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13話 ゴブリン討伐依頼3

 前方には二十匹ほどのゴブリン達がいた。そのほとんどは、クリスティーネの放った魔術に驚きその場から動いていない。

 しかし、その中には動きのいいゴブリンもいたようだ。数匹ほどが、すでにこちらへと走り出している。


 俺はゴブリン達へと向かいながら、左手を突き出し魔術を行使する。


「『炎の槍(フラム・ランツェ)』!『落とし穴(フォル・ラント)』!」


 ゴブリン達へと炎の槍を飛ばし、次いで落とし穴を生み出す。炎の槍はこちらへと向かっていたゴブリンの一匹に命中し、その頭部を赤く包んだ。

 また別のゴブリンは突如として生み出された落とし穴に反応できず、足を取られてその胸のあたりをしたたかに穴の淵へと打ち付けた。


「『強き光の槍リヒト・シュタルク・ランツェ』!」


 少し遅れて、クリスティーネの生み出した二投目の光の槍が再びゴブリンへと放たれた。それは狙い違わず、一匹のゴブリンの頭部へと吸い込まれた。

 これでまた一匹、数が減った。


 剣が届く距離まで迫ったゴブリンを、袈裟懸けに斬り払う。狙い澄ました一撃はゴブリンの首を撥ね飛ばし、一瞬でその命を奪っていた。

 そのまま、続々とやってくるゴブリン達を一匹、また一匹と倒していく。ゴブリン達に、後ろに回り込んで挟撃するというほどの知能は無いようで、俺から一定の距離を取って扇状に展開していた。

 これなら一度に全てのゴブリンを視界に収められるので、取り囲まれるという心配はなさそうだ。


「『光の槍(リヒト・ランツェ)』! 『光の槍(リヒト・ランツェ)』!」


 横目でクリスティーネの様子を窺えば、初級魔術でゴブリン達を牽制しながら、うまく立ち回っているようだ。

 事前に忠告した通り、やや引き気味に戦っているようで、まだ余裕はあるように見える。あの調子であれば問題はないだろう。


 ゴブリン達の数が減ってきたところで、洞窟から新たなゴブリン達が現れた。どうやらこちらでの騒ぎに気付いたのようだ。

 近くのゴブリンを剣で倒しつつ、奥の方から駆けてくるゴブリンへと魔術を放つ。


 その時、洞窟の奥から一際大きな体躯が現れた。

 肌は他のゴブリンと同じように黒味がかった深緑色だ。その尖った耳も鼻も、ゴブリンの特徴に合致する。しかし、その大きさが他とは異なった。


 一般的なゴブリンの背丈は俺の腰ほどしかないが、そいつはクリスティーネと同じくらいはあるだろう。

 手足も普通のゴブリンは枯れ枝のようなものだが、そのゴブリンは引き締まった筋肉が見えた。さらに、その手には大きな鉈のような武器を握っている。


「ゴブリンキングだと?! 聞いてないぞ!」


 俺は驚愕に思わず声を発していた。

 ゴブリンキングと言うのは、ゴブリン千匹に一匹生まれるなどと言われる、ゴブリンの上位個体だ。

 遭遇したのは初めてだが、その強さはオークを凌ぐという。相手をするなら少なくともDランク、出来ればCランクは欲しいとされる魔物である。


「グガ、グガガガッ!」


 大声を上げ、ゴブリンキングがこちらへと走り出す。

 対する俺も、ゴブリンキングの方へと向かう。あれをクリスティーネに任せるわけにはいかない。


「あれは俺が抑える! クリスは周りのゴブリンを頼む!」


「わかった! 気を付けて、ジーク!」


 走りながら振り上げた剣を、ゴブリンキングの頭部を狙って勢いよく振り下ろす。ゴブリンキングはそれを、両手で構えた鉈の刃で受け止めた。

 ガツンという音と共に剣がとまり、ゴブリンキングの濁った眼と睨み合う。


 そのまま拮抗するかと思ったが、ゴブリンキングの鉈に押され、じりじりと後退する。僅かながら、筋力ではあちらのほうが上回っているようだ。

 しかも、この場にいるのはゴブリンキングだけではない。周囲にはゴブリン達がまだまだいるのだ。今もまた、そのうちの一匹が小さな刃物を振り上げて左側から俺へと迫っていた。


「ちぃっ! 『石の槍(フェルズ・ランツェ)』!」


 ゴブリンキングの鉈を弾きながら後退し、左から迫るゴブリンへと石造りの槍を放つ。放たれた岩塊は確かな質量を以てゴブリンの歩みを押し止めた。

 さらに、俺は跳ねるように近づくと体勢の崩れたゴブリンへと剣を振り下ろし、その息の根を止める。


 それからすぐにゴブリンキングへと向き直り、迫る鉈を剣の腹で受け止める。そこから先は近接戦闘だ。

 力では及ばないが、技術なら負けてはいない。ゴブリンキングの振り回す鉈を、剣で受け流し反撃を試みる。


 しばらくは膠着状態での打ち合いとなった。俺とゴブリンキングの力量は互角のようで、後はふとした切欠で天秤が傾くことだろう。

 再度、横合いから飛び出してきたゴブリンが、手に持つナイフを俺へと投擲してきた。俺は身を捻じるようにしてそれを躱そうとするが、僅かにナイフは足を掠めた。


 ぐらりと体勢が崩れそうになるところを両足に力を入れて踏み止まるが、揺らいだ上体が無防備に胸を晒した。

 その隙を突くように、ゴブリンキングが鉈を振り下ろす。


「しまっ……!」


 すべてがスローモーションに感じられる。

 防御は間に合わない。

 せめて身体強化で耐え抜こうと、マナを注ぎ衝撃に備え――


「『光の盾(リヒト・シルト)』!」


 ――高い声と共に現れた光の盾が、ゴブリンキングの一撃を受け止めた。


 その盾は衝撃にひび割れ中空へと煙のように消えてしまったが、俺が体勢を整えるには十分な時間だった。


「クリス、助かる!」


「任せて! 『光の槍(リヒト・ランツェ)』!」


 盾の魔術を使用したクリスティーネが、続けて光の槍をゴブリンキングへと放つ。死角から放たれたそれは、狙い澄ましたようにゴブリンキングの右膝を撃ち抜いた。

 ゴブリンキングがたまらずに片膝をつく。攻勢に転じるには絶好の機会だ。


 地を操る初級魔術を行使し、ゴブリンキングの左足を地面へと埋める。

 ゴブリンキングの持ち上げた右腕が、ゆらりと宙に揺らいだ。


「『速撃剣』!」


 一足で踏み込み、腕を狙って下から斜めに勢いよく切り上げれば、ズッという音と共にゴブリンキングの右腕が鉈を持ったまま宙を舞った。

 切断面からは赤黒い液体が勢いよく溢れ出る。


 切り離したゴブリンキングの右腕が、その勢いのまま斜め前方へと飛んでいくのには目を向けず、俺は両手に持つ剣を真っ直ぐに振り下ろした。


「『重撃剣』!」


 俺の剣は狙い違わずゴブリンキングの首へと突き立てられ、綺麗にその頭を撥ね飛ばした。軽い音と共に頭が地面へと落下し、残る体は力を失ったように崩れ落ちる。

 地面に転がったゴブリンキングの瞳は、すでに光を映していなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 序盤のゴブリンのなかでも個体差があって、そういうリアリティのある描写が素晴らしいです。戦闘場面も緊迫感があり、手に汗握る展開で読んでいて楽しかったです。 [一言] ゴブリンキングとの戦闘、…
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