14話 ゴブリン討伐依頼4
ゴブリンキングは倒したが、すぐに気を抜くことはできない。少数とはいえ、周囲にはまだゴブリンの姿があるのだ。
俺は再び剣を構え直した。
それでも、残りのゴブリン達を倒すのにそれほどの時間は費やさなかった。ゴブリンキングが倒されて動揺しているのか、ゴブリン達の動きは鈍く、精彩を欠いた様子だった。
最後のゴブリンを打ち倒し、俺は大きく息を吐く。今回の依頼で、ここまで苦戦するとは思わなかった。その原因となった、一際大きな体躯を見下ろす。
そもそも、何故ゴブリンキングがいたのだろうか。まぁ大方、村人の見張っていない夜にでも出入りしていたのだろう。
それでも、冒険者ギルドでは依頼を貼り出す前に事前調査はしているはずなので、調査員が見落としたのは間違いない。これは戻ったら冒険者ギルドに文句を言う必要があるな。
「ジーク、これで依頼は終わり?」
「後は洞窟内の確認だな」
クリスティーネが小首を傾げながら問うのに対し、俺は洞窟の方へと目線を向けた。おそらく中にゴブリンは残っていないと思うが、確認は必要だ。
光の魔術を使用して光源を確保し、二人して洞窟へと入っていく。中は涼しく、意外にもなかなか快適な環境だ。俺達人間にとっては、少々天井が低いのが難点だろうが。
途中分かれ道などもあるが、すべての道を確認していく。道にはゴブリン達の食べた跡だろう、骨などが散乱していた。
特に期待していたわけでもないが、目ぼしい物は見つからなかった。まぁ、ゴブリンの巣などでは宝物など見つからないだろう。
すべての道を確認し終え、クリスティーネと共に洞窟の外へと出る。丁度陽の高い時刻のようで、俺は思わぬ明るさに陽に手を翳す。結局、洞窟の中にはゴブリンは一匹として残っていなかった。
再びゴブリン達が住み着いてもいけないので、洞窟の入口を土魔術で塞いでいく。そこまで依頼にはなかったものの、これも必要なことだろう。
クリスティーネと手分けして、倒したゴブリン達から魔石を剥ぎ取っていく。女性冒険者の中にはこの剥ぎ取りを嫌がる者もいるのだが、クリスティーネは特に気にした様子がない。先程の戦いぶりと併せても、やはり冒険者には向いていると言えよう。
ゴブリンキングからは、通常のゴブリンより二回りは大きな魔石が取れた。これはそれなりの値段で売れるだろう。ゴブリンキングの使用していた鉈と併せて水魔術で洗浄し、背負い袋へと放り込む。
残った死体は一纏めにし、穴に放り込んだうえで火魔術で焼いて処理だ。残しておくと、ゴブリンの死体にひかれてまた別の魔物が現れかねないからな。
最後に穴へと土を被せ、ぐるりと辺りを見渡す。少し戦いの後が見て取れるくらいで、他には変わった様子はない。これで依頼は完了だろう。
「これで本当に終わりだね!」
「あぁ、とりあえず村に帰ろう」
クリスティーネが笑顔で声を弾ませるのに対し、俺も笑みを浮かべる。ゴブリンキングがいるのは予想外だったが、無事に任務は完了だ。
本当に、クリスティーネと来ていてよかったと思う。一人だったら、依頼達成を諦めて逃げ帰っていただろう。
広場から引き上げ、村へと戻る。途中、村人達が見張りをしていた場所に立ち寄ったが、村人の姿はなく天幕も片付けられていた。
ゴブリン達を倒したのを確認し、村に報告へ帰ったのだろう。
クリスティーネと共に村へと戻ると、村長のハンスが俺達を出迎えてくれた。
やはり、見張りに立っていた村人から先ぶれが行っていたようだ。
「お疲れ様です、お二人とも。ゴブリンの討伐が終わったと聞きましたが」
「あぁ、まさかゴブリンキングがいるとは思わなかったが……」
「すみません、我々が見ている限りではいなかったはずなのですが……」
討伐対象が任務の内容とは異なっていた場合、冒険者にとっては命が危険なわけだが、ここで村人に対して怒りをぶつけても仕方がない。
