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12話 ゴブリン討伐依頼2

 ハンスの案内で森へと入り、しばらく歩くと少し開けた場所に布の天幕が建てられていた。その向こうは崖になっているようで、二人の青年が崖の下を見下ろしている。

 青年達は近付く俺達に気付いたようで、その場でこちらを振り返る。ハンスはそれを押し止めるように片手を上げ、青年達の傍へと立ち眼下を見下ろした。


「村長、そちらは?」


「依頼を受けてきてくださった冒険者の方じゃ。それで、様子はどうじゃ?」


「今のところ、これと言って変わった動きはありませんね」


 俺とクリスティーネも青年達と同じように崖の際へと立ち、下の方を見下ろす。崖の下は三方向を壁で囲まれた広場のような構造になっており、そこにゴブリン達が集まっていた。

 唯一開いた右手側は森へと続いており、左の壁には洞窟でもあるのか穴が空いているようだ。


 俺はその様子を見て眉を寄せた。ゴブリン達の住処はあの崖下にある洞窟の中だろう。そうすると、洞窟の中にもゴブリンがいることになる。

 それなのに、見える範囲でもゴブリン達は既に二十匹はいるのだ。想像以上にゴブリンの数が多い。


 それでも、引き受けた以上は依頼を遂行するつもりだ。そのためには崖下へと降りなくてはならない。

 いくら身体強化があると言っても、さすがにこの高さから飛び下りるのは危険だろう。


 クリスティーネならその背の翼で空を飛べるため、短距離なら運んでもらうという手もあるのだが、それだと確実に崖下のゴブリン達に見つかってしまう。

 出来れば気付かれないうちに数を減らしてしまいたいので、崖下へは回り込むのが得策だろう。


「ハンス、下に下りる道はあるか?」


「えぇ、ここから右手に行くと徐々に低くなっておりまして、そちらから回り込めますよ」


 それなら、道に関しては心配しなくて良さそうだ。後は、ゴブリン達とどう戦うのかが問題だろう。

 俺が前衛で後ろからクリスティーネに援護してもらおうかとも思ったが、この数を俺一人が相手取るのはさすがに無理だろう。


 そうなると、二人して魔術で牽制しつつ、数を減らしていくのがいいだろう。見晴らしは良く、広さも十分にあるため引き気味に戦えば囲まれる心配もなさそうだ。

 この辺りの戦い方は、後でクリスティーネと共有する必要があるな。


 それから少しの間、村人達とゴブリン共を観察していたが、特に変わった様子はなかった。

 魔物の中には極稀に特殊個体が生まれることがあるというが、今回のゴブリン達は至って普通の魔物のようだ。これなら特に問題はないだろう。


 その後、崖下へと続く道を軽く確認した後は、ハンスと共に村へと戻る。青年二人はもう少し崖の上に残るようだ。

 とは言っても、火を使えばゴブリンに見つかるし、夜は崖下など全く見えなくなるため、夜の間は見張りを立てないらしい。


 村へと戻った俺達は、村長の家で一泊することになる。夕食をご馳走になったのだが、クリスティーネは遠慮などせずに汁物のおかわりを頼んでいた。

 この半龍の少女、オークの肉を大量に食べていた時はあまりに空腹だったのかと思ったが、基本的に大食いらしい。

 半龍族が大食いだという話は聞いたことがないため、種族的なものというわけではなく、単にクリスティーネの食い意地が張っているだけだろう。


 そうして迎えた翌日、俺はクリスティーネと共にゴブリン達から少し離れた森の中に身を潜めていた。時刻は朝と昼の丁度間頃、軽く体を動かして準備は万全だ。

 俺は顔を上げ、昨日崖下を見下ろしたあたりに目を向ける。今も村人が見張っているはずだが、その姿は見えなかった。丁度、木の陰になっているようだ。


 俺は崖上から隣に立つクリスティーネへと視線を移した。その顔に緊張の色は見えず、ほどよく肩の力も抜けているようだ。この様子であれば、十分に体も動かせるだろう。今もまた、軽く体を捻って動きを確かめているようだ。

 さらに正面へと顔を戻す。未だゴブリン達はこちらに気付いた様子はない。ほとんどのゴブリンは無手だが、武器を手に持っているものもいた。武器持ちを優先的に狙った方がよさそうだな。


「よし、クリス、最終確認だ」


 俺は再度クリスへと顔を向ける。一応、ゴブリン討伐に当たって、クリスとは簡単な作戦を用意しておいた。


「ん、まずは私の魔術だね!」


「そうだ。武器持ちを狙ってくれると助かる」


 先日の素材採取の時のように、まずはクリスティーネの中級魔術によってゴブリンの数を少しでも減らす。

 同時に俺も初級魔術を行使するつもりだが、おそらくそれでは仕留めきれないだろう。それでも、ゴブリン達の足並みを乱すことはできるはずだ。


「魔術を使ったら森から出て、前に進みながらもう一度魔術を使うんだよね?」


「あぁ、森の中で戦うのは避けたいからな」


 森の中は入り組んでいて、剣を振るのも一苦労である。ゴブリンの体格は小さいため、俺達よりも向こうの方が動きやすいはずだ。

 わざわざ森で戦うよりも、平地で戦う方が楽だろう。


 俺達が前へと出れば、こちらに気付いたゴブリン達が向かってくるはずだ。それを、魔術で迎撃する。

 そうすればゴブリン達がこちらへと来るタイミングがズレるはずなので、一匹ずつ処理をしていく予定だ。たとえ相手の数が多くても、一匹ずつなら十分に対処できる。


「剣の届く距離まで来たら、少し引き気味に戦うんだぞ。囲まれないように、決して深追いするな」


「わかったわ!」


 クリスティーネの返事に、頷きを返す。作戦としてはこれですべてだ。

 見える範囲のゴブリンをすべて倒し終えたら洞窟の中も確認するが、おそらく戦いが始まれば洞窟内のゴブリンすべてが出てくることだろう。


 一応、本当に危なくなったら飛んで逃げろとクリスティーネには言ってある。弓持ちもいないことだし、そんなことにはならないとは思うが。

 クリスティーネが詠唱を開始し、狙いを定めるように左手を前へと突き出す。俺はいつでも走り出せるように、身体強化をして身を低くした。


「『強き光の槍リヒト・シュタルク・ランツェ』!」


 クリスティーネの左手から、光の槍が放たれる。それは一直線に武器を手にしたゴブリンへと迫り、その身を貫いた。

 それと同時に、俺は前へと走り出した。

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― 新着の感想 ―
[一言] そこら辺の書籍化追放ものより面白いです。マジで。
[良い点] 主人公が戦略を立て、元気なクリスティーネと頑張る、という流れが楽しみです。大量のゴブリンをうまく捌けるのか興味がつきません。 [一言] よく食べる子って好印象で可愛らしいですね!
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