143話 ダンジョンからの帰還2
ダンジョンから帰還した翌々日、俺達は再び『石造りのダンジョン』に訪れていた。
さすがに昨日は疲れも溜まっていたため、一日を休養日に充てている。最も、道具の手入れや訓練といった、最低限のことはしているが。
さて、再びダンジョンを訪れた理由であるが、それはもちろんミスリルゴーレムの素材を回収するためである。
そのまま放置していては、いくらここが人気のないダンジョンとは言っても、別の冒険者に回収されてしまう恐れがある。
折角のミスリルなのだ、回収しない手はないだろう。そのためにも、俺は昨日のうちに全員分のマジックバッグの『空間拡張』や『軽量化』といった魔術を掛け直したのだ。
ダンジョンを連日彷徨い歩いたおかげか、それともミスリルゴーレムを倒してレベルが上がったのかは定かではないが、またいくらか魔術の腕も上がったようだ。
間違いなく、効果量は以前よりも上がっていた。これなら、すべての素材を持ち帰ることもできるだろう。
そうして、俺達は再びダンジョンの六階層に足を踏み入れていた。
扉を潜った先には、二日前と同じ状態でミスリルゴーレムの残骸が地面に転がっている。
「改めて見てみると、やっぱりでかいな」
ミスリルゴーレムの胴体に手を触れ、俺は思わず嘆息を漏らす。
ゴーレムの腕一本を取っても、俺が両手で輪を作ったよりも太いのだし、胴の厚さに至っては俺の身長を越えている。
「本当に、とんでもない魔物だったね……ジーク、よく倒せたよね?」
「まぁ、ギリギリだったけどな」
勝ち方を思い返してみれば、あまり自慢する気にもならないものだ。
一撃で仕留めたと言えば聞こえはいいが、それだって一か八かの賭けであった。
実際には追い詰められての行動だし、俺の全魔力を注ぎ込んだ全属性の剣技が通用しないという可能性だってあったのだ。
その場合、全員死んでいたことだろう。本当に、上手く核石を砕けて良かったと思う。
それに、と俺はミスリルゴーレムの切り裂かれた断面を見下ろしながら口を動かす。
「こいつが純粋なミスリルゴーレムだったら、死んでいただろうな」
「純粋なって……どういうことですか?」
首を捻るシャルロットに、「見てみろ」と言ってゴーレムの断面を指差した。
そこは、丁度色の変わり目である。青白い光沢のある金属と、鈍色の金属との境目がそこには存在した。
「青白いのがミスリル、それでこっちは黒魔鉄だな。こいつは黒魔鉄の素体に、ミスリルの鎧をかぶせたようなゴーレムなんだよ」
そう、ゴーレムの中心部はすべて黒魔鉄製で、その外側をミスリルが覆っているような状態だったのだ。
それでもミスリルの厚さは掌ほどにもなってはいたが、すべてがミスリルで構成されているよりも、遥かに強度は劣ることだろう。
純粋にミスリルだけで構成されたゴーレムだったら、どうなっていただろうか。
まず、今のように断ち切ることは出来なかったことだろう。肝心なのは核石だが、そこまで刃が届いたかどうかも怪しいところだ。
それを思うと、こいつが所謂張りぼてのミスリルゴーレムで助かったというわけだ。最も、張りぼてとは言っても十分に強力な魔物で、俺達は追い詰められていたわけだが。
純粋なミスリルゴーレムと比較するとミスリルはずっと少ないので、そう言う意味で言うと残念ではある。まぁ、その場合だと俺達はきっと助かっていないので、張りぼてでよかったと思うべきだろう。
「さて、それじゃ解体を始めるか」
俺は腰に手を当て、ゴーレムの残骸を眺めながら口に出した。
残念ながら、そのままの状態でマジックバッグに入れることはできない。というのも、マジックバッグの取り出し口以上のものを中に入れることはできないからだ。そのまま入れようとしても、引っ掛かってしまうのである。
マジックバッグの口はこの時のために、大きく開けるように作り変えてある。とは言っても、腕や足をそのまま入れるのが限界であるが。それに、腕や足でも繋がった状態では重すぎて持ち上げられないだろう。
そういうわけで、解体が必要なのである。
「でもジーくん、どうやって解体するの?」
転がったゴーレムの腕をぺしぺしと叩きながら、フィリーネが首を捻る。
ゴブリンやオークといった魔物であればナイフで解体しているのだが、さすがにここまで硬い大物の魔物を解体できる道具など、持っていないのだ。
それでも是非持ち帰りたいとなれば、もう無理矢理にでも解体するほかないだろう。
「クリスとフィナは、関節を剣で攻撃してみてくれるか? 一度は脚を折れたんだし、できなくはないだろう?」
「わかった、やってみるわ!」
「うぅ、疲れそうだけど、仕方がないの」
「頼む。俺の方では、胴体を解体できないか試してみるから」
腕や脚は関節を破壊して細かくすれば、マジックバッグにも入ることだろう。
だが、胴体となるとそうはいかない。俺の手によって斜めに両断されているとは言っても、まだまだ大きすぎるのだ。
そこで、俺は解体用ナイフを用いてミスリルゴーレムの胴体を細かくすることにした。もちろん、普通にやっても歯が立たないのは明白である。
だが、俺にはこのゴーレムを真っ二つにしたという実績があった。その時と同じように、ナイフに全属性の魔力を注ぎ込めば、きっと切れ味が増すことだろう。
「あの、ジークさん。私は何をすれば……」
おずおずといった様子でシャルロットが胸の前で両手を握る。
「そうだな……クリスとフィナと一緒に、関節を壊せるか試してみてくれるか? 無理そうなら、俺の手伝いをしてくれると助かる」
「は、はいっ、頑張ります!」
正直に言うと、氷の魔術では強度が足らないため、ゴーレムの関節を壊すのは難しいのではないかと思う。だが、とりあえず試してみるのは悪いことではないだろう・
無理そうであれば、胴体を解体する俺に手を貸してくれればいい。シャルロットは氷以外にも水の魔術が使えるので、解体で出た屑などの洗浄といった部分で役立ってくれることだろう。
そうして、俺達はゴーレムの解体に当たることとなった。
やはりというべきか、解体には戦闘に費やしたのと比ではないくらいの時間がかかった。まさか、ダンジョン内でもう一泊する羽目になるとは。一応、こうなることを見越してフランク達には事前に伝えてはいたのだが。
結局、ゴーレムの解体は翌日の昼まで続いた。
全属性の魔力を込めた解体用ナイフでゴーレムの解体が出来たのは僥倖だった。何本かナイフを駄目にはしてしまったが、無事マジックバッグに入るサイズまで解体することが出来た。
こうして、俺達は大量のミスリルを手に入れることができたのだった。
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