128話 ダンジョン探索の合間2
「ジーク、どうしたの?」
部屋へと入ってきたクリスティーネが、首を傾げながらも俺の方へと近寄ってきた。その後ろには、シャルロットとフィリーネの姿も見える。三人とも、少し前に俺が部屋へと呼んだのだった。
今は『石造りのダンジョン』の五層目を攻略した日の夜である。フィリーネの父であるフランクに借りた一室に、俺は三人を集めたのだった。
俺は三人に座るようにと促した。俺の座るソファーの隣に、クリスティーネが腰を下ろす。それを見て、少し残念そうな顔をしたフィリーネがテーブルを挟んだ向かい側に座り、さらにその隣にシャルロットが腰掛けた。
俺は目の前のテーブルに目線を落としつつ口を開く。
「明日、もう一度ダンジョンを探索しようと思うんだ」
俺の言葉に、三人が意外そうな表情を見せる。そして、再度首を捻りながらも、代表するようにクリスティーネが口を開いた。
「でもジーク、ダンジョンって、一通り回ったんだよね?」
その言葉に、俺は頷きを返す。
確かにクリスティーネの言う通り、ダンジョンは隙間なく探索を終えたはずである。すべての道を確認した結果、目ぼしい成果は得られなかったというのだから寂しい話だ。
そんなダンジョンを、もう一度探索するとなれば三人が不思議に思う気持ちもわかる。
もちろん俺がそう考えたのには理由があるのだが、そのためには説明が必要だ。
「みんな、まずはこれを見てくれ」
そう言って、俺は前方にあるテーブルを指差した。
テーブルの上には、今まで俺が確認していた数枚の紙が広げられていた。
「これって、地図……ですよね?」
その紙を見たシャルロットが、確認するように口にした。
その言葉通り、テーブルの上に広げられたのは『石造りのダンジョン』の各階層の地図である。道すがら、俺が書き記したものである。
「うわぁ……なんていうか、売り物みたいに綺麗だね」
「ジーくん、几帳面なの」
「こういうのは得意なんだ」
クリスティーネ達が感心したように溢すのに対し、俺は少し得意げに返した。
これも『万能』のギフトの影響なのか、はたまた単に俺が器用なだけなのかはわからないが、こういった細かい作業と言うのは得意なのだった。
ダンジョン内の道程は正確に表現され、歩幅を元に割り出された距離までが反映されている地図は、曲がり角の合流なども寸分の狂いなく表現されている。
これが人気のあるダンジョンの地図であれば、複製して大量に売れたことだろう。そう言う意味でも、このダンジョンの人気がないところが悔やまれる。
「それで、これがどうしたの?」
確かに素晴らしい地図だとは思うが、それがどうしたのかといった様子でフィリーネが首を捻る。
「よく見てくれ。何かに気付かないか?」
そう言って、俺は一層目から五層目までの地図を横並びにして見せた。
三人はしばらく首を傾げながら地図を端から端まで眺めていたが、シャルロットが何かに気付いたように顔を上げた。
「あの、なんとなくなんですけど……」
「あぁ、間違っていても怒らないから、言ってみてくれ」
胸の前で両手を組み、おずおずといった調子で口を開いたシャルロットへと続きを促す。
「階段の位置が、似てるなって……」
「えっ? ……あ、ほんとだ!」
「言われてみれば、そんな気がするの」
シャルロットの言葉に改めて地図を眺めていたクリスティーネとシャルロットが、感心したように言葉を発した。
その様子を眺めながら、俺は深く頷きを見せる。
「あぁ、俺もそう思ったんだ。一層目から五層目まで、上り階段と下り階段が同じ距離感であるみたいなんだ」
俺の言葉に、三人は揃ってほぅほぅと感心したように頷きを見せていた。だがしばらくして、フィリーネが「ん?」と首を捻る。
「各階層で同じ位置に階段があったら、どうなるの?」
「それはだな――」
俺は一度言葉を区切り、右手を前へと伸ばす。そうして、五層目の地図のある一箇所を指差した。
「――ここには、六層目への階段があるんじゃないかってことだ」
その言葉に、クリスティーネが弾かれたように顔を上げた。
「それって、隠し階段があるってこと?!」
「あぁ、その可能性がある」
そう告げると、クリスティーネとフィリーネの目が一様にキラキラと輝きだした。シャルロットだけは不思議そうに首を傾げている。
何しろ隠し階段だ。わざわざ隠されているということは、その先に何かがあるという事だろう。しかも、入口が塞がれていることから言って、前人未踏である確率が非常に高い。
もしかしたら、その先にはお宝などもあるかもしれない。
「行ってみようよ、ジーク!」
勢い込むクリスティーネに、賛同するようにフィリーネが何度も頷きを見せる。それを抑えるように、俺は掌を差し出した。
「あくまで、その可能性があるというだけだ。むしろ何もなくて、このダンジョンがやっぱり五階層目までだった、という確率の方が高い」
何となく地図を眺めていて、思いついただけなのだ。隠し階段など、いくらダンジョンと言っても早々あるものではないだろう。
だが、もしもあったとしたら。
人気のないダンジョンなのだし、ここまで精巧な地図を作れる冒険者はそうはいないため、まだ誰にも気づかれていないという可能性はある。
「それでも、確かめてみなくっちゃ! きっと、階段の向こうには伝説のお肉とかがあるに違いないの! ねっ、フィナちゃん!」
「クーちゃんに賛成なの。その向こうにはお宝がいっぱいなの。金銀財宝ざっくざくなの」
クリスティーネとフィリーネがきゃいきゃいと明るい声を出す。これで何もなかった日には、しばらく出歩けないほど落ち込みそうである。もっとも、今のうちから水を差す気はないが。
「まぁ、そういうわけで、確認くらいはしておこうと思ってな。また明日、ダンジョンに行ってみよう」
「わかったわ! 楽しみ!」
こうして明日の予定も決まった。
それから俺がテーブルに広げられている地図を纏めていると、部屋の扉が外から叩かれた。
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