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136話 石造りのダンジョン12

「よし、こんなもんでいいだろう」


 俺はたった今作り上げた建造物を見ながら、軽く額を拭った。

 俺達の目の前には、石造りの箱が存在していた。俺が土魔術で作り上げた、四角い大きな箱である。


 箱と言うからには、中身は空洞である。高さは丁度俺が手を伸ばした程度、幅と奥行きは共に五歩くらいと言う、それなりの広さの空間だ。

 青白く光る壁に沿って土壁を築き、同じく左右を壁で囲い、天井も覆ったものである。唯一面のない前側には、上から大きな布を垂らしている。それが入口代わりだ。


 何故こんな空間を作ったかと言うと、それは就寝のためである。始めはその場に寝転がってみたのだが、あまりにも壁や天井の青白い光が眩しいのだ。これでは気になって眠れないだろう。

 そんなわけで、寝床を拵えたというわけである。中に毛布を敷き詰めてみれば、意外なほど快適な空間が出来上がった。こんな感じの部屋をいくつか作れば、例えダンジョン内でも生活できることだろう。


「それでは、先に休ませて貰いますね」


「お兄様、おやすみなさい」


「あぁ、しっかり休んでくれ」


 女性陣が軽く手を振り、布の奥へと消えていくのを見送る。別に、男女で寝床を分けているというわけではない。

 寝るためのスペースを作るにあたり話し合ったのだが、男女で別々の寝床を作るのは、魔力の消費を考えると無駄だと結論が付けられたのだ。


 それだけでなく、万が一魔物の襲撃があった場合、一箇所に固まっていた方が安全だと考えられたためである。

 では何故俺が一人外に残ったのかと言うと、もちろん見張りのためである。

 階段の近くに魔物は寄り付かないとされ、事実これまでも階段付近で魔物の姿を見かけることはなかった。しかし、さすがにダンジョン内で見張りも置かずにぐーすか眠りこけるわけにはいかないだろう。


 そんなわけで、俺は通路を正面に置きながら時間潰しに読書を始めた。わざわざ光源を魔術で作らなくても良いのは、ダンジョンの利点かもしれない。


 それからどのくらい経っただろうか。背後で布の擦れるような音がしたため、俺は手元の本から目を上げた。

 寝床から出てきたのはクリスティーネだった。こちらへと近寄り、隣にある椅子代わりの岩へと腰を下ろす。


「どうした、クリス。眠れないのか?」


「うん、ちょっとね」


 まぁ、気持ちはわからなくもない。野宿でもそうだろうが、今回はダンジョンの中なのである。俺だって、横になったとしても熟睡など、とてもではないができないだろう。

 隣に座ったクリスティーネは、俺の手元を覗き込んだ。


「それって、剣術の指南書?」


「あぁ、そうだ。ちょっと思うところがあってな」


 クリスティーネの言う通り、俺が目を通していたのは剣術について記載された書物である。初心者用の基本的なものではなく、剣への魔力の注ぎ方などが詳細に書かれた属性剣関係の本である。


「アイアンゴーレム相手だと、俺達はそれなりに苦戦してるだろう? 何とか火力を上げられないかと思ってな」


 早い話が、アイアンゴーレムが斬れるようになればずっと楽なのだ。そうすれば両腕両足を落とし、剥き出しになった核石を簡単に壊せることだろう。

 だが、事はそう簡単なことではい。何しろ鉄の塊を切れるようにならなければならないのだ。俺の剣は鉄より丈夫な黒魔鉄製とは言え、鉄を楽々斬れるようなものではない。


 ならば中級剣技や属性剣技を使用して威力を上げるべきなのだが、既にそのあたりは一通り試している。関節当たりの比較的脆いところなら通用するようだが、さすがに胴体などには効果が薄かった。

