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138話 対ミスリルゴーレム戦1

「こいつは、ミスリルゴーレムってやつか」


 俺は頬に冷や汗が流れるのを感じながら、正面に立つ魔物の名前を呟いた。

 アイアンゴーレムがゴーレムという魔物の中でも中くらいの強さだとすると、ミスリルゴーレムはそのさらに上位に位置する魔物である。

 ゴーレムは総じて頑丈な魔物であるが、目の前の魔物には生半可な攻撃など虫が刺したようなものだろう。


 俺の言葉に、隣に立つクリスティーネが、首を傾げながらこちらを振り返る。


「ミスリルって、あのミスリル?」


「あぁ、武器や防具に使う素材だな。その硬度は魔鉄以上で、並の剣では歯が立たないらしい。それでも、他のゴーレムと同じで関節は比較的脆いというから、核石を砕けば動きは止まるはずだ」


 ミスリルゴーレムの胸の辺りには、他のゴーレムと同様に赤く輝く核石が埋まっているのが見える。あれを砕けば、他と同じように動きを止めることだろう。


「ミスリルゴーレムって、他のゴーレムと違って四本足なんですね」


 後方から、シャルロットのどこか感心したような声が聞こえた。まぁ、明らかに形状が異なるのだ、気にもなるだろう。

 だが、その認識は誤りだ。


「いや、こいつが特別なんだろう。本で読んだ限り、ミスリルゴーレムは普通に二本足だったはずだ」


「そうなんですか?」


 シャルロットの言葉に小さく頷きを返す。

 魔物について記載された本では、どのゴーレムも所謂人型、二足歩行として描かれていた。少なくとも、目の前にいる四脚のゴーレムについての記載はなかったと記憶している。


 脚が増えるとどうなるのだろうか。あまりダンジョンには潜って来なかったため、こういった魔物とは戦った経験がなく動きの予想が付かない。

 少なくとも、全体の安定感と言う意味では二本足より上ではあるだろう。


「ジーク、どうしよう?」


 どうするかとは、戦うべきか、無視するかだろう。

 出来れば、戦いたくはない。今でもアイアンゴーレムを相手にするのが精いっぱいなのだ。その上位種ともなれば、さらに危険度は増している。

 ミスリルゴーレムを迂回し、向こうの扉まで行くのが最も安全だろう。


 だが、目の前に立つ魔物はそれを許してくれそうにはない。ミスリルゴーレムには、何故か今までのゴーレムとは異なり頭部に目のような意匠が存在した。最も、目の数は一つ、単眼であったが。

 あれが目としての機能を備えているのかは定かではないが、その向き先は間違いなく俺達に注がれている。十中八九、ミスリルゴーレムは俺達の存在に気が付いているだろう。そもそも、遮蔽物の存在しないこの空間で、身を隠すことなど不可能だ。


「戦うしかないな。皆、気を付け――」


 言い終わらないうちに、ミスリルゴーレムが動き出した。一直線に、俺達の方へと向かってくる。


 ――速い。


 その速度は想像以上の速さだ。

 四脚というのが、上体の安定にも繋がっているのだろう。ミスリルゴーレムは前傾姿勢を崩さないまま、こちらへと猛進をしてきた。

 ゴーレムの四脚は土煙を上げ、激しく轟音を打ち立てる。踏み潰されるだけで、即死するであろうことは明白だ。


「フィナ、シャルとユリアを連れて少し下がれ! クリス、俺と前へ! シャル、援護を頼む!」


 矢継ぎ早に指示を出し、俺は剣を構えてミスリルゴーレムへと向かう。

 待ち構えるわけにはいかない。シャルロットとユリアーネを、ミスリルゴーレムに近付かせるわけにはいかないのだ。


 まず、ユリアーネの身の安全が優先である。そこは、フィリーネに任せておけばいいだろう。

 距離さえあれば、シャルロットは魔術で十分に戦力となってくれる。

 後は、俺とクリスティーネで前線を支える。


 至近距離で対峙したミスリルゴーレムから感じる圧力は、アイアンゴーレムの比でなかった。下から見上げるその巨体は、もはや城壁と言っても過言ではない。

 頭上からは、柱程の太さを誇り、その実それ以上の密度を持ったミスリル塊が自由落下以上の速度を以て打ち下ろされる。


 乱打される金属塊を、俺は姿勢を低くし細かなステップで躱していく。

 浮けばその隙を狙われるのは明白だ。

 故に、俺は地に吸い付くような姿勢でゴーレムへと肉薄した。


 だが、ゴーレムの猛攻はそれだけに止まらない。

 地を跳ねる俺を目掛けて、ゴーレムの巨腕が風を切りながら振り回される。

 直撃すれば、全身の骨が砕けるのは間違いない一撃だ。


 掠っただけで致命傷を負いかねないその攻撃を、時には体を仰け反らせ、時には倒れ込みそうなほどに身を低くしながら躱していく。

 ゴーレムの腕が、脚と同じ四本ではなく通常通り二本であって助かった。もし四本もあったのなら、今頃俺は地の上に倒れ伏して挽き肉になっているころだろう。


 そうしてゴーレムの攻撃を掻い潜る中、刹那の間に見つけた隙へと剣技を叩き込む。


「『裂衝剣』!」


 初っ端から様子見ではない本気の一撃だ。

 身を躱す間に練り上げた魔力を、中級剣技に乗せてゴーレムの膝裏へと解き放つ。


「『光龍曻剣』!」


 俺と同時に、クリスティーネも剣技を放ったようだ。剣を振り切った態勢の前で、光の龍がゴーレムの関節部を突き抜けるのが視界の端に移った。


 手応えはあった。

 俺の剣は、間違いなくミスリルゴーレムの関節部を捉えていたはずである。

 だが、俺の剣はゴーレムの関節部に僅かな傷をつけたのみで、その動きに変化は見られない。


「ジーク、すっごく硬い!」


「こっちも同じだ!」


 クリスティーネの大声に、俺も叫ぶように返す。

 アイアンゴーレムには通じたクリスティーネの剣技も、ミスリルゴーレム相手には軽微な損傷しか与えられないらしい。

 こいつは長期戦になりそうだ。

 俺はこれからの戦いを思い、舌打ちを一つ漏らすのだった。

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