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137話 石造りのダンジョン13

 『石造りのダンジョン』の六層目で転移の魔法罠に掛かってから、既に四日が経過した。五日目となる今日も、俺達はダンジョン内を彷徨い歩いている。

 これまでに四階層を探索し、四度階段を上っている。順調に地上に近づいてはいるはずなのだが、未だ見知った地形には行き当たっていなかった。


 ここに来るまでにも、アイアンゴーレムとは何度も遭遇していた。最初に遭遇した時のように、時に軽傷を負うこともあったものの、幸いにも致命傷を負うようなこともなく全員が無事に済んでいる。

 ロックゴーレムほど軽々と狩れるとまではいかないが、無傷で済むことも増えてきており、予定外ながら俺達の実力は順調に上がっていると言えるだろう。


 俺は地図から顔を上げ、同行者の様子を窺い見た。

 先頭を歩くクリスティーネも隣のシャルロットも、大分疲労が蓄積しているようだ。道中でも時折休憩を挟み、階段付近ではしっかりと睡眠も取っているのだが、やはりダンジョンの中と言うことで気が休まらないのだろう。


 その中でも、特に心配なのがユリアーネだった。日に日に口数が少なくなり、足取りも遅くなっているようである。

 元々、体力のあまり多くない子だ。気を付けてみるようにはしているが、限界は近そうである。


 それでも、前へと進まなければ状況は変わらない。俺達はこの日も、出口を求めてダンジョンの中を歩き続けていた。

 途中で昼休憩を挟み、再び歩き始めてしばらく経った頃のことだ。俺達の眼前に、どこか見覚えのある大きな扉が姿を現した。


「ジーク、あれ!」


「クリス、止まれ! 罠があるかもしれない。慎重に近づくぞ」


 前方の扉を指差し、駆け寄ろうとするクリスティーネを押し止める。

 再び罠に掛かり、またどこかに飛ばされるようなことになれば目も当てられない。俺は地面に魔力を流して罠の有無を確認しながら、ゆっくりと扉へと歩み寄った。

 幸いにも、罠の類などはなかったようだ。俺は内心拍子抜けしながらも、扉に軽く手を当てる。そうして、じっくりと扉の観察を始めた。


 扉には鍵穴が存在しなかった。少なくとも、こちら側から施錠することは出来なさそうだ。見上げるほどに巨大な扉には全体に装飾が施され、どこか荘厳な雰囲気を感じさせた。


「これって、六層目にあった扉かな?」


「どうだろうな。確かに似ているように思うが、同じような扉が他の階層にもある可能性はあるからな」


「でも、この扉を開けたら五階層に続く階段があるかもしれないの」


 フィリーネの言葉に、シャルロットとユリアーネの表情が明るくなる。

 確かに、今までの道中では同じような扉を見かけていないのだ。六階層で見た扉の先が、今いる場所と言う可能性は十分に考えられる。

 五階層にさえ戻ることができれば、ダンジョンから出るのもそれほどの時間は必要ない。


「とにかく、開けてみるしかないな」


 俺は扉に両手を掛け、両足で踏ん張り扉を開けんと力を入れる。だが、扉はびくともしなかった。

 ならばと身体強化をするが、若干の手応えはあったものの、扉が開く気配はなかった。随分と重い扉である。


「クリス、フィナ、手伝ってくれ」


 いっそ壊してしまおうかとも思ったが、先に力押しを試してからでもよいだろう。

 二人の力を借りたところで、ようやく扉が少し動いた。そのまま押し続け、人一人が通れるだけの隙間を開ける。


「さて、向こうの様子は……」


 扉から見えた先の光景に、俺は目を細める。

 今までダンジョン内は常に青白い光で満たされていたというのに、どういうわけか扉の向こうは暗闇が支配していた。少なくとも、五階層へと向かう階段があった、あの通路ではなさそうだ。


「暗いの」


「何も見えませんね」


「少し待ってくれ。すぐに明かりの魔術を」


 俺は内心の落胆を隠しつつ、魔術の光球を生み出した。それを操り、扉の向こう側へと滑り込ませる。

 両掌に乗る程の大きさの光球が、ぼんやりと辺りを照らし出す。だが、扉の向こうは広い空間になっているのか、周囲に壁などは見当たらずどこまでも闇が広がっていた。


 俺はさらに追加で光球を二つ生み出し、正面と左右に展開させる。それでも広がる暗闇の中、ただ地面が続いているのが目に入った。


「とりあえず、入ってみよう」


 振り返って言葉を掛ければ、揃った頷きが返る。

 それから俺達は、一人ずつ扉の向こうへと身を滑り込ませていった。

 扉の内側に入った俺達の周りを、光の球が照らしている。その範囲は十歩弱と言ったところだろうか。


 アイアンゴーレムと対峙する可能性を考えると、少々心許ない視界である。大分アイアンゴーレムを相手にするには慣れてきたものの、こうも暗いと普段通りに動くのは難しいだろう。

 特に、不意に出くわした場合が怖い。


「俺が前に出る。皆、慎重に進むぞ」


 俺は地図を懐に仕舞うと、剣を抜き先頭に立った。こうも視界が悪ければ、地図など持っていたところで何の意味もないだろう。それよりも、俺がクリスティーネと共に前衛を務めたほうが遥かに安全だ。

 俺達は一丸となって少しずつ進み始めた。普段の進みよりも遅いのは、それほど周囲を警戒しているからだ。


 だが、その歩みもすぐに止まることとなった。

 突如として、俺達を青白い光が照らしだしたのだ。

 それと同時に、後方からまるで扉を閉ざしたような大きな音が鳴り響く。


 突然の光は、ここに来るまでにも散々見てきた、ダンジョン内の壁や天井から発されてきた光と同じものだった。

 暗闇に突如照らされた光はあまりにも眩しく、俺達は一時的に視界を奪われる。それでも完全に目を閉ざすわけにはいかず、俺は身を固くしたまま目を細めるにとどめた。


 やがて視力が回復し、周囲の状況が見て取れるようになる。

 俺達がいたのは、広間のようなところだった。半球状と言えばいいのだろうか、椀を逆さまにしたような空間が広がっている。

 そして正面、遠くの方には、先程入ってきたときと同じような扉が鎮座していた。


 今度こそ六層目で見た扉かと喜びたいところだったが、そうはいかなかった。

 俺達の視線を一身に集めたのは向かいにある扉ではなく、部屋の真ん中に存在した大きな影である。


 アイアンゴーレムよりも、さらに二回りは巨大な体躯。

 腕の太さは目算で二倍ほど。体積に換算すると八倍である。

 そして脚も二倍である。それも、太さだけでなく数までときたものだ。

 四脚の巨大な脚が大地を抱き留め、その上に乗る巨体を支えていた。

 まるで自身も光を発しているような青白い光沢のある材質は、アイアンゴーレム以上の輝きを放っていた。


 俺達の前に現れたのはアイアンゴーレムなど比較にもならない特殊な金属、ミスリル製のゴーレムだった。

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