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114話 白翼の少女の故郷1

「見えてきたの! あれが私の生まれた町!」


 そう口にしたのは、前方を指差してこちらを振り返った、ふわふわと綿のような白髪を持つ少女、フィリーネだ。いつもは表情の変化が乏しい少女なのだが、やはり故郷は懐かしいのか、少し喜んでいるようにも見える。

 そんなフィリーネの様子を少し珍しく感じながら、俺は少女の指差す方向へと目を向けた。


 フィリーネの指差す方向には、その言葉の通り町が見えていた。

 全体的な様相は、小さな田舎町といった印象だ。少なくとも、王都やオストベルクの町とは比べるべくもない。背の低い建物が多く、街中にも木々の緑が良く目についた。

 王都などの大きな町では家々が密集していたが、この町では家と家との感覚がそれなりに空いている。道行く人々の数を見ても、人口は見ての通りそこまで多くはなさそうだ。


 少しそわそわとした様子のフィリーネを先頭に、俺達は町の入口へと辿り着いた。それから外壁に設けられた門の傍に立つ、兵士の元へと歩み寄る。


「おや、旅の方。フォーゲルベルクへようこそ」


 そう言う兵士の男の背には、大きな茶色の翼があった。フィリーネと同じ、有翼族なのだろう。

 その男に対し、俺は片手を軽く上げて応じた。


「あぁ、旅の冒険者だ。町に入っても構わないか?」


「えぇ、あまり見るところはありませんが、静かな良い町ですよ。ごゆっくりどうぞ」


 兵士の男は笑顔で俺達を通してくれた。小さな町だからなのか、入るのにややこしい手続きがいらないのは楽だな。

 門を潜り、町の中へと足を踏み入れる。


 そうして町の中へと入ると、まず正面と左右へと続く道が目に入る。そしてどの道の脇にも民家が立ち並んでいた。

 軽く見渡しただけでも、すべての家に庭が付いているのがわかる。王都などの都会と異なり、土地が余っているためだろうかと見当をつける。


「それで、まずは宿を探すか?」


 俺は前方のフィリーネの背へと問いかけた。

 今は陽の傾く夕方頃だ。この町に滞在するのであれば、宿に泊まる必要がある。

 フィリーネがこの町出身なので、宿の場所も知っていることだろう。そう思って問いかければ、前を歩くフィリーネが白の大翼を揺らしてくるりと振り向いた。


「宿になんて、泊まる必要ないの。フィーの家に泊まればいいの」


「フィナの家にか?」


 なるほど、フィリーネの生まれた町なのだから、ここにはフィリーネの実家があるのだろう。そこにフィリーネが帰ろうとするのは、ごく自然なことである。

 だが、と俺は左右に目線を振った。その先にあるのは、隣を歩くクリスティーネとシャルロットの姿だ。

 フィリーネはともかくとして、俺とクリスティーネ、シャルロットまで泊まってよいものだろうか。


「迷惑にならないか?」


 一人ならまだしも、三人となるとそれなりの数である。フィリーネの家の大きさなどは聞いていないが、負担になるのは間違いないだろう。

 もちろん、人様の家に厄介になるのであれば、細かい文句など言うつもりはないが。


「問題ないの。部屋は余ってるはずだし、三人を持て成すくらいはわけないの」


 あっけらかんと言い放ち、フィリーネは再びくるりと前を向いて俺達を先導し始めた。土地勘のない俺達としては、その後に続く他ない。

 しかし、と俺は小さく息を吐いた。


 フィリーネの言葉からは、何の問題もないといった様子が感じられた。てっきり、俺とクリスティーネとシャルロットは一部屋で雑魚寝となるのだろうと思っていたが、どうも口振りからは一人に一部屋用意するつもりらしい。

 歩きながら左右に目をやれば、やや広めの敷地を持った家々が目に入る。土地が余っているこの町であれば、どの家もそれなりの部屋数があるのかもしれない。


「有翼族の方が多いですね」


 俺と同じように、町をきょろきょろと眺めていたシャルロットが呟いた。確かに、先程から見かける町の人のほとんどは背中に翼を持っている。これほど有翼族を頻繁に見かけるのは初めてのことで、ついつい目で追ってしまう。

 色合いとしては茶色系統が多いだろうか。少なくとも、フィリーネのような見事に綺麗な純白の翼は見かけない。


「この町の住人は、そのほとんどが有翼族なの。人間族が一割、その他の種族が一割……だったと思うの」


 前を歩くフィリーネがこちらへ横顔を晒しつつ答える。

 さながら有翼族の町といったところだろうか。

 フィリーネの生まれ育った町ならばと、フィリーネとクリスティーネは普段町に入る時には隠している翼や尻尾を今は露わにしているが、それでも注目を集めているらしい。

 半龍族であるクリスティーネはもちろん、純白の翼を持つフィリーネも十分に珍しいようだ。


 そうして歩くことしばらく、フィリーネは一軒の家の前で立ち止まった。


「着いたの。三年振りの我が家なの!」


 そう言って、大きく両手を広げて見せる。

 そんなフィリーネの後ろで、俺は思わず目と口を大きく開くのだった。


 俺達の目の前にあるのは、周囲に並ぶ家と比べても明らかに大きな家だった。

 もちろん、王都やオストベルクの町で訪れた貴族であるユリウスの屋敷よりは小さい。それでも、明らかに普通の庶民の家ではなかった。


「フィナ、本当にこの家か? 間違えてないか?」


 俺は目の前の家を指差しつつ問いかけた。

 だが、フィリーネは俺の問いにゆるゆると首を振る。


「そんなことないの。間違いなく、懐かしの我が家なの」


 そう言うと、堂々とした足取りで正面に見える扉へと向かい進み始める。俺はクリスティーネとシャルロットと顔を見合わせ、その後をそろそろと追うのだった。

 その間にも、左右へと注意深く視線を彷徨わせる。扉へと続く道の左右には広い庭やよく手入れのされている様子の花壇などが見えた。

 明らかに周囲に立ち並ぶ家々より格式高いその様子に、思わずゴクリと喉が鳴る。


 やがて扉へと辿り着いたフィリーネは、何の躊躇いもなく扉脇に備えられた呼び鈴を押した。

 少し間を置いて、扉が内側へと開かれる。


 中から現れたのは、初老に差し掛かったくらいの女性である。例に漏れず、その背中には有翼族の特徴である翼があった。


「はい、どちら様で……」


 そう柔らかく告げる女性の目が、次第に大きく見開かれる。

 その様子を目にしながらも、フィリーネは変わらぬ調子で告げた。


「ノーさん、久しぶりなの。フィー、帰ってきたの」


 その言葉に、初老の女性は大層驚いた様子だった。口元に両手を当て、大きく息を吸った。


「フィリーネお嬢様?!」


 その言葉が俺の脳に届くまでには、少しの時間を要した。

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