戻って冒険者ギルドに報告すれば、いくらか報酬も上乗せされることだろう。
彼らも悪気があって隠していたわけではないのだし、ここはできる冒険者っぽく振舞っておこう。
「まぁ、倒したんだから問題はない。これで依頼は完了だ」
実際にはちょっと危なかったのだが、さも余裕だったように言ってみる。
傍で見ていたクリスティーネが口を挟まないところを見るに、意外と周りからは余裕に見えたのかもしれない。
まぁ、結局負傷らしい負傷はしていないのだから、結果的には余裕だったとも言える。
「ありがとうございます。お二人はこれからまだお仕事ですか?」
「いや、この後はネーベンベルクに報告に戻るくらいだな」
「でしたら、ご一緒に昼食でもいかがですか?」
「ごはん! ジーク、食べていこうよ!」
「そうだな。ご相伴に与ろう」
丁度昼時であるし、街に戻る前に食事をしようと思っていたのでありがたい申し出だった。そのまま村長の家で、村長の奥さんが作った昼食をご馳走になる。
後は街に戻るだけなので、俺もクリスティーネのように腹いっぱいになるまで頂いた。
そうして村人の礼を背中に受けながら、ネーベンベルクの街への帰路につく。
街に着いたのは陽が赤く染まる夕方だ。俺達は街へと着いたその足で冒険者ギルドへと向かう。
依頼報告は翌日でも構わないのだが、折角なので今日中に報酬を受け取り、初任務達成記念に外で食事でもしようということになったのだ。
冒険者ギルドへと入ると、依頼を受けた時と同じ女性が受付にいたため、そちらへと足を運ぶ。
「お疲れ様です。依頼の報告ですか?」
「そのことなんだが……」
俺はカウンターに背負い袋を乗せると、中からゴブリン達の魔石とゴブリンキングの魔石、それからゴブリンキングの使用していた鉈を取り出した。
そうして受付の女性に見せつけるようにゴブリンキングの魔石を摘み上げる。
「依頼はゴブリンの群れ討伐だったが、ゴブリンキングが混じっていたぞ」
「本当ですか?! ……確かに、ゴブリンキングの魔石ですね」
目を丸くした女性が乗り出すように体を前へと動かす。その両の瞳は、俺の持つゴブリンキングの魔石へと注がれていた。
ゴブリンの魔石と同種に見えるが、その大きさからして普通のゴブリンと異なることは一目瞭然である。
確認を終えた女性は、困ったように眉尻を下げる。
「すみません、手違いがあったようですね」
「まぁ、無事だったからいいが、次からは気を付けてくれ。ついでに、報酬でも上げてくれれば助かるんだが」
「それはもちろんです。依頼報酬の上乗せと、買取に色を付けさせていただきますね」
ハンスからサインをもらった依頼証と冒険者ライセンスを差し出し、依頼報酬と素材の売却額として予定より多くの金銭を得ることができた。
クリスティーネと折半しても、数日分の生活費にはなるだろう。
「それから、クリスティーネさんの冒険者ランクはFランクでしたよね?」
「そうだよ! 冒険者にはなったばかりだもん!」
「でしたら、今回の任務達成でEランクに上げておきますね。冒険者ライセンスを出してください」
「いいの?!」
「二人組のパーティでゴブリンキングを倒せるのであれば、少なくともDランクはありますから。さすがに依頼達成数が少なすぎてDランクには上げられませんので、Eランクで我慢してください」
俺がEランクに上がるまではもう少し時間を要したが、その時はまだ駆け出しで薬草採取などの簡単な依頼ばかりだった。
俺の目から見ても、クリスティーネの実力はDランク相当はあると思うし、冒険者ランクを上げるのは妥当な判断だろう。
さすがに俺の冒険者ランクをCランクへ上げることはできないようだ。もう少し実績が必要だろうし、俺自身まだ実力が足りないように思う。
そうしてクリスティーネの冒険者ランクを上げ、俺達は冒険者ギルドを後にした。