 上級剣技を使えるようになるのは、まだ先のことだろう。それでも出来れば、今すぐにでも火力を上げられるような手段が欲しいところだ。


 そんな思いで目を付けたのが属性剣技である。属性剣技をうまく扱えば、今以上に威力のある攻撃を出来るのではないだろうか。

 もちろん、単体では初級剣技より少し強いくらいでしかない。だがそれならば、複数属性を掛け合わせてはどうだろうか。


 例えば、魔術には合成魔術と言う、複数の魔術を組み合わせたものがある。合成魔術は単一の魔術と比較して、飛躍的に破壊力が上昇するのだ。

 それと同じことを剣術にも応用できないのかと考えたのだ。だが、今のところはそのような記述には至っていない。おそらく、複数の属性剣技を扱えるものが少ないためなのだろう。


 そう言ったことを話してみれば、ふんふんと相槌を打っていたクリスティーネが、感心したように息を吐いた。


「ジーク、いろいろと考えてるんだね」


「そりゃな。強くなるためには、ただ剣を振ってるだけじゃ限界があるだろ」


 もちろん冒険者の中には剣を振っているだけで強くなるような者もいるだろうが、残念ながら俺は天才ではない。

 しかし、折角『万能』といういろいろな力を使える能力があるのだから、それを有効活用できれば、もっと上を目指せると思うのだ。


「ジークは偉いなぁ……それに引き換え、私はジークに頼ってばかりで……ごめんね」


 そう言って、クリスティーネは足元に視線を落とした。

 だが、その言葉に俺は首を捻るばかりである。そこまで、クリスティーネは俺に頼りっぱなしだっただろうか。


「そんなことはないだろ? 今日はフィナもそうだが、いつもクリスが一番前線で体を張ってるじゃないか」


 役割的に仕方ないところもあるが、俺はシャルロットと共に後方から魔術で援護をしている。ゴーレムに至近距離で対峙し、激しい攻撃を躱しながら核石を砕いているクリスティーネの方が、余程負担が大きいことだろう。

 実際、今日だって少なからず怪我まで負っているのだ。

 だが、俺の言葉にクリスティーネはゆるゆると首を横に振って見せた。動きにつられて、長い銀の髪が光を反射する。


「戦いのときはそうかもしれないけど、作戦を立ててくれるのも、地図を作ってくれるのもジークでしょう? それだけじゃなくて、食事も作ってくれて、寝る場所だって、ジークが用意してくれてるじゃない」


 そうやって並べられると、確かに俺はいろいろとやっているようにも思える。

 だが作戦を立てるのは、特に明言をしてはいないが一応パーティリーダーである俺の役目だろう。地図を作るのはそういう作業が得意だからだし、その代わりに地図を見ている間の周囲の警戒はクリスティーネ達に任せている。


 食事の支度だって単純に料理が好きだというのもあるし、特に今日は女性陣が体を洗っている間の時間の有効活用である。寝床を俺が用意したのは、そもそも俺以外に土魔術を使える者がいないからだ。

 一つ一つ考えてみれば、何れも理由があるのである。


「そんなに気にすることないだろ。互いに補い合うのがパーティなんだ。クリスはよくやってくれてるよ」


 事実、クリスティーネがいなければ今以上の苦戦は必至である。

 ロックゴーレム相手ならフィリーネだけでも代わりは出来るだろうが、アイアンゴーレムとなるとそうはいかない。その場合は俺も前線で戦い、時間をかけて関節当たりの破壊を狙うことだろう。


 励ますように銀の髪に片手を乗せれば、クリスティーネが口元を緩めた。そうしてしばらくの間、無言でいると、クリスティーネが突然その場に立ち上がった。


「決めた! 私、もっと強くなるわ! 強くなって、ジークに頼ってもらえるようになる!」


 そう言って、決意を表すように両の拳を握って見せた。

 その姿に、俺は小さく苦笑する。


「今でも十分、頼っているさ」


 それから少しの間、俺達は他の者達を起こさないよう、静かに語り合うのだった。

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