん~、言ってしまえば、全部なの?」


 そう言って、ユリアーネを後ろからぎゅっと抱き締めて見せる。

 なるほど、治癒術で助けたと言えば、ミスリルゴーレム戦だろう。あの時、ゴーレムの放った拳を受けたフィリーネを、治癒術で治療した時の事を言っているようだ。

 ユリアーネの方はやや漠然としていたが、おそらくダンジョンから生きて帰ったことを言っているのだろう。俺達の協力失くして生きて帰れなかったことを思えば、礼くらい言いたくなる気持ちもわからないではない。


 だが、俺はゆるゆると首を横に振って見せた。


「俺達はパーティなんだから、助け合うのは当然だろう? ユリアーネを助けたのだってフィナの妹なんだし、当たり前のことだ」


 これは俺の本心である。もちろんパーティ内であっても助けてもらえば礼くらいは言うだろうが、それについても当時簡単に礼は言われている。こんな風に、改まって言われるほどではない。

 そもそも、仲間内で変に遠慮なんかしていては、いざというときに動きが鈍ってしまうだろう。こういうことはさらっとで良いのだ。


 ユリアーネにしたって、助けるのが当たり前である。フランクに頼まれていたというのもないわけではないが、別に頼まれていなかったとしても、あの状況では命懸けで守っていただろう。

 これについても、別に改めて礼を言われるようなことではない。


「それでも、お礼をしたいって思ってるの。ね、ユーちゃん」


「はい、お兄様。是非ともお礼をさせてください」


「まぁ、それなら素直に受け取っておくが……」


 別に礼を拒否しているわけではない。

 有り難く頂戴しておこうと思っていると、フィリーネが両腕を怪しく動かしながらこちらへと近寄ってきた。


「んふふ、許可も出たことだし、さっそくお礼をするの」


「待て、何をする気だ?」


 その様子に怪しいものを感じ、俺はベッドの上で小さく後退った。どこかで感じたことのあるような雰囲気だ。

 あれはいつだったか……そう、ユリウスと言う貴族の護衛依頼を受け、呪術師のオスヴァルトを破った後のことだ。その後、部屋で休もうとしたときに、先に部屋にいたフィリーネの雰囲気と似ていた。


 だが、そんな俺の様子にフィリーネはきょとんとした表情を作った。


「何って、お礼なの」


「礼ならもう受け取っただろう?」


 俺の問いに、フィリーネはふるふると首を横に振って見せる。綿のように柔らかな白い髪が、ゆらゆらと宙を泳いだ。


「礼を言いたいんじゃなくて、したいの。大丈夫、変なことはしないの。本当なの。信じてほしいの」


「そう言うところが余計に怪しく感じるんだよ!」


 俺はフィリーネの伸ばした両手に自らの指を絡ませ、がっしりと握りあう。そのまま何もさせるものかとばかりに組み合う俺の傍へ、おずおずと言った様子でユリアーネが近寄ってきた。


「あの、お兄様にマッサージをさせていただけませんか?」


「マッサージ?」


「はい。お兄様は、きっとお疲れだと思って」


 ユリアーネの台詞に、ふむと考え込む。マッサージであれば、別に許可を出してもよいのではないだろうか。

 特に疲れているというわけではないが、礼をしたいという二人の気持ちに嘘はないだろうし、拒否をするほどの事でもない。少なくとも、抱き着かれて添い寝されるよりかは、余程健全だと思うのだ。


 少し考え、問題ないと結論付けた俺は一つ頷いて見せた。


「それくらいなら、まぁいいか」


「本当は背中を流そうと思ってたんだけど、父様にばれたらうるさそうだと思ったの。またの機会にしておくの」


「思いとどまってくれて、安心したよ。そのまま一生見送ってくれ」


 俺はほっと息を吐いた。折角、二人の父のフランクとはいい関係を築いているのだ。ここにきて、恨まれるようなことはしたくはない。

 そうして両手を放したところで、フィリーネがパタパタと俺の体を軽く押す。


「それじゃ、ジーくんはうつ伏せに寝るの」


「こうか?」


 その言葉に、俺は素直に従い顔を下にしてベッドに寝転ぶ。

 その間に、フィリーネはユリアーネと共にベッドの上へと膝立ちになった。


「んふふ、それじゃユーちゃん、フィーが肩の方をやるから――」


「――私は腰ですね、フィー姉様」


 どうやら一人ずつではなく、同時にマッサージしてくれるらしい。

 大人しく横になって待っていると、肩と腰とに手が当てられた。


「それじゃジーくん、始めるの」


「痛かったら、言ってくださいね」


 そうして、二人の手によるマッサージが始まった。

 他人に体を触られるというのはむず痒くもありつつ、なかなかに気持ちのいいものだった。力加減も丁度良いもので、あまりの気持ちよさに俺は次第にうとうととしてくのだった。


 気が付いた時には、夕陽が差し込む時間帯だった。心なしか体が軽くなったように感じつつ左右へと目をやれば、フィリーネとユリアーネが同じベッドの上で、左右を挟む形で寝息を立てていた。

 ご丁寧にも、俺の体の上には二人分の白翼による天然の羽毛布団が掛けられていた。

 この様子なら、俺達が寝ている間に誰かが訪ねてきたということもないのだろう。俺は内心の安堵に小さく溜息を吐くのだった。

